私は本書のタイトル名『はずれ者が進化をつくる』を見て、当然進化の本だろうと思って本書を買ったのだが、実際に読んでみた本書は、そうではなかった。筆者は『はじめに』で、「個性の時代を生きる私たちは、時に自分らしさを見つけられずに悩みます。そして、時に個性的でないことに悩みます」「本書は、若い読者に向けて書いた」と語っていたように、本書は、自分に自信を持てずに悩んでいる若い読者に、生物学のさまざまな知見をもとに人生訓を語り、「あなたたちは、一人残らず、かけがえのない存在なのです」とエールを送っている本だった。
その本書は、「章」ではなく、学校の授業よろしく「一時間目」~「九時間目」に分かれており、たとえば一時間目では、
・私たちの特徴はすべて遺伝子によって決まるが、その組み合わせの数は70兆を超えるだけではなく、染色体と染色体の間ではその一部が交換されたり、DNAの突然変異も起きるので、組み合わせは無限大となる→この地球にどれだけたくさんの人がいても、あなたの代わりになる存在はない。長い人類の生命の歴史の中でも、あなたと同じ存在は過去にも未来にも生まれない。あなたは、この地球の歴史の中でたった一つだけ存在する他にはない個性なのであり、そう考えれば、あなたが持つ個性に意味がないはずがなく、あなたの個性には必ず居場所がある。あなたは生まれながらにして、唯一無二の存在です。
としており、以下、生物学の知見の引用部分については本書を読んでいただくとして、「人間は優劣をつけたがるが、自然界には違いはあっても、そこに優劣はありません」、「誰にも自分の力を発揮できる場所がある。あなたが持っている力を発揮できるニッチ(ナンバー1になれるオンリー1のポジション)を探すことが大切なのです」、「「自分らしさ」というフィールドを勝手に作ってしまえば、自分がナンバー1。ただし、気をつけなければいけないのは、周りの人があなたを一方向から見て作り上げたレッテルをあなた自身も信じてしまって、本当の「自分らしさ」を見失ってしまうこと」、「競争がすべてではなく、幸せに勝ち負けはありません。あなたが楽しく満たされていれば、それでいいのではないですか」、「苦手なことを無理してやる必要はありません。しかし、得意なことを探すためには、すぐに苦手と決めて捨ててしまわないことが大切なのです」、「生命の歴史を振り返ってみれば、進化を作りだしてきた者は、常に追いやられ、迫害された弱者であり、敗者でした」、「偶然に偶然が何度も重なった上で皆さんはこの世に生まれたのです。皆さんがこの世の中にいるということは、もうそれだけで奇跡なのです」等々、ここではこれ以上紹介しきれないほどの人生訓や珠玉の言葉を繰り返し繰り返し、若者に語りかけており、「今を生きる、与えられている今を大切に生きる。生き物たちは、「今を生きること」の連続です。「生きる目的がわからない」とか、「何のために生きるのか」などという生き物は一つもいません。そして、「生きるのに疲れた」とか、「死にたい」と思う生き物は一つもいないのです。与えられた時間を精一杯大切に生きる。…それが生物にとって「生きる」ということです。ただ、それだけのことなのです。…生きるって単純です」という言葉で本書を締め括っている。
筆者は終始、読者に若い人を想定して本書を書いているのだが、自分の存在意義や自分の存在価値、あるいは生きる目的などについて悩んでいるのは別に若い人だけではないし、もっと言えば、本書には現在は特に悩みがない人でも共感・納得させられる人生訓や珠玉の言葉が溢れているので、本書が純粋な生物学の本ではないことさえ承知しておいていただければ、どんな人にも良書としてお勧めできる本だったと思う。
はずれ者が進化をつくる --生き物をめぐる個性の秘密 (ちくまプリマー新書) (日本語) 新書 – 2020/6/9
稲垣 栄洋
(著)
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本の長さ192ページ
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言語日本語
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出版社筑摩書房
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発売日2020/6/9
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ISBN-104480683798
-
ISBN-13978-4480683793
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
「平均的な生き物」なんて存在しない。個性の数は無限大。唯一無二の生命をつなぐために生き物たちがとってきたオンリーワンの生存戦略。
著者について
静岡大学大学院教授
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
稲垣/栄洋
1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する著述や講演を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する著述や講演を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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カスタマーレビュー
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ベスト100レビュアー
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本書は子供向けに書かれた生物学の入門書。著者は生物の生き方を通して、子供たちに個性の大切さを説き、自分らしさを見つけ出すよう勧める。生物の世界にはナンバー1しか生きられないという鉄則があるという。だが、環境は多種多様で、どの環境にもナンバー1が存在するのだから、最も自分らしさを発揮できるポジション(ニッチという)を見つけるのが得策というわけだ。
また、「勝者は戦い方を変えないし、変えないほうがいい。負けることは変わることにつながり、劇的な変化は常に敗者によってもたらされてきた」など、著者の主張には経営戦略論とのアナロジーが強く感じられる。ちなみに、生物学や生態学の考え方を経営に応用する例は多く、96ページにある「ガウゼの法則」を初めて見たのはリチャード・コッチのビジネス書だった。本書には他にも経営のヒントがたくさん盛り込まれている。著者のことばを実際の経営にあてはめて考えながら読めば、ビジネスマンにとって良い頭の訓練になると思う。
また、「勝者は戦い方を変えないし、変えないほうがいい。負けることは変わることにつながり、劇的な変化は常に敗者によってもたらされてきた」など、著者の主張には経営戦略論とのアナロジーが強く感じられる。ちなみに、生物学や生態学の考え方を経営に応用する例は多く、96ページにある「ガウゼの法則」を初めて見たのはリチャード・コッチのビジネス書だった。本書には他にも経営のヒントがたくさん盛り込まれている。著者のことばを実際の経営にあてはめて考えながら読めば、ビジネスマンにとって良い頭の訓練になると思う。
2020年8月21日に日本でレビュー済み
もっともっと読まれて欲しい1冊。
出会いに感謝。
Amazonで購入
うーん。内容が良すぎて、帯が勿体無く感じる。(失礼しました)。
もっともっと読まれて欲しい1冊。
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5つ星のうち5.0
世界中に広まって欲しいー!
ユーザー名: Amazon カスタマー、日付: 2020年8月21日
うーん。内容が良すぎて、帯が勿体無く感じる。(失礼しました)。ユーザー名: Amazon カスタマー、日付: 2020年8月21日
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2020年7月11日に日本でレビュー済み
私はこの本に、もっとこどもの頃に出会いたかったと思いました。
■よかったところ
「個性」は誇示しなくても、否定しなくても、そのままの自分が絶対に唯一で揺るぎない存在であるということを強く言い続けていました。
それが科学の視点である故に、よくあるまやかしのようなエールではなく、リアリティのある言葉に感じられました。
「個性」という言葉が、無理やり押し並べられた場所で奪い合う「ナンバーワン」ではなく、誰かから規定された「らしさ」でもない、別の視点を与えてくれます。
ただご自身の言いたいことを言っているのではなく、終始、知見を通してこちらを元気づけ、肯定してくれようとしている著者さんの姿勢に励まされました。特に後半の、雑草に関する文章はとても良かったです。
■そのほかのポイント
途中、「飛べない鳥は飛ぼうと思ってはいけないのかな?」「男は力仕事をしないといけないのかな?」とも読み取れる表現がありましたが、大丈夫です。そこもちゃんとフォローしてくれていて安心しました。
ふりがながないことや文字が一般的な文庫サイズであること、難しい単語も時々でてくることから、小学生には読むのが大変かもしれませんが、全く活字を読まなかった中学生の頃の自分にはきっと読みやすいと思える内容だったと思います。
■よかったところ
「個性」は誇示しなくても、否定しなくても、そのままの自分が絶対に唯一で揺るぎない存在であるということを強く言い続けていました。
それが科学の視点である故に、よくあるまやかしのようなエールではなく、リアリティのある言葉に感じられました。
「個性」という言葉が、無理やり押し並べられた場所で奪い合う「ナンバーワン」ではなく、誰かから規定された「らしさ」でもない、別の視点を与えてくれます。
ただご自身の言いたいことを言っているのではなく、終始、知見を通してこちらを元気づけ、肯定してくれようとしている著者さんの姿勢に励まされました。特に後半の、雑草に関する文章はとても良かったです。
■そのほかのポイント
途中、「飛べない鳥は飛ぼうと思ってはいけないのかな?」「男は力仕事をしないといけないのかな?」とも読み取れる表現がありましたが、大丈夫です。そこもちゃんとフォローしてくれていて安心しました。
ふりがながないことや文字が一般的な文庫サイズであること、難しい単語も時々でてくることから、小学生には読むのが大変かもしれませんが、全く活字を読まなかった中学生の頃の自分にはきっと読みやすいと思える内容だったと思います。