このオムレツ「ふわとろ」だね、とか
「もっちり」パン、「とろーり」溶けてる…ほかにも
「ふんわり」「シャキシャキ」「旨辛」「あつあつ」など
臨場感たっぷりで、「おいしそう!」「食べたい!」と
思わせる力をもつ美味表現はいろいろある。
本書の編者はそれを「シズルワード」と呼び、
メディアや広告、飲食店のメニュー、
SNS、おしゃべりなど、あらゆるところから
集めて、分析・分類し、「シズルワードの博物館」を
目ざしているという。
本書は、シズルワードを
あいうえお順に並べた字引を軸に
「おいしい」の作り手インタビュー、
シズルワードについての考察、
映画と本の「おいしい」シーンで構成されている。
個人的に、いちばん心に残ったのは
いまはない、表参道「大坊珈琲店」店主の
大坊勝次さんの「浮遊感」という言葉。
「甘味と酸味が溶け合っていて
口に含んだ時に下に溜まるのではなく、
上の方にスッと味が軽くなる」感じの味。
たとえば、とても濃いのに
苦すぎず、軽くまろやかなコーヒーのように。
大坊珈琲店に飛んで行きたくなり、
二度とあの空間、香り、浮遊感を味わえないせつなさを噛みしめた。
シズルワードは、広大無辺で奥が深い。
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ふわとろ SIZZLE WORD 「おいしい」言葉の使い方 単行本(ソフトカバー) – 2016/9/15
購入を強化する
●食に鋭い関心をもつ人のために
「このオムラス“ふわとろ"でおいしいね」というように、「おいしい」を予感させる言葉や、「おいしい」を誰かに伝えたいときに 口にするオノマトペなどの言葉の総称を、私たちはシズルワードと呼びます。
最近、シズルワードの好みが変化しています。“ふわとろ"“もちもち"“とろーり"“ふんわり"のような食感に楽しさを感じる言 葉に「おいしい」を感じるようになってきています。
本書は言葉に着目し、実際にどのような使われ方をされているのか、どのような研究がされているのかについて、4つの視点から、シズルワードの“今"に迫りました。
1章は、料理や食べ物を作っている人に「おいしい」を語ってもらっています。
2章は、おいしさを表す言葉やビジュアルの専門家による、おいしい言葉の研究を6つの領域から集めました。
3章は、映画や本のなかに潜むおいしさの表現を引き出し、読み取っています。
4章は、シズルワードの事典。93ワードを選び出し、それぞれのワードごとに、 ブログやSNSから消費者の実際の言葉の 使い方を取り上げ、メーカーの商品名も紹介。パラパラめくって、おいしい言葉の使い方やアイディアのヒントに。
●食に関わる仕事をしている人に向けて
消費者が食に求める感覚とセンスが劇的に変化している中で、言葉は消費者の「買う」「買わない」を左右するほど、大切な役割を背負っています。消費者のツボを刺激する言葉のヒントを、ぎゅっと詰めこみました。
目次
1 「おいしい」をつくる人の言葉
大坊珈琲店
wagashi asobi
葦
金蔦
中華風家庭料理 ふーみん
手打そば わたる
ROBERTO
寿し げん
青果ミコト屋
鳥山畜産食品株式会社
フランス料理 浅野 正己
2 「おいしい」言葉を考える
味ことばと共感覚
全感覚をそそるビジュアル
味わい表現を豊かにするための言葉
オノマトペに消費者心理を読む
インターネットで語られる 〝シズルワード〟
シズルワードは 「もっちり」「ふわふわ」「とろーり」
3 映画と本に「おいしい」を読む
4 シズルワードの字引き
「このオムラス“ふわとろ"でおいしいね」というように、「おいしい」を予感させる言葉や、「おいしい」を誰かに伝えたいときに 口にするオノマトペなどの言葉の総称を、私たちはシズルワードと呼びます。
最近、シズルワードの好みが変化しています。“ふわとろ"“もちもち"“とろーり"“ふんわり"のような食感に楽しさを感じる言 葉に「おいしい」を感じるようになってきています。
本書は言葉に着目し、実際にどのような使われ方をされているのか、どのような研究がされているのかについて、4つの視点から、シズルワードの“今"に迫りました。
1章は、料理や食べ物を作っている人に「おいしい」を語ってもらっています。
2章は、おいしさを表す言葉やビジュアルの専門家による、おいしい言葉の研究を6つの領域から集めました。
3章は、映画や本のなかに潜むおいしさの表現を引き出し、読み取っています。
4章は、シズルワードの事典。93ワードを選び出し、それぞれのワードごとに、 ブログやSNSから消費者の実際の言葉の 使い方を取り上げ、メーカーの商品名も紹介。パラパラめくって、おいしい言葉の使い方やアイディアのヒントに。
●食に関わる仕事をしている人に向けて
消費者が食に求める感覚とセンスが劇的に変化している中で、言葉は消費者の「買う」「買わない」を左右するほど、大切な役割を背負っています。消費者のツボを刺激する言葉のヒントを、ぎゅっと詰めこみました。
目次
1 「おいしい」をつくる人の言葉
大坊珈琲店
wagashi asobi
葦
金蔦
中華風家庭料理 ふーみん
手打そば わたる
ROBERTO
寿し げん
青果ミコト屋
鳥山畜産食品株式会社
フランス料理 浅野 正己
2 「おいしい」言葉を考える
味ことばと共感覚
全感覚をそそるビジュアル
味わい表現を豊かにするための言葉
オノマトペに消費者心理を読む
インターネットで語られる 〝シズルワード〟
シズルワードは 「もっちり」「ふわふわ」「とろーり」
3 映画と本に「おいしい」を読む
4 シズルワードの字引き
- 本の長さ392ページ
- 言語日本語
- 出版社B・M・FT出版部
- 発売日2016/9/15
- 寸法18.8 x 12.8 x 2.5 cm
- ISBN-104990489551
- ISBN-13978-4990489557
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商品の説明
出版社からのコメント
B・M・FTはシズルワードに早い段階から着目し、13年にわたり消費者を対象に定量的な調査を積み重ねてきました。『ふわ
とろ』の姉妹本である『シズルワードの現在』は定量調査のデータと分析が中心の本で、消費者が「おいしい」を感じるシズル
ワードのトレンドを掴みとれます。B・M・FTの普段の仕事に近い本でもあります。
調査の蓄積と経験を生かしつつ、言葉を軸に本にしたのが『ふわとろ』です。言葉の持つ力や文化にもっと敏感になり、コン
セプト・コピー・ネーミングなど際立った言葉を導き出していきたいと考え、B・M・FTことばラボをつくりました。
とろ』の姉妹本である『シズルワードの現在』は定量調査のデータと分析が中心の本で、消費者が「おいしい」を感じるシズル
ワードのトレンドを掴みとれます。B・M・FTの普段の仕事に近い本でもあります。
調査の蓄積と経験を生かしつつ、言葉を軸に本にしたのが『ふわとろ』です。言葉の持つ力や文化にもっと敏感になり、コン
セプト・コピー・ネーミングなど際立った言葉を導き出していきたいと考え、B・M・FTことばラボをつくりました。
著者について
B・M・FT ことばラボ (編集/取材構成)
・大橋 正房
㈱BMFT 代表取締役
リサーチをベースに、コンセプト・プロダクト・ブランドの開発。電気製品、マスメディア、通信・ネット、それぞれ10年くらい行ってきましたが、この頃はもっぱら飲食系。
・汲田 亜紀子
RIBBON. 代表
定性的なアプローチで、主に食領域、映像コンテンツ、メディアに関するマーケティング・リサーチ、プランニング。
・渋澤 文明
㈱BMFT プロデューサー
CAMP/Sマーケティング・ディレクター。雑誌、FM放送どのメディアや食品・飲料などのブランド・コンセプトの作成。
・爲國 正子
㈲会社オフィスハンナ 代表
フードプランナーおよびコーディネイターとして、食分野の商品のコンセプトづくりから商品企画開発やプロデュース・メニュー制作。
・須藤 正彦
㈱BMFT マーケティングデイレクター
食品や飲料の商品開発に関するマーケティング・リサーチの分析と提案が仕事。
・井口 理恵
㈱BMFT 研究員
インタビューや写真・ビデオを使ったビジュアル分析を含め、現場的に消費者の心理と行動を読み解く調査・研究。
1章 登場
・大坊勝次 / 大坊珈琲店
・稲葉基大、浅野理生 / wagashi asobi
・芦川浩、芦川治 / 葦
・盛山貴行 / 金蔦
・斎風瑞 / 中華風家庭料理 ふーみん
・渡邉学、北村裕 / 手打そば わたる
・前田好彦 / ROBERTO
・佐伯徹 / 寿し げん
・鈴木鉄平、山代徹 / 青果ミコト屋
・鳥山渉 / 鳥山畜産食品株式会社
・浅野正己 / フランス料理シェフ
2章 執筆者
・武藤 彩加
広島市立大学国際学部 准教授
・大手 仁志
「食」の撮影を専門とするスタジオhue代表取締役。フォトグラファー。シズルディレクター
・福島 宙輝
慶應義塾大学院政策・メディア研究科博士課程,助教(有期)
・笠原 耕三
マーケティングコンサルタント マーケティング共創協会専務理事
・灘本 明代
甲南大学知能情報学部教授
・大橋 正房
㈱BMFT 代表取締役
リサーチをベースに、コンセプト・プロダクト・ブランドの開発。電気製品、マスメディア、通信・ネット、それぞれ10年くらい行ってきましたが、この頃はもっぱら飲食系。
・汲田 亜紀子
RIBBON. 代表
定性的なアプローチで、主に食領域、映像コンテンツ、メディアに関するマーケティング・リサーチ、プランニング。
・渋澤 文明
㈱BMFT プロデューサー
CAMP/Sマーケティング・ディレクター。雑誌、FM放送どのメディアや食品・飲料などのブランド・コンセプトの作成。
・爲國 正子
㈲会社オフィスハンナ 代表
フードプランナーおよびコーディネイターとして、食分野の商品のコンセプトづくりから商品企画開発やプロデュース・メニュー制作。
・須藤 正彦
㈱BMFT マーケティングデイレクター
食品や飲料の商品開発に関するマーケティング・リサーチの分析と提案が仕事。
・井口 理恵
㈱BMFT 研究員
インタビューや写真・ビデオを使ったビジュアル分析を含め、現場的に消費者の心理と行動を読み解く調査・研究。
1章 登場
・大坊勝次 / 大坊珈琲店
・稲葉基大、浅野理生 / wagashi asobi
・芦川浩、芦川治 / 葦
・盛山貴行 / 金蔦
・斎風瑞 / 中華風家庭料理 ふーみん
・渡邉学、北村裕 / 手打そば わたる
・前田好彦 / ROBERTO
・佐伯徹 / 寿し げん
・鈴木鉄平、山代徹 / 青果ミコト屋
・鳥山渉 / 鳥山畜産食品株式会社
・浅野正己 / フランス料理シェフ
2章 執筆者
・武藤 彩加
広島市立大学国際学部 准教授
・大手 仁志
「食」の撮影を専門とするスタジオhue代表取締役。フォトグラファー。シズルディレクター
・福島 宙輝
慶應義塾大学院政策・メディア研究科博士課程,助教(有期)
・笠原 耕三
マーケティングコンサルタント マーケティング共創協会専務理事
・灘本 明代
甲南大学知能情報学部教授
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登録情報
- 出版社 : B・M・FT出版部; 初版 (2016/9/15)
- 発売日 : 2016/9/15
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 392ページ
- ISBN-10 : 4990489551
- ISBN-13 : 978-4990489557
- 寸法 : 18.8 x 12.8 x 2.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 328,486位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 335位日本語の語彙・熟語
- - 783位マーケティング・セールス一般関連書籍
- カスタマーレビュー:
著者について
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1990年,高知県生まれ.
九州女子大学講師.学術博士.
慶應義塾大学SFC研究所上席所員.
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了(Ph.D.).
慶應義塾大学助教を経て現職.
専門は記号論,認知科学,認知言語学,情報教育.
日本酒を中心に,味わいの言語化手法を研究する.
2013年,人工知能学会研究会優秀賞受賞.
2014年,グッドデザイン賞(研究手法部門).
著書に『豊かな人生を引き寄せる「あ,これおいしい!」の言い換え力』(三才 ブックス),
『ふわとろ SIZZLE WORD 「おいしい」言葉の使い方』 (共著/B.M.FT出版),
『おいしさの科学とビジネス展開の最前線』(共著/CMC出版 ),
『Content Generation Through Narrative Communication and Simulation』 (共著/IGI Global).
カスタマーレビュー
5つ星のうち3.8
星5つ中の3.8
8 件のグローバル評価
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
殿堂入りベスト500レビュアー
Amazonで購入
10人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2016年10月20日に日本でレビュー済み
巷には、食についての話題があふれている。テレビ番組、雑誌、マンガ、グルメ本----。朝ドラの『ごちそうさん』のように、食に徹底的にこだわることで、ヒットした作品も少なくない。メディアがとりあげるテーマの中で、こんなに食の比重が高い国も珍しいのではないだろうか。食についての語りが盛んだからといって、ただちに食文化が豊かであることを意味しない。しかし、食について語る表現や言葉が豊かなことは、食文化を豊かにするひとつの条件になるだろう。
『ふわとろ』は、「おいしさを表現する言葉」をいろんな角度から考えることを試みた本だ。日本の食文化と日本語の交差点を観測した、フィールドワークの報告として読むこともできる。
第1部「「おいしい」をつくる人の言葉」は、食のプロフェショナルたちのインタビューだ。含蓄に富んだ「おいしさ表現」を拾ってみよう。
惜しまれながら閉店した大坊珈琲店の大坊さんは、コーヒーの微妙な味について「浮遊感」という言葉を使っている。焙煎の加減を調整して、酸味と苦味を「削って」いき、酸味と苦味がかすかに残り、甘味とのバランスがとれるようにする。そうすると、「舌の体験としての味がフッと消えてゆく」感じになる。それが「浮遊感」だという。
的を射た表現だ。
「手打ちそば・わたる」の渡邊さんは、蕎麦を打って、香が立ってくるのを表わすのに、「開く」という言葉を使う。蕎麦粉に水を入れてこねてから3〜4時間たつと、香りも甘味も「ふわぁーと開いて」くるのだという。
「ドライフルーツの羊羹」で知られる《wagashi asobi》の稲葉さん、浅野さんは、素材どうしが調和する状態を表わすのに、「和敬清寂」という禅語を使っている。ドライフルーツの羊羹に入っているいろんな素材、それぞれが主張しすぎないように抑制されて、お互いを引き立てあって小宇宙をつくる。この禅語が表わすのは、そういう境地なのだという。
第2部「「おいしい」言葉を考える」では、武藤彩加さんが「味ことばと共感覚」で、日本語には、「食感を表わすオノマトペ表現」がきわめて豊富であることを指摘している。中国語、フランス語、フィンランド語に比べて、日本語の「味のテクスチャー用語」の豊富さは、際立っているという。
こうした事実の背後に、何を読みとることができるのだろうか? これは、「日本文化×日本語」という領域のさまざまな問題について考えるための、とてもよい入口なのだと考えられる。
この問題に関するひとつの視点として、日本語のオノマトペ表現の豊富さと邦楽の音の好みの関係ということをあげることができるだろう。邦楽の楽器の歴史をたどると、三味線や尺八のように、西洋音楽の基準から見るとノイズ的な音が出る楽器へという、ちょっと不思議な発展経路を選んでいる。これは、日本文化と西洋文化(あるいは中国文化)を比べると、文化と自然の関係に大きな差異があることを意味するだろう。西洋文化では、ノイズと見なされる自然音が日本文化ではしばしば風流な音として聴かれる。こうした点と日本語のオノマトペ表現の豊富さは、おそらく深い結びつきがあるのだろう。
「食感を表わすオノマトペ表現」として、武藤さんは「お茶漬けをサラサラ食べる」をあげ、「サラサラ」はさまざまな要素を含むが、当然、食べるときの「音」の表現でもあると書いている。つまり、日本の食文化では、食べるときに出す「音」も、「おいしさの構成要素」として重視されているということができる。
「舌鼓を打つ」という表現も、日本の食文化におけるおいしさと音の関係を考えるよい手かがりになるのではないだろうか。
こんな具合に、「食感を表わすオノマトペ表現」から「日本文化×日本語」という領域の諸問題へと、さまざまな途をつけることができるだろう。
第4部 「シズルワードの字引き」は、この部分だけで単独の本になっていく過渡的な形のようにも見える。「おいしさを表現する言葉」の字引きとしてバラスンのとれたものにするには、補うべき視点もあるようだ。例えば、「色どり」とか「季節感」といった言葉はぜひ必要だろう。
『ふわとろ』は、「おいしさを表現する言葉」をいろんな角度から考えることを試みた本だ。日本の食文化と日本語の交差点を観測した、フィールドワークの報告として読むこともできる。
第1部「「おいしい」をつくる人の言葉」は、食のプロフェショナルたちのインタビューだ。含蓄に富んだ「おいしさ表現」を拾ってみよう。
惜しまれながら閉店した大坊珈琲店の大坊さんは、コーヒーの微妙な味について「浮遊感」という言葉を使っている。焙煎の加減を調整して、酸味と苦味を「削って」いき、酸味と苦味がかすかに残り、甘味とのバランスがとれるようにする。そうすると、「舌の体験としての味がフッと消えてゆく」感じになる。それが「浮遊感」だという。
的を射た表現だ。
「手打ちそば・わたる」の渡邊さんは、蕎麦を打って、香が立ってくるのを表わすのに、「開く」という言葉を使う。蕎麦粉に水を入れてこねてから3〜4時間たつと、香りも甘味も「ふわぁーと開いて」くるのだという。
「ドライフルーツの羊羹」で知られる《wagashi asobi》の稲葉さん、浅野さんは、素材どうしが調和する状態を表わすのに、「和敬清寂」という禅語を使っている。ドライフルーツの羊羹に入っているいろんな素材、それぞれが主張しすぎないように抑制されて、お互いを引き立てあって小宇宙をつくる。この禅語が表わすのは、そういう境地なのだという。
第2部「「おいしい」言葉を考える」では、武藤彩加さんが「味ことばと共感覚」で、日本語には、「食感を表わすオノマトペ表現」がきわめて豊富であることを指摘している。中国語、フランス語、フィンランド語に比べて、日本語の「味のテクスチャー用語」の豊富さは、際立っているという。
こうした事実の背後に、何を読みとることができるのだろうか? これは、「日本文化×日本語」という領域のさまざまな問題について考えるための、とてもよい入口なのだと考えられる。
この問題に関するひとつの視点として、日本語のオノマトペ表現の豊富さと邦楽の音の好みの関係ということをあげることができるだろう。邦楽の楽器の歴史をたどると、三味線や尺八のように、西洋音楽の基準から見るとノイズ的な音が出る楽器へという、ちょっと不思議な発展経路を選んでいる。これは、日本文化と西洋文化(あるいは中国文化)を比べると、文化と自然の関係に大きな差異があることを意味するだろう。西洋文化では、ノイズと見なされる自然音が日本文化ではしばしば風流な音として聴かれる。こうした点と日本語のオノマトペ表現の豊富さは、おそらく深い結びつきがあるのだろう。
「食感を表わすオノマトペ表現」として、武藤さんは「お茶漬けをサラサラ食べる」をあげ、「サラサラ」はさまざまな要素を含むが、当然、食べるときの「音」の表現でもあると書いている。つまり、日本の食文化では、食べるときに出す「音」も、「おいしさの構成要素」として重視されているということができる。
「舌鼓を打つ」という表現も、日本の食文化におけるおいしさと音の関係を考えるよい手かがりになるのではないだろうか。
こんな具合に、「食感を表わすオノマトペ表現」から「日本文化×日本語」という領域の諸問題へと、さまざまな途をつけることができるだろう。
第4部 「シズルワードの字引き」は、この部分だけで単独の本になっていく過渡的な形のようにも見える。「おいしさを表現する言葉」の字引きとしてバラスンのとれたものにするには、補うべき視点もあるようだ。例えば、「色どり」とか「季節感」といった言葉はぜひ必要だろう。