WEB公開時より既に話題になり、「次にくるマンガ大賞2019」にもノミネートした注目作なので、今回の書籍化を待ち望んだ読者は多いと思います。
本書は『だらしない夫じゃなくて依存症でした』タイトルが示すように、主にアルコール依存症である夫を妻の目線から描いていますが、他にも元・薬物依存症、元・ギャンブル依存症の人物が主人公の友人や会社の先輩として登場するため、アルコールに限らない「依存症」を描いた作品と言えます。
また、巻末に収録されたエッセイ漫画で告白されるとおり、作者自身も過去に買い物や対人関係、カフェインなど様々な依存に悩まされ、それを克服してきた経験をもっています。この作品が単なる依存症の危険を描く啓発漫画の枠をはるかに逸脱し、依存症当事者はもとより、当事者を取り巻く周囲の人間、さらには「依存症」と診断される以前の不安や生きづらさ、精神的拠り所の不在に悩む人たちの心に深く突き刺さるのは、そうした作者の経験と、そこから培われた確固たる信念があるからというのは間違いないでしょう。
中島らも『今夜、すベてのバーで』、鴨志田穣『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』、吾妻ひでお『アル中病棟 失踪日記2』、まんしゅうきつこ『アル中ワンダーランド』など、アルコール依存症を扱ったエッセイ、私小説は数多く、その是非はともかく「アル中文学」とでも呼ぶ他にない作品の系譜が存在します。また、そのいずれもが作者や家族など親しい関係者の切実な実体験に基づくがゆえに、名作も少なくありません。
本書の場合はエッセイ漫画ではありませんし、作者にアルコール依存症の経験があるわけではなく、また元々は厚生労働省の依存症啓発事業の一環として企画された作品であるため、「アル中文学」とは一線を画しています。ただ、作品が伝えようとする切実さについてはそうした作品と比肩するものであり、今後も長く読みつがれるべきでしょう。
依存症を描いたあらゆる作品が口を揃えて伝えるように、日本という国において、アルコールに限らず「依存症」という病気への世間の理解はひどく乏しいのが実情です。と同時に、おそらく一般的に想像されるよりもはるかに多くの人が、何かしらの依存に悩み苦しんでいるはずです。また本書の主人公のように、そうした依存に悩む人の周りにはやはり依存というものに間接的に苦しんでいる人が数多く存在します。
そうした意味で本書は、依存に悩む当事者に限らず、幸運にもこれまで依存というものにかかわる機会がなかった人を含めた誰しもが読んでおくべき本だと思います。
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