人間は、ある意味、物事を「見たいように解釈」しがちである。つまり、嫌われていると思っている相手が何かを話していることを見たならば、まるで自分の陰口を言われているように感じてしまいやすい。実際は、その逆かもしれないが、固定されてしまった「まなざし」によって、マイナスのイメージを受け取ってしまうことが多い。しかし、相手が自分を嫌っているかどうかさえ実際のところはわからないことが往々にしてよくある。かつ、陰口を言われていると断定することは、できようはずがないものだ。
本書の第9章「自分を発見する」の中で、「対象物にまなざしを向けることで風景が生まれるように、主体である自分自身にまなざしを向ける。それは〈私〉を風景化することであり、〈私〉がどのようなまなざしをむけていたのかに気づくことである。そのためには〈私〉と距離をとらねばならない。(中略)そのトレーニングの成果を日々の生活の中で応用し、自分のまなざしをデザインできるのは〈私〉だけなのである。まなざしのデザインが持つ真の意味はそこにある。」ここが本書の最も伝えたい肝の部分ではないかと読み取れる。つまり、まなざし次第で、生き方も変わり得ると著者は主張しているのだ。
さらに最終章である第12章の締めくくりに、「人間が持つ空想という素晴らしい能力は現実を生みだす。だから頭の中で描く空想をどのようにマネジメントするかによって私たちは現実を変えることができる。空想を使って「調和と共生」を目指すのか、それとも「生存と防衛」を目指すのかは、私たちのデザイン次第である。一人でも多くの人が自らのまなざしをデザインし、自由になる人々が増えると、個の生存ではなく私たち全体が生存できるのではないだろうか。」と結んでいる。
著者の様々なデザイン作品や経験を通じて、本書に通底しているのは、自らまなざしを変えることによって(「まなざしのデザイン」)、見方が変わり、考え方も変化し、行動も変わってくるということだと読み取れる。本書は、決してデザインやアート論だけを述べた本ではない。端的に言えば、「哲学書」である。共生の時代に、いかに生きるかの一つのヒントを示してくれる良書であると感じた。
まなざしのデザイン:〈世界の見方〉を変える方法 (日本語) 単行本(ソフトカバー) – 2017/11/13
ハナムラチカヒロ
(著)
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本の長さ321ページ
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言語日本語
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出版社NTT出版
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発売日2017/11/13
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ISBN-104757170491
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ISBN-13978-4757170490
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
『まなざしのデザイン』というタイトルの本書で考えてみたいことは、モノの見方を変える方法である。当たり前の世界を改めて見直し、今見ている風景を違った角度から眺める。見方が自由になれば、私たちはより創造的になることができる。そして何かに捉われることが少なくなれば、物事がより正しく見えてくる。またモノの見方を変えることは、状況が困難であればあるほど必要なことである。私たちは日々の生活の中ですぐに何かに捉われてしまう。モノの見方が固定されてしまうと自由さを失い、物事が正しく見えないことがある。だから私たちは時々視点を変えて異なる方法で世界を見ることが必要である。そうするとこれまで見えなかった風景や、忘れていた大切なことが見えてくるかもしれない。そんなモノの見方を解放するための方法と可能性を探ることが本書の目的である。
著者について
ハナムラチカヒロ
1976年生まれ。博士(緑地環境科学)。大阪府立大学経済学研究科観光地域創造専攻・准教授。バルセロナ大学遺産観光研究所客員研究員。大阪府立大学生命環境科学研究科修了後、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任助教を経て、現職。ランドスケープアートの制作も行い、「霧はれて光きたる春」で第1回日本空間デザイン大賞・日本経済新聞社賞受賞。
1976年生まれ。博士(緑地環境科学)。大阪府立大学経済学研究科観光地域創造専攻・准教授。バルセロナ大学遺産観光研究所客員研究員。大阪府立大学生命環境科学研究科修了後、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任助教を経て、現職。ランドスケープアートの制作も行い、「霧はれて光きたる春」で第1回日本空間デザイン大賞・日本経済新聞社賞受賞。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ハナムラ/チカヒロ
1976年生まれ。博士(緑地環境科学)。大阪府立大学経済学研究科観光地域創造専攻・准教授。バルセロナ大学遺産観光研究所客員研究員。大阪府立大学生命環境科学研究科修了後、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任助教を経て、現職。専門であるランドスケープデザインとコミュニケーションデザインをベースにした風景異化論を元に、空間アートの制作や、映像や舞台などでのパフォーマンスも行う。「霧はれて光きたる春」で第1回日本空間デザイン大賞・日本経済新聞社賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1976年生まれ。博士(緑地環境科学)。大阪府立大学経済学研究科観光地域創造専攻・准教授。バルセロナ大学遺産観光研究所客員研究員。大阪府立大学生命環境科学研究科修了後、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任助教を経て、現職。専門であるランドスケープデザインとコミュニケーションデザインをベースにした風景異化論を元に、空間アートの制作や、映像や舞台などでのパフォーマンスも行う。「霧はれて光きたる春」で第1回日本空間デザイン大賞・日本経済新聞社賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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2020年3月24日に日本でレビュー済み
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2018年6月30日に日本でレビュー済み
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アイデア創出の書は数多あれど、この書は一線を画しています。身に付けることはサブタイトルにもある「<世界の見方>を変える方法」です。
アイデアに煮詰まったときに改めてこの書を見ると、それまでとは異なる切り口で問いに対峙出来るような気がします。
哲学でもあり、社会学でもあり、これこそがリベラルアーツの真骨頂といっても過言ではないでしょう。著者のハナムラ氏との知的ゲームのごとく読み進めていくことで学びの多い書となり、座右の書となっていくことでしょう。
アイデアに煮詰まったときに改めてこの書を見ると、それまでとは異なる切り口で問いに対峙出来るような気がします。
哲学でもあり、社会学でもあり、これこそがリベラルアーツの真骨頂といっても過言ではないでしょう。著者のハナムラ氏との知的ゲームのごとく読み進めていくことで学びの多い書となり、座右の書となっていくことでしょう。
2019年1月14日に日本でレビュー済み
どなたかが紹介していた本だと思う。面白い。
はじめに
第1章 見方を変える
第2章 眼をあざむく
第3章 幻覚を見やぶる
第4章 風景を解剖する
第5章 関係を異化する
第6章 日常を冒険する
第7章 場を組み替える
第8章 芸術を役立てる
第9章 自分を発見する
第10章 無意識を見つめる
第11章 異なりを結ぶ
第12章 空想を働かせる
おわりに
というのが目次で、内容は、研究報告に近いのだが、ポジション=理解の軸は、ユヴァル・ノア・ハラリに近い。人間存在の意識そのもののもつ架空性を鋭く指摘している。
芸術そのものが、マジシャンに近いというのは面白いし、そのような見立てというものの効用の議論も良い。エゴギョウという、陰陽五行説の現代版の紹介もなかなか。
はじめに
第1章 見方を変える
第2章 眼をあざむく
第3章 幻覚を見やぶる
第4章 風景を解剖する
第5章 関係を異化する
第6章 日常を冒険する
第7章 場を組み替える
第8章 芸術を役立てる
第9章 自分を発見する
第10章 無意識を見つめる
第11章 異なりを結ぶ
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おわりに
というのが目次で、内容は、研究報告に近いのだが、ポジション=理解の軸は、ユヴァル・ノア・ハラリに近い。人間存在の意識そのもののもつ架空性を鋭く指摘している。
芸術そのものが、マジシャンに近いというのは面白いし、そのような見立てというものの効用の議論も良い。エゴギョウという、陰陽五行説の現代版の紹介もなかなか。