1巻では、同棲を始めた吉田と沙優の他人から同居人へと変わりゆく当初の生活模様の「起」を描き、
2巻、3巻ではその生活が2人の間では留まらず、やがて周囲にも波及していく「承」が描かれ、いつかは来るであろう離別を匂わせていました。
3巻の最後は絵に書いたようなクリフハンガーとして、沙優の兄が連れ戻しに現れました。
そこから1年半以上のブランクをあけて、また大人の事情によりイラストレーターが交代して、ようやく発売された4巻。
一言で感想を描くとすれば、結末に向けた予定調和の匂いが立ちすぎている、ということでしょう。キャラクターが行動を紡いで結果を導き出そうとしているのではなく、決められた結果に向かわされているのです。
今作では、連れ戻しにきた沙優の兄・一颯により、帰るまでの猶予を与えられた2人の「最後の1週間」を描いているわけですが、今までの決着を図ろうとばかりに、吉田の周囲にいる人物達も吉田達との関係を精算しようとします。
正確には、家族ではないものの、他人と呼ぶにはあまりに距離が近い2人。
法的にも世間体的にも「アウト」なわけですが、そこについての言及・追及は一颯による軽い言葉で済まされ、
2人は周囲からより密に関わりを持つように後押しされます。
吉田という男の一線をひいたあたかも理想的な態度と、「女子高生との同棲」というサスペンスが本作の肝だと誰もが認めるところだと思います。しかし、個人的には、結局のところ、周囲にもバレたとて吉田の人格評価は寧ろ向上し、沙優との距離も支障なく近づいていくという「予定調和」な匂いを前巻まで感じていました。
本巻では、沙優の親族の登場という、冷静に考えればただごとでは済まされない事態に面しているのに、相変わらず同棲している吉田への疑惑や批判的な視座は控えめに、猶予が与えられ、登場人物が気持ちの整理をつけていくという流れになります。
前巻から引き続き吉田に対して働くこの流れの力は、むしろ完結に向けて急いで体裁を整えているようにも感じられます。作中なされる「吉田自身に下心があったのでは?」というせっかくの面白い問いも、扱いとして極めて軽く、それよりも、「家族の問題へ踏み込んでいくべき」とする周囲の反応は、あたかも吉田と沙優を「くっつけるため」のもののように見え、強い予定調和となって顕現していました。
また、ここまで勿体ぶっていた「沙優が家に帰りたがらない理由」にしても、過去の回想によって一応は筋の通る説得力を持ち得ていますが、ここでなされるいじめ、家庭問題も、まるで学園ドラマや昼ドラにでも出てきそうな記号化された展開・人物を再生産しているだけに過ぎず、引っ張った割には憐憫を誘うような意図が見えてしまいます。もっというと、前述した流れの強引さと合わせてしまうと、これらの回想すらも、「まともな大人」としての吉田の人格評価を上げるためのものに見えてしまうのです。
そもそも言えば、今巻に至るまでの吉田の素行とは、相手のことを思いやっているようでいて、結果的に相手を自分の手元に置いておくという父性的慈悲とは異なった妥協でしょう。少なくとも、よその家の子供を無期限で家に保護するというのは、およそ常識的とは言えません。それがここまで、「純然たる善意」という名目や周囲の人物からの理解を理由にして、沙優との接近と過度な干渉が殆ど肯定されたまま、結末に進めようとしているのは、とても不安です。
個人的には、1巻から2巻までは、「女子高生と同棲」という特異なシチュエーションを軸にほのぼのとした日常を描いたフィクションとして受け取ることができたのですが、その物語の結論として当初は依存・逃避先の関係として描かれていた2人が結ばれるオチになるのであれば、残念ながら思っていた方向とは異なりますし、「携帯の電源切れ」や「周りに見られるとまずいのに会社まで来る沙優」等に象徴される本巻の展開の強引さを考えると、その方面でも評価することは難しいです。
恐らくは残り1巻だとは思いますが、4巻は残りでどう巻き返すのか?という不安が募る巻でした。また、イラストレーター交代による影響なのかもしれませんが、これまで毎巻付いていた冒頭のキャラクター絵が今回はなかったのも残念でした。
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