舞台は近未来のタイ。
温暖化による海面上昇、病に冒された食物が人の命をおびやかし、石油の枯渇により動力源が生き物の物理的運動に頼るほかなくなった日常。
あるいは人間が、あるいはメゴドント(体高4.5メートルの遺伝子操作により生まれた象からの新生物)が、物理的運動によって動力を供給する。
またはゼンマイを巻き上げて、それを解放することによって起きるエネルギーを利用して生活している。
安全な食物が乏しく、それらは世界企業に掌握されている。
自由貿易で利益を得ようとする外国企業と、かつてそうした者たちからもたらされた疫病で国内の作物が全滅に追い込まれたタイ。
章が改まる毎に視点が変わる。
タイ人視点の時は「ファラン」、日本人の時は「ガイジン」というように、異国人、特に西洋人を表す言葉が変わるのに気がつく。
タイ人、中国人、日本人、アメリカ人(?)が出て来るが、各国の歴史背景を持った思考と行動原理の書き込みにも圧倒される。
場の力を掌握している側と、被支配の立場の双方の視点から語られ、組み上げられた世界の緻密さ揺るぎなさが圧巻だ。
そしてそれは立場が違うだけじゃない、カルマ(宿業)が違うのだとジワジワと伝えてくる。
日本人から見ても日本人の描写が門切り型でなく、日本らしい本質の側面を捉えていてドキリとする。
それはタイ人にも、虐殺を生き延びた難民の中国人にも言えるのではないかと思う。(私の各背景への理解度ではアヤシいのだが)
アメリカ人のこの作家の、異文化へのシンクロ度はなんなのだろう!…というのも、この作品において瞠目すべき点だと思う。
その日本が作ったねじまき少女エミコ。
遺伝子操作により生まれた人工生命体、新人類だ。
セクサロイドとしての「生まれつき」を持たされた彼女は嬲られることを「当然」と感じつつ、独立した一個の生命としての希求も併せ持つ。
そのせめぎ合いが丹念に描かれ、切実に迫ってくる。
奇病の蔓延、遺伝子汚染、人工生命体、新種の奇妙な果実、熱と臭いのこもる工場、不快な湿度、人種の弾圧、虐殺の記憶、宗教観、倫理観…様々な要素が絡み合いくい込み合って、凄い密度の曼荼羅を描き出している。
新奇な視点を打ち立てたSFではないように思う。
この作品の素晴らしさは、この世界の病も、人類存続の瀬戸際を感じさせるあらゆる問題も、すべて現時点から遠くない地続きの未来だと感じさせることだ。
21世紀の今、核の脅威よりもっと現実的と言えるかもしれない。
こうした仮想世界の設定が上巻400ページのなかで徐々に明かされていく。多くの人物の視点の中にばら撒かれた歴史や設定を読み込むだけでも一苦労する。
だが全体像の見えないなにかを少ない手がかりで解読していく作業は、小説読みにとって快感そのものの作業でもあるのだ。
私の実力では手にあまる部分もあって、かなり時間がかかったが、非常に深い満足を味わうことができた。
こうした「解読する快感」が帯にあげられていた『ニューロマンサー』に近いものがあるかもしれない。
文章が立ち上らせるイメージも鮮やか。
タイには馴染みが無い私だがすっかり物語世界に浸ることができた。
ドラマチックな映画的シーンもあったり。
空港襲撃から登場する白シャツ隊長ジェイディーの活躍するシーンは、スピード感や人物のもつ熱量のボルテージが高く、胸が躍る。
登場人物たちのここに至るまでの時間、思いをつぎ込んだ結晶として場面が展開し、高密度の世界に取り巻かれて息が詰まりそうになる。
下巻も楽しみだ。
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ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF) 文庫 – 2011/5/20
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石油が枯渇し、エネルギー構造が激変した近未来のバンコク。遺伝子組替動物を使役させエネルギーを取り出す工場を経営するアンダースン・レイクは、ある日、市場で奇妙な外見と芳醇な味を持つ果物ンガウを手にする。ンガウの調査を始めたアンダースンは、ある夜、クラブで踊る少女型アンドロイドのエミコに出会う。彼とねじまき少女エミコとの出会いは、世界の運命を大きく変えていった。主要SF賞を総なめにした鮮烈作。
- 本の長さ400ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2011/5/20
- 寸法10.8 x 1.6 x 16 cm
- ISBN-104150118094
- ISBN-13978-4150118099
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商品の説明
著者について
1973年コロラド生まれ。オバーリン大学で、東アジア学と中国語を専攻した。在学中から中国に渡航し、教師などをしながら数年間を中国で暮らす。帰国後はウェブ開発者や環境専門誌の編集者をしながら小説を書き、1999年に〈F&SF〉誌に掲載された中篇“Pocketful of Dharma"でデビューを果たした。2005年に発表された「カロリーマン」は、シオドア・スタージョン記念賞を受賞。2008年に発表の「第六ポンプ」では、ローカス賞ノヴェレット部門を受賞している。本書『ねじまき少女』は、2009年に刊行され、ヒューゴー賞とネビュラ賞の長篇部門、ローカス賞第一長篇部門、ジョン・W・キャンベル記念賞、コンプトン・クルック賞など、SF界の賞を総なめにするという快挙をなしとげ、タイム誌の〈今年の十冊〉に選ばれた。
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2011/5/20)
- 発売日 : 2011/5/20
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 400ページ
- ISBN-10 : 4150118094
- ISBN-13 : 978-4150118099
- 寸法 : 10.8 x 1.6 x 16 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 54,586位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 75位ハヤカワ文庫 SF
- カスタマーレビュー:
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上位レビュー、対象国: 日本
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2015年11月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2020年6月9日に日本でレビュー済み
"きみたちはいま、過去にしがみついてるせいで死んでるんだ。わたしたちはいまごろ、全員ねじまきになっているべきだったんだ。初期バージョンの人間を瘤病から守るよりも、瘤病に耐性を持つ人間を作るほうが簡単なんだから。"2009年発刊の本書は、SF賞を総なめにしたディストピアSF傑作。
個人的にも少し縁のあるタイ、バンコクを舞台にした本書。群像劇的に展開する上巻の途中で挫折していたのですが、今回ようやく読み終えました。
さて、そんな本書は【石油が枯渇しゼンマイ仕掛けの機械(とそれを巻く遺伝子改造された象)エネルギーが普及した】世界、また意図をもって創り出された【疫病が蔓延する一方、それに対応した穀物を法外な値段で売りつける】カロリー企業が牛耳っている世界を舞台に複数の登場人物の視点で物語がバラバラに展開していくのですが。
率直に言って、以前は【ややあやしい翻訳】それと【エネルギー資源問題、ウイルス、遺伝子操作】と現在地球上で懸念されている事態がことごとく最悪の形で実現した】ようなディストピア設定を読み込むのに一苦労したのと(この点は確かに帯通りにニューロマンザーと近い感覚)また、そこで日本企業の遺伝子操作により労働者として生まれた新人類"ねじまき少女"ことエミコが【度々性的に虐げられている場面】に嫌悪感を覚えて【上巻で挫折してしまっていた】のですが。
今回【途中から最後まで無事に読み終えて】そのエミコが自らとった行動によって【全てが加速して、見事に収束しているラスト】に拍手を贈りたくなりました。また一方で、エミコも含めた個性豊かな登場人物を勧善懲悪的ではなく【それぞれに偏らずに描いている】点も含めて面白かったです。
また東洋的なモチーフが取り入れられた似たようなディストピア世界だとブレードランナーとかを想像しがちですが。SF作品には珍しく?タイを舞台にしていることで、また違った【熱帯的な暑さや雑多感を感じさせてくれている】のも新鮮かつ本書の特徴的なところではないかと思いました。(しかし、こんな破滅の予感しかない酷い近未来が、どこかしらありうるかも?と今は思ってしまうのが怖い。。)
よく練られた設定、世界観を感じさせるSF作品好きな方へ、またSFならではのディストピア世界に浸りたい方やタイに縁ある方にもオススメ。
個人的にも少し縁のあるタイ、バンコクを舞台にした本書。群像劇的に展開する上巻の途中で挫折していたのですが、今回ようやく読み終えました。
さて、そんな本書は【石油が枯渇しゼンマイ仕掛けの機械(とそれを巻く遺伝子改造された象)エネルギーが普及した】世界、また意図をもって創り出された【疫病が蔓延する一方、それに対応した穀物を法外な値段で売りつける】カロリー企業が牛耳っている世界を舞台に複数の登場人物の視点で物語がバラバラに展開していくのですが。
率直に言って、以前は【ややあやしい翻訳】それと【エネルギー資源問題、ウイルス、遺伝子操作】と現在地球上で懸念されている事態がことごとく最悪の形で実現した】ようなディストピア設定を読み込むのに一苦労したのと(この点は確かに帯通りにニューロマンザーと近い感覚)また、そこで日本企業の遺伝子操作により労働者として生まれた新人類"ねじまき少女"ことエミコが【度々性的に虐げられている場面】に嫌悪感を覚えて【上巻で挫折してしまっていた】のですが。
今回【途中から最後まで無事に読み終えて】そのエミコが自らとった行動によって【全てが加速して、見事に収束しているラスト】に拍手を贈りたくなりました。また一方で、エミコも含めた個性豊かな登場人物を勧善懲悪的ではなく【それぞれに偏らずに描いている】点も含めて面白かったです。
また東洋的なモチーフが取り入れられた似たようなディストピア世界だとブレードランナーとかを想像しがちですが。SF作品には珍しく?タイを舞台にしていることで、また違った【熱帯的な暑さや雑多感を感じさせてくれている】のも新鮮かつ本書の特徴的なところではないかと思いました。(しかし、こんな破滅の予感しかない酷い近未来が、どこかしらありうるかも?と今は思ってしまうのが怖い。。)
よく練られた設定、世界観を感じさせるSF作品好きな方へ、またSFならではのディストピア世界に浸りたい方やタイに縁ある方にもオススメ。
2012年4月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
読み終わったので感想を。大変エンターテイメント性にとんだSF小説だ。しかしそれ以上ではない気もする。SF好きにはたまらない様々な要素が散りばめられている―しかしそこを上手く回せているかといったら疑問もある。そこがまず残念だ。さらに複数の主人公がおり場面展開がテンポよくあり、それによって説明書にならず世界観を描写する技法は素晴らしい、しかし誰が主人公なのかの軸が曖昧になってしまっており残念だ。大好きなおもちゃやロマンが沢山散りばめられていて、総じて大変良くできた作品だとは思うがイマイチだった。
2016年1月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
*Kindle版で読みました。
誤訳が多いと聞きましたが、Kindle版は紙本の第5版を底本にしており、読みづらさは感じませんでした。もし紙本を買う場合は、うっかり古い版を買ってしまわないようご注意を。
*「ねじまき少女」のスタイルとして、造語を説明なしでポンと出し、時間をおいて、または別の登場人物の視点で説明することが多いです。わからない言葉はいったんスルーする技術が必要かも。私は、同じ作者の短編集「第六ポンプ」に収められている、「ねじまき少女」と同じ世界が舞台の短編「カロリーマン」「イエローカードマン」を先に読んだため、<ねじまき世界>にはすんなり入れました。この読み方はおすすめですが、一方で、いきなり「ねじまき少女」から読み始めて混乱するのも楽しかったかだろうなあと思います。
なお、作者のホームページには、「ねじまき少女」(米国版)の新版に、「カロリーマン」「イエローカードマン」が収録されていると書かれていました。難しいのは承知ですが、こういうことやってくれないかなあ、ハヤカワさん?
*2016年のいまになって、作者をグレッグ・イーガンやテッド・チャンと比べる方もいらっしゃらないと思いますが、少なくともイーガンとは書くことがまったく異なるので、比べても意味がありません(チャンは未読なので不明)。少なくともバチガルピの登場人物は、卑小で、利己的で、感情的で、でも時にすばらしく高潔なことを衝動的にしてしまう、21世紀初頭と変わらないひとびとです。
*<ねじまき少女>エミコと同様、読者は、いきなりタイ王国に放り出された存在です。5人の主要な登場人物に悪霊のように取り付き、彼らが抱えている問題と、彼らが引き起こすとんでもない騒ぎを見守るだけです(群像劇であって、特定の主人公はいませんので、アンダースンやエミコをヒーローやヒロインと思いこんで読むと、あとでがっかりするかも)。
エミコを含め、5人ともくせがある主要人物ですが、元華僑の老人ホク・センがいちばんのお気に入りです。社会最底辺の難民としてかろうじて仕事とあばら屋を手にしただけですが、あらゆるチャンスを利用して金を貯め、情報を売り、もう一度成り上がることを夢見る人物です。このあきれるほどのヴァイタリティーが自分にも欲しいです。
*というか、私がこの5人の誰かの立場だったら、たぶんストレスで1ヶ月と持たないでしょう。誰も彼もエネルギッシュで前向き。
*また、スピリチュアル(?)なネタが絡むのも、「ねじまき少女」の特徴です。悪霊が某人物に取り付く(本当に悪霊なのか、取り付かれた人の良心の声なのかは説明されません)のもそうですが、「輪廻」する魂たちに対して、魂を持たない<ねじまき>は何を支えに生きていくのか。業(カルマ)を背負うのは個々人か、人類全体か。<ねじまき>達、新人類は、生まれながらに業から解放されているのではないか。
*そして、「ねじまき少女」というタイトル。結局本作の2大仕掛けである「遺伝子操作」と「石油資源に変わって社会を支えるゼンマイ」の両方の象徴なのでしょう。
さらに、あのすばらしいラスト。
*結論。誤訳がほぼなくなり、文句なしの傑作に。
*おまけ。原書の表紙イラスト。エミコにフォーカスした日本版と違い、世界観が伝わるイメージですね。[・・・] 参照。
誤訳が多いと聞きましたが、Kindle版は紙本の第5版を底本にしており、読みづらさは感じませんでした。もし紙本を買う場合は、うっかり古い版を買ってしまわないようご注意を。
*「ねじまき少女」のスタイルとして、造語を説明なしでポンと出し、時間をおいて、または別の登場人物の視点で説明することが多いです。わからない言葉はいったんスルーする技術が必要かも。私は、同じ作者の短編集「第六ポンプ」に収められている、「ねじまき少女」と同じ世界が舞台の短編「カロリーマン」「イエローカードマン」を先に読んだため、<ねじまき世界>にはすんなり入れました。この読み方はおすすめですが、一方で、いきなり「ねじまき少女」から読み始めて混乱するのも楽しかったかだろうなあと思います。
なお、作者のホームページには、「ねじまき少女」(米国版)の新版に、「カロリーマン」「イエローカードマン」が収録されていると書かれていました。難しいのは承知ですが、こういうことやってくれないかなあ、ハヤカワさん?
*2016年のいまになって、作者をグレッグ・イーガンやテッド・チャンと比べる方もいらっしゃらないと思いますが、少なくともイーガンとは書くことがまったく異なるので、比べても意味がありません(チャンは未読なので不明)。少なくともバチガルピの登場人物は、卑小で、利己的で、感情的で、でも時にすばらしく高潔なことを衝動的にしてしまう、21世紀初頭と変わらないひとびとです。
*<ねじまき少女>エミコと同様、読者は、いきなりタイ王国に放り出された存在です。5人の主要な登場人物に悪霊のように取り付き、彼らが抱えている問題と、彼らが引き起こすとんでもない騒ぎを見守るだけです(群像劇であって、特定の主人公はいませんので、アンダースンやエミコをヒーローやヒロインと思いこんで読むと、あとでがっかりするかも)。
エミコを含め、5人ともくせがある主要人物ですが、元華僑の老人ホク・センがいちばんのお気に入りです。社会最底辺の難民としてかろうじて仕事とあばら屋を手にしただけですが、あらゆるチャンスを利用して金を貯め、情報を売り、もう一度成り上がることを夢見る人物です。このあきれるほどのヴァイタリティーが自分にも欲しいです。
*というか、私がこの5人の誰かの立場だったら、たぶんストレスで1ヶ月と持たないでしょう。誰も彼もエネルギッシュで前向き。
*また、スピリチュアル(?)なネタが絡むのも、「ねじまき少女」の特徴です。悪霊が某人物に取り付く(本当に悪霊なのか、取り付かれた人の良心の声なのかは説明されません)のもそうですが、「輪廻」する魂たちに対して、魂を持たない<ねじまき>は何を支えに生きていくのか。業(カルマ)を背負うのは個々人か、人類全体か。<ねじまき>達、新人類は、生まれながらに業から解放されているのではないか。
*そして、「ねじまき少女」というタイトル。結局本作の2大仕掛けである「遺伝子操作」と「石油資源に変わって社会を支えるゼンマイ」の両方の象徴なのでしょう。
さらに、あのすばらしいラスト。
*結論。誤訳がほぼなくなり、文句なしの傑作に。
*おまけ。原書の表紙イラスト。エミコにフォーカスした日本版と違い、世界観が伝わるイメージですね。[・・・] 参照。







![夏への扉 [新版] (ハヤカワ文庫SF)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/71C3Wd93uSL._AC_UL160_SR160,160_.jpg)
