本編の最後を飾る23巻です。
最初からあった「自由に楽しく弾いていけなんですか」と「センパイと一緒になりたい」に答えが出た印象ですが、そもそも「才能」と「なりたいもの」が乖離する悲劇をこんなにも色鮮やかな喜劇に仕上げたことには本当にブラヴォーです。
1-23巻、全体を通して心理描写が素晴らしく、大きなコマよりも小さなコマで、各登場人物の人物像を明確にする多くを語ってたようにも見えます。
個人的にはパリに移ってきてからの、ガヤガヤとした中に「個人」を意識せざるを得ない雰囲気は好きです。
職業ピアニストであるということ、そのキャリアが如何に格差のあるものなのか、それらを自然に感じさせるエピソードばかりです。また、留学生という存在が、所詮 寄せ集めの個人であり、ハイコストの生活はいつまでも続くはずも無く、最後はどこか自分の目的に向けて帰って・旅立っていくという、ソワソワした感じが象徴的に描かれています。
そもそも、この物語には主人公達と違う年代の登場人物がたくさん出てきます。閉ざされた少女の夢と妄想でなく、立体的な社会のなかで成長する姿が見えてきます。少女漫画って違うイメージ持ってたので、意外でした。ハリセン、ミルヒー、谷岡先生、ムッシュー、アンナ、シモン(マルレのコンマス)、ニナ・ルッツ、オクレール先生(雰囲気がSchiffっぽい)、のだめ一族、そして千秋の両親。
彼らに一貫しているのは、目の前に存在する年下の人間は、別個の存在で、その可能性は自分には判らないし、決められない。逆の見方をすれば、人間の持つ根源的な「なりたい」の強さと力を良く知っているように見えます。彼らの存在が物語に深みと、人生の長さを感じさせてくれます。他人を気遣い、育て、道を選ばせる。こういった社会的な側面があって、大人と呼ばれる存在になる。マジノ先生とオクレール先生達の葛藤、千秋雅之の成長。これらは、のだめの目の前にある才能と向き合う覚悟(オクレールの葛藤との二重構造)の先にある、これまた永遠と続くテーマである。
他方の当人の「才能」と「なりたいもの」の典型的なマッチングは、リュカの「才能を世の中のために使う」という、高等教育に進んだ者の、所謂エリートと呼ばれる人たちの覚悟である。アメリカや日本のように、高等教育にも高額の費用を必要とすると、それを回収しようとする思考が自然と働くが、ヨーロッパでは高等教育はグランゼコールだろうが博士号だろうが比較的安い。即ち、自分の学ぶ行為に対して、他人が援助をしてくれた。この構図が自分の才能を社会に還元したくなる思考に繋がる。音楽のように生活に絶対必要という訳でないならなおさら、こういった覚悟は必要なのだろう。のだめは結局自分の才能に対して自覚があったのかは不明でした。
とはいえ、現在活躍中のピアニストの名前を何人いえるか。それがこの職業に開かれた門の狭さを実感させるもので、のだめ達が目指した高みの厳しさでもあると思います。才能とは単独では結果に結びつくことは難しく、極めるなら、先の「なりたいもの」と意図的に結びつける必要があることを思い出させます。ピアニストでなくても、「やりたいこと」と「才能」はキャリアを形成する上で大きな課題です。僕にはどちらもありませんでしたが、かつて恩師と小さな表現についてやり取りがありました。「こんな些細なこと、聞いてる人になんかわからない」(僕)、「ホールで聴いてる2000人のうち、1人でもわかる人がいればその人のために努力するんだ」(先生)。先生の姿勢に感動こそしましたが、自分との距離を思い知りました。
それらを踏まえて、才能を持ちながら普通の人の感性を持って育った少女の選択は、世界的に有名なピアニストから趣味のピアニストまでスペクトラムで存在する無数の選択の一つで、今回のラストはきっとそんなものだろうと、120%納得させられちゃいますよ、じんわりと。
- コミック: 174ページ
- 出版社: 講談社; 新書版 (2009/11/27)
- 言語: 日本語
- ISBN-10: 406340773X
- ISBN-13: 978-4063407730
- 発売日: 2009/11/27
- 商品パッケージの寸法: 17.5 x 11.4 x 1.5 cm
- おすすめ度: 110件のカスタマーレビュー
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Amazon 売れ筋ランキング:
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