この小説は、主人公と近い高校生くらいの時期に読んでも、あまり楽しめないと思う。僕自身、昔読んだ時は、主人公の自由奔放で社会秩序を気にもかけないような生き方を理解出来なかったし、不快にすら思った。だが、三十代というオジサンと呼ばれてもおかしくない年齢になってこの小説を読み直してみると、自分でも信じられないほど主人公の内面に共感してしまった。
恐らく、この小説の時田秀美という主人公の事を理解するには、ある程度距離を置いて見ないとダメなのだと思う。近くで見ると、この主人公は眩し過ぎて、かえってその姿を捉え難い。だから同世代にとっては、この主人公に対しては共感では無く反発を感じてしまう。実際時田少年は、不良とまでは言わずとも、かなり不真面目な学生だ。サッカー部、女子にモテる、高校生なのに酒を飲む…最近の言い方をするなら、陽キャ、パリピと言ったところか。特に、ある種の人間ーいわゆるオタク、陰キャ、非リア充ーにとっては、不俱戴天の敵とすら言える。
しかし、そんな陽キャでパリピな時田少年の心の底の悲しみや苦しみを、この小説ではさり気なく、だが克明に描いている。彼は「片親」で「貧乏」で「勉強ができない」。だけど自分は「女にモテる」と、彼自身は開き直る。だが、本人すら半ば気付いていない所で、「片親」「貧乏」「勉強ができない」というコンプレックスは、彼の人格形成に強く影響している。そうでなければ、作中で繰り返し「片親」で「貧乏」で「勉強ができない」事に触れる必要も無い。だからこそ彼は、自分の弱みから目を背けるために、自分の強みである「女にモテる」事に拘っているように思える。(「その程度の不幸で甘えるな」という意見もあると思う。だが、人の不幸への感じ方を第三者がとやかく言うのはナンセンスだ。その事は、「番外編・眠れる分度器」で、時田以上に家が貧乏な赤間ひろ子と時田のやり取りで示されている)。一見リア充な時田の、精神的な弱さ・未熟さ・不安定さを感じ取る事が出来れば、後はもう彼の心の動きに素直に共感し、この小説の醍醐味を存分に味わう事が出来るだろう。
大事なのは、主人公の行為や考え方を「肯定」するのでは無く、ただ「共感」する事だ。ぶっちゃけ高校生なのに飲酒なんて言語道断だし、勉強も出来ないより出来た方が絶対に良い。しかし、そういった「良くない態度」の根底にある主人公の心境について考える事は、決して無駄では無い。そして、そうするためには、ある程度心に余裕が無いと難しい。だからこの小説は、大人になって、学生時代が懐かしい思い出となった世代の方が楽しめる。
そういう訳なので、もし高校生くらいの歳でこの小説を読んで、つまらなかった、不快だったと感じたら、今その感じ方を無理に改める必要は無い。ただ、こういう小説があったという事を、頭の片隅にでも留めておいて欲しい。そして、十年か二十年後くらいに、ふとこの小説を思い出した時に、もう一度読み返してみて欲しい。きっと新たな発見があると思うから。
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ぼくは勉強ができない (新潮文庫) 文庫 – 1996/3/1
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でも、おまえ、女にもてないだろ。
勉強よりも、もっと素敵で大切なことがあると思うんだ。退屈な大人になんてなりたくない。17 歳の秀美くんが元気潑剌な高校生小説。
ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ――。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪い。この窮屈さはいったい何なんだ! 凛々しくてクールな秀美くんが時には悩みつつ活躍する高校生小説。
勉強よりも、もっと素敵で大切なことがあると思うんだ。退屈な大人になんてなりたくない。17 歳の秀美くんが元気潑剌な高校生小説。
ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ――。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪い。この窮屈さはいったい何なんだ! 凛々しくてクールな秀美くんが時には悩みつつ活躍する高校生小説。
- 本の長さ288ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1996/3/1
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104101036160
- ISBN-13978-4101036168
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出版社より
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ひざずいて足をお舐め | 色彩の息子 | ラビット病 | 放課後の音符(キイノート) | ぼくは勉強ができない | ベッドタイムアイズ・指の戯れ・ジェシーの背骨 | |
【新潮文庫】山田詠美 作品 | ストリップ小屋、SMクラブ……夜の世界をあっけらかんと遊泳しながら作家となった主人公ちかの世界を、本音で綴った虚構的自伝。 | 妄想、孤独、嫉妬、倒錯、再生……。金赤青紫白緑橙黄灰茶黒銀に偏光しながら、心のカンヴァスを妖しく彩る 12 色の短編タペストリー。 | ふわふわ柔らかいうさぎのように、いつもくっついているふたり。キュートなゆりちゃんといたいけなロバちゃんの熱き恋の行方は? | 大人でも子供でもないもどかしい時間。まだ、恋の匂いにも揺れる 17 歳の日々──。放課後にはじまる、甘くせつない 8 編の恋愛物語。 | 勉強よりも、もっと素敵で大切なことがあると思うんだ。退屈な大人になんてなりたくない。 17 歳の秀美くんが元気潑剌な高校生小説。 | 視線が交り、愛が始まった。クラブ歌手キムと黒人兵スプーン。狂おしい愛のかたちを描くデビュー作など、著者初期の輝かしい 3 編。〈文芸賞受賞〉 |
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蝶々の纏足・風葬の教室 | アニマル・ロジック | 学問 | 【単行本】血も涙もある | |
私の心を支配する美しき親友への反逆。教室の中で生贄となっていく転校生の復讐。少女が女に変身してゆく多感な思春期を描く 3 編。〈平林たい子賞受賞〉 | 黒い肌の美しき野獣、ヤスミン。人間動物園、マンハッタンに棲息中。信じるものは、五感のせつなさ……。物語の奔流、一千枚の愉悦。〈泉鏡花賞受賞〉 | 高度成長期の海辺の街で、 4人の子供が放つ生と性の輝き。かけがえのない時間をこの上なく官能的な言葉で紡ぐ、渾身の長編小説。 | 私の趣味は人の夫を寝盗ることです──有名料理研究家の妻、年下の夫、そして妻の助手兼夫の恋人。3人が織りなす極上の危険な関係。意外なその後味とは──。 |
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ―。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪いのだ。この窮屈さはいったい何なんだ!凛々しい秀美が活躍する元気溌刺な高校生小説。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
山田/詠美
1959(昭和34)年、東京生れ。明治大学文学部中退。’85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。同作品は芥川賞候補にもなり、衝撃的なデビューを飾る。’87年には『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞受賞。さらに、’89(平成元)年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、’91年『トラッシュ』で女流文学賞、’96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、’05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1959(昭和34)年、東京生れ。明治大学文学部中退。’85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。同作品は芥川賞候補にもなり、衝撃的なデビューを飾る。’87年には『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞受賞。さらに、’89(平成元)年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、’91年『トラッシュ』で女流文学賞、’96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、’05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (1996/3/1)
- 発売日 : 1996/3/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 288ページ
- ISBN-10 : 4101036160
- ISBN-13 : 978-4101036168
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 5,956位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1959(昭和34)年、東京生れ。明治大学文学部中退。’85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。同作品は芥川賞候補にもなり、衝撃的なデビューを 飾る。’87年には『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞受賞。さらに、’89(平成元)年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、’91年 『トラッシュ』で女流文学賞、’96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、’05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞を 受賞する(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 熱血ポンちゃん膝栗毛 (ISBN-13: 978-4101036243)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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2021年1月6日に日本でレビュー済み
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51人のお客様がこれが役に立ったと考えています
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2018年10月9日に日本でレビュー済み
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僕は勉強が出来ないの後に続く言葉は、けれど人生は出来る男と言いたいのかな?
2017年9月24日に日本でレビュー済み
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1人の母子家庭である男子高校生を主人公にして高校生活という短い期間を表現した小説。自分は人とは違う、それを自覚して不器用にそれを主張しながらもたくさんの人生を学んでいく。
この方の小説をはじめて読んだが、読点が多いせいか最初はすこし読みにくいと感じていたが、だんだんと引き込まれ読みにくさすら愛おしくなり夢中になって読み終わった。
マイノリティとマジョリティが真のテーマと思われる今作は、子供の気持ちと大人の気持ちも多角的に描かれていて読む側もいろいろなことを考えさせられた。
思わず、読んだ内容を家族に話し出してしまう自分もいた。そして本作が私に問いかけたように家族にも問いかけてしまうのであった。
この方の小説をはじめて読んだが、読点が多いせいか最初はすこし読みにくいと感じていたが、だんだんと引き込まれ読みにくさすら愛おしくなり夢中になって読み終わった。
マイノリティとマジョリティが真のテーマと思われる今作は、子供の気持ちと大人の気持ちも多角的に描かれていて読む側もいろいろなことを考えさせられた。
思わず、読んだ内容を家族に話し出してしまう自分もいた。そして本作が私に問いかけたように家族にも問いかけてしまうのであった。