だいぶ前になりますが、白石一文が書いた「一瞬の光」を読み、すぐさま「すぐそばの彼方」を読んだ時の感銘を覚えています。共に傑作でした。
「もしも、私があなただったら」(白石一文 文春文庫)を読みました。
大企業を辞め、故郷の博多で小さなバーを営む藤川の前に、かつての同僚の妻・美奈が現れます。彼女はある事を告げて、まるで押しかけ女房のように博多に居座ることになります。
福岡、結婚、離婚、恋人、友人、愛、セックス。それらの組み合わせによって構築される或る「状況」は、過去に読んだ作者のいくつかの作品とオーヴァー・ラップしますね。
言ってしまいましょう。この小説は、40~50代向けの恋愛小説ですが、
①男の作者が女性を描写する時のまるでカタログからその名称を拾い集めたようなファッションは、垢抜けないですね。
②独身男の酒、手料理が殊更登場し、これもまた料理雑誌から書き写したように詳述することは「時代」に媚びているように思えます。
③また、主人公・藤川は、人生、生き方、愛についてまるで心を病んだ人向けのスピリチュアル本のように長々と語ります。そのことは、(そういう意図はないのかもしれませんが、)作者自身がこの小説を解説することになり、とても「恣意的」だと感じられます。
「一瞬の光」の中にそれらはなかったのだろうか?本が近くにないので確認できませんが、あったのでしょう。でも、気づきませんでした。その違いは、小説の中に「一瞬の光」があったのか、なかったのかの違いだけかもしれません。
この長編小説から、上記の①から③を飛ばして読んでみると、追い詰められた上場企業の粉飾決算を背景に、同僚の妻・美奈のいい女ぶりが輝く、そして終盤へ向けてほどほどのサスペンスを醸し出すちょっといい短編のようにも感じられます。
もしも、この小説を読んだあなただったら、どう感じるのでしょうか?
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