英語。言うまでもなく世界で最も広く通用する言語であり、海外に出向く場合は間違いなく検討することになる代物である。
最近では東京オリンピックの開催、教育カリキュラムの変更もあり、国内でも需要が増していくだろう。
電車内には様々な形で英語の重要性を説いた広告が一つ、二つは見受けられる。
しかし、実態はどうだろう。
いくら詰め込みとはいえ中高で六年もの教育を受け、英語の学習法については色々な媒体で色々な方法が提示されているのにも関わらず、結局は「知らない」「分からない」に行き着いてしまう。
数学や化学といった分野ならまだ分かる。公式や証明については、どうしても専門知識や計算が入ってしまうし、日常生活での接点も少ない(重要なのは間違いないが)からだ。
対して英語はどうか。日本語と同じ言語である。当たり前だが英語圏の人は上手下手はあれど、ほぼ確実に英語を話すことが出来るだろう。
どうしてこうも難しいのか。普段の生活で使わないのは他の教科と同じだが、どうにも毛色が違う気がする。
何か「受け入れることを拒絶している」かのような、そんな違和感だった。学生時代はそれが嫌でまともに取り合おうともしなかったし、それでも生きていけると思っていた。
ところが生憎なことに、仕事で「英語が必要になってしまった」。
仕事終わりに書籍を使って一か月ほど勉強したが、英語力は勉強前と変わらない。単語、文法、会話表現、何かがおかしいと思いながらも詰め込んでみるが、翌日には綺麗さっぱり消えてしまう。
このままだと恥を晒してしまうが解決策が見えない。どうしたものかと英語関係の書籍を探してみた時に、本書と出会った。
タイトルと帯にある「英語を話せなかったわけ」に一目ぼれして購入した。
開いて早々、目次の構成でやられた。
要約すると「私たち(日本人)は英語について何も分かっていない」ときている。これはモヤモヤを晴らす鍵になると期待が高まった。
そしてそれは正しかった。序盤における定型文しか喋れない主人公は痛々しい。努力量は間違いなく賞賛に値するレベルなのに、実践となると全く使い物になっていないのだ。
安くはないお金を支払って英会話スクールに出向くが、結果は重苦しい沈黙、あるいは講師の捲し立てで、恥をかく時間ばかり。
おまけに英語教師である主人公には高いレベルの教育が求められていて……
物語の内容自体も面白いし、「英語はこう学習すべきだ」というハウツー部分も頷けるものだった。
ただ、最も心揺さぶられた箇所は、帯にもある「英語が出来ない、そもそもやる気がしない」理由だった。
政治や環境、農業といった小難しい単語は覚えているのに「段ボール」や「とりあえず」といった身近な用語や言い回しが分からない。
語順を無視した(会話では通用しない)英和変換の方法。採点しにくい「発音」や「スピーキング技術」は軽く触れるだけか、そもそもやらない。
英語は得点稼ぎの材料であり、会話用のツールである……
歪だ。そして歪さを何の抵抗もなく受け入れてきた自分がいる。
それは英語を日本語とは違う「非日常」「非実在」の言語として捉え、外国人も日常生活を送り、家族や友人と喜怒哀楽を共にしていることを忘れているからではないのか。
やれグローバルの時代だ、世界と繋がろうと言いつつも、相も変わらず鎖国状態を貫き通しているからではないのか。
現に必要に迫られている今ですら、「英語」というだけで驚くほどに他人事と思う自分がいるのだから。
作中のキャラクターの発言「バカ騒ぎしたい時だけ日本を利用する」という言葉が胸に刺さった。
本書のタイトルであり、物語のきっかけともなる「もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか」という問いかけこそが、
著者の言いたいことのような気がしてならない。
この本を読んでから、私は部屋中のもの、自分がやっていることをひたすら英語に直そうとした。
段ボール、発泡スチロール、取っ手、蓋、落書き、入力する、寝転がる、まとめる。ほとんど全部分からなかった。
使うかも分からないビジネス英語ばかり詰め込んで、近くにあるものを、行為を、まるで理解していなかったのだ。
正直、「ここまでとは」と気落ちした。ただ、今までの勉強における「(結局)分からない」とは少し違った。
まだやっていたい。自己満足の類だったとしても、英語に関心が持てるのならば、それでも悪くないと思えた。
過去に戻って、高校時代の自分に「もしなる」を与えていたら、英語は楽しくなっていただろうか。英語を身近に感じるようになっていただろうか。英語を話せるようになっただろうか。
それは今、「高校四年生」となった私の頑張り次第なのだろう。
内容紹介
英会話スクール、オンライン英会話、ハウツー本……。
すべてに挫折してきて、教育指導要領改定に戦々恐々とする英語教師・桜木真穂。ネイティブスピーカーの同僚を羨み自分に自信を失う中、偶然であった英会話教室で「今までの英語教育の間違い」と「新時代の勉強法」に気づかされる。生徒たちとともに新しい英会話教育へ取り組む真穂だったが、教師の中には快く思わない者もいて――。果たして、真穂は真の「英語教師」になれるのか?
すべてに挫折してきて、教育指導要領改定に戦々恐々とする英語教師・桜木真穂。ネイティブスピーカーの同僚を羨み自分に自信を失う中、偶然であった英会話教室で「今までの英語教育の間違い」と「新時代の勉強法」に気づかされる。生徒たちとともに新しい英会話教育へ取り組む真穂だったが、教師の中には快く思わない者もいて――。果たして、真穂は真の「英語教師」になれるのか?
内容(「BOOK」データベースより)
刊行後反響多数の“もしなる”待望の文庫化!爽快青春小説でわかる、「あなたが英語を話せなかったわけ」。第30回シナリオS1グランプリ入賞作。