著者はこのエッセイを通して、イギリスが現在抱える問題点を具体的に挙げ、それについての考察や打開策を著者なりに打ち出し、それを実行している。我が子を敢えて問題のある学校に入学させ、問題と向き合う強さを育ませている。子供に寄り添い、子供が突き当たる人種やアイデンティティの問題を共に考え、乗り越えさせる様は、称賛に値すると思う。
私事になるが、この著書の一読者である私も、ブレイディさんと同じように若かりし頃ブリティッシュロックに感銘を受けのめり込み、イギリスという国に憧れ、18歳の頃に学校のプログラムで初めて渡英し、ある出来事で大きなカルチャーショックを受け、以来渡英を繰り返し、留学を経て、恋愛・結婚・出産を経験し、10年のイギリス在住歴がある。
私が思うに、イギリスに単身で行く女性には、「イギリスに恋して」いる人が多い。日本とイギリスは、島国という或る意味似通った地理条件がありながら、イギリスには日本とは全く違う文化があり、個人主義に基づいた違う考え方が存在し、日本しか知らなかった裏若き女性がある種の憧れを抱きやすい国なのかなぁ、と感じる。おまけにイギリスでは東洋女性がやたらもてはやされた時期が一時期あって、留学を経験した20代後半、私もその「恩恵」に預かった一人だ。そして恐らくブレイディさんもその一人ではないのかな、と思う。
イギリスという異文化国で、日本人女性として尊重され自己を再認識し、フワフワした楽しい時期を過ごし、現地の男性と恋に落ち結婚をして。。。そこから突然、現実を突きつけられる。それも人種差別満載の、かなり最悪なタイプの現実を。「個人主義」の社会は確かに個人の意思が尊重されるだろう。だが逆に一人一人の考えがバラバラだと、当然考えがまとまりにくい欠点がある。誰も「妥協」することを覚えず、長い押し問答が続き、問題がいつまでも解決しない。その際たるものが、「EU離脱」問題なのではないだろうか?
「EU離脱」は、私が思うに、イギリス人が掲げる「デモクラシー」という名の鎖国だ。かつてイギリスは移民を大量に受け入れ、都合の良い労働力として扱った。掃除員などイギリス人がやりたくない仕事を押し付け、イギリス人の苦手とする料理を担う人材として重宝した。ところが経済情勢が変わるうちに、移民がただ邪魔な存在になった。そこで国民は移民を追い出すべく、「デモクラシー」という言葉を盾に移民を悪者扱いし、EUから抜け出し独立してやっていくという。EUに入ることでかなりの恩恵も受けてきたにも拘らず、そんなことはすっかり忘れたフリである。ここにはイギリス人の独特の人種差別な考えが根底にある気がする。
私がこのエッセイに関して、一つ付け加えておきたいのは、問題から顔を背けず向き合う親子の姿は素晴らしいとしても、決して、決してイギリスの教育方針や政治体制に学ぶ点などは何もない、と私が強く思っていることだ。確かに著者の息子が人種問題等で悩みもがいて学んだ点は彼にとって良い経験だったかも知れない。でも。。。皆さん一人一人に考えてみて欲しい。自分の子供が、人種差別にあって辛い思いをしてでも、人種問題に向き合って欲しいだろうか?それは人生に於いて「必要な」ことだろうか?できれば、そんなこととは無縁に生きて欲しいと願う親が殆どではないだろうか?勿論、それは私のように一度経験したから思うことなのかも知れない。でも、皆さんが一度イギリスに住んであからさまな人種差別にあったと仮定して(そして断言するが、イギリスに住んだ日本人なら誰でも必ず経験する)、同じことを子供にも敢えて経験して欲しいと思うだろうか?
私は、子供がプライマリー(小学校)に入る前に、日本に本帰国した。仕事の都合で夫はヨーロッパにいるのだが、私は敢えて夫と遠距離になってもそういう選択をした。苦渋の選択ではあったが数年考えて得た選択だ。帰国して2年経つが、このエッセイを読んだ後、改めて私は思った。やはり日本に帰ってきて良かった、と。イギリスは素晴らしいとか、イギリスに倣え的エッセイは過去にも沢山出版されてきたが、私は強くその意見一つ一つに反対する。もともとイギリスと日本のバックグラウンドは違うし、日本にイギリス的な考えを切り張りするように当てはめてもうまくいかない。大体イギリスでもイギリス的な考えは結局うまくいかずに崩壊寸前なのだから。
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