3つの恋物語と、逝去により完成しなかった作品のプロットが収められた作品集。
野沢氏らしいミステリアスでひねりのきいた展開に、しみじみとした味わいが加わり、小説家としての新しい一面を感じさせる作品がそろった。
表題作は、仕事に行き詰まった中年脚本家が主人公。今をときめく売れっ子女性脚本家―かつてゼミの生徒であり、男女に間柄にあった―との再会から始まる物語。訳あって二人は脚本創作に取り組むことになる。野沢氏のポジションが存分に活かされた作品。物語作りに没頭する二人の会話だけで綴られる熱を帯びた部分と、主人公の一人称部分のめりはりが鮮やかだ。
「恋のきずな」は主婦の心の揺れを描いた作品。「さようならを言う恋」は悲しい理由で離婚せざるを得なかった男女の一年半後を描いたもの。どれもいとおしい作品である。
解説は、乱歩賞受賞作家にして脚本家、「二十余年にもわたって野沢さんの背中を追い続けることにな」ったという高野和明氏。大変に思いのこもった解説だ。また同じような立場にある人だけにその指摘にははっとさせられる。読者の感情を誘導する方法として、「小説専業の作家は優れた文章技法によってそれを行なうが、野沢さん(『脚本から小説に転じた作家』)はそこへ構成力という厚い壁で補強を図る」といった記述には、なるほどと膝を打った。
高野氏も書いているとおり、野沢氏の逝去の真相はわからない。けれどこうして野沢氏の作品にふれるたび、彼のような人に死を選ばせた外的要因のすべてを、本当に恨めしく思う。
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