最初は、読むのが怖かった。
(性暴力の被害者に共感しすぎて、つらくなるのでは?
最悪、わたし自身の被害体験がフラッシュバックして、からだが拒絶反応を起こすかもしれない。)
だから感情と理性を極力切り離して読み始めた。
でも、心配はいらなかった。赤い表紙の『その名を暴け』は、世紀のスクープの軌跡 . . . だけれど「公正さ」に重きが置かれていて、抑制のきいた文章のどこにも扇情主義的な感じは見られなかった。わたしのようなサバイバーも読者に想定されているのか、地道な調査の詳細と取材によって明るみになった事実だけが淡々と綴られていた。それでも、ワインスタインがおぞましく卑劣なことは十分にわかったけれど。
ニューヨーク・タイムズ紙の記者、ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーの誠実でひたむきな姿勢に、少しずつ心を動かされ「沈黙」を破り始める被害者たち . . . 。初めは名前を伏せてオフレコで、やがては名前を公表してオンレコで。
原題の『SHE SAID』(彼女は語った)には、ひとりひとりが声をあげるという意味もあるのだろう。被害にあったそれぞれが、もうこれ以上誰一人も犠牲にしたくない――未来のため、妹たちのために声をあげたのだ。
いつしかわたしも、手に握りこぶしを作って息を深く吸っていた。
それにしても、ジョディとミーガンは、なんてすてきなコンビだろう! 刑事ドラマの「バディ」みたい。励ましあい補完しあいながら難しい取材を重ね、証拠を固めていく。その様子に胸が躍った。二人を支える編集者レベッカ・コルベット、協力を約束するグウィネス・パルトロー、アシュレイ・ジャッドなど女優や従業員たちもすばらしい。直接会えなくてもそれぞれが影響しあって、巨悪に立ち向かうひとつのチームを作っていたみたい。蜂球を作り自分たちの熱を集めて、天敵の大きなスズメバチを退治するミツバチを連想した。
本書には、トランプ大統領からかつて性的いやがらせを受けたクルークスとカバノー最高裁判事を訴えたフォード博士についても、詳しく書かれている。(ニュースなどで聞いていた話とはずいぶん印象が違った。二人にも拍手を送りたい。)
などなど、読みどころ満載の一冊。
とくに終章の「集まり」が大好きだ。それまでに登場した12人の女性たちが、グウィネス・パルトローの家に一堂に会す。ひとりひとりの来し方行く末を思って涙があふれる。とても温かい涙。みんなが会えてほんとうによかった。
「大事なのは、声をあげ続けること、恐れてはいけないということ」
わたしもまた背中を押された。
ロウィーナ・チウと同じ . . . 。
「変化を推し進めていくことに参加したい」と、心から思えるようになって. . . この感想文を書いている。わたしも、ようやく She Said.
+*+-+*+-+*+
ひどいPTSDを抱えているようなかたは、どうかご無理なさいませんように。
それ以外のすべてのみなさんに、お薦めします『その名を暴け』。
若い読者の中からは、ジョディやミーガンのようなジャーナリストを志す人がきっと出てくることでしょう。
―― 大事なのは、声をあげ続けること、恐れてはいけないということ。
原書と日本語版 . . . SHE SAID『その名を暴け』
この本に関わってくれたすべての人に、幸多かれと祈ります。
“There isn't ever going to be an end. The point is that people have to continue always speaking up and not being afraid.”
― Laura Madden, She Said:
その名を暴け: #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い (日本語) 単行本 – 2020/7/30
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本の長さ416ページ
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言語日本語
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出版社新潮社
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発売日2020/7/30
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寸法19.1 x 13.2 x 2.5 cm
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ISBN-104105071718
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ISBN-13978-4105071714
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商品の説明
著者について
ジョディ・カンター/ミーガン・トゥーイー
ともに「ニューヨーク・タイムズ」紙の調査報道記者。
カンターは職場問題、その中でも特に女性の待遇について重点をおくとともに、2度の大統領選挙の取材に従事。著書に『The Obamas』がある。
トゥーイーは女性や子供の問題に焦点をあて、ロイターニュース記者時代の2014年にピュリッツァー賞調査報道部門の最終候補者になる。
カンターとトゥーイーは本作の基となったハーヴェイ・ワインスタインについての調査報道で多くの賞を受賞し、ジャーナリズムの分野で最高の名誉とされるジョージ・ポルク賞や、「ニューヨーク・タイムズ」としてピュリッツァー賞公益部門を受賞している。
古屋美登里
翻訳家。著書に、『雑な読書』『楽な読書』(シンコーミュージック)。
訳書に、ノンフィクションではデイヴィッド・マイケリス『スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』、カール・ホフマン『人喰い ロックフェラー失踪事件』、デイヴィッド・フィンケル『帰還兵はなぜ自殺するのか』『兵士は戦場で何を見たのか』(以上亜紀書房)、ダニエル・タメット『ぼくには数字が風景に見える』(講談社文庫)、フィクションではイーディス・パールマン『蜜のように甘く』(亜紀書房)『双眼鏡からの眺め』(早川書房)、 M・L・ ステッドマン『海を照らす光』(早川epi文庫)、エドワード・ケアリー『おちび 』、〈アイアマンガー三部作〉『堆塵館』『穢れの町』『肺都』(以上東京創元社)など多数。
ともに「ニューヨーク・タイムズ」紙の調査報道記者。
カンターは職場問題、その中でも特に女性の待遇について重点をおくとともに、2度の大統領選挙の取材に従事。著書に『The Obamas』がある。
トゥーイーは女性や子供の問題に焦点をあて、ロイターニュース記者時代の2014年にピュリッツァー賞調査報道部門の最終候補者になる。
カンターとトゥーイーは本作の基となったハーヴェイ・ワインスタインについての調査報道で多くの賞を受賞し、ジャーナリズムの分野で最高の名誉とされるジョージ・ポルク賞や、「ニューヨーク・タイムズ」としてピュリッツァー賞公益部門を受賞している。
古屋美登里
翻訳家。著書に、『雑な読書』『楽な読書』(シンコーミュージック)。
訳書に、ノンフィクションではデイヴィッド・マイケリス『スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』、カール・ホフマン『人喰い ロックフェラー失踪事件』、デイヴィッド・フィンケル『帰還兵はなぜ自殺するのか』『兵士は戦場で何を見たのか』(以上亜紀書房)、ダニエル・タメット『ぼくには数字が風景に見える』(講談社文庫)、フィクションではイーディス・パールマン『蜜のように甘く』(亜紀書房)『双眼鏡からの眺め』(早川書房)、 M・L・ ステッドマン『海を照らす光』(早川epi文庫)、エドワード・ケアリー『おちび 』、〈アイアマンガー三部作〉『堆塵館』『穢れの町』『肺都』(以上東京創元社)など多数。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
カンター,ジョディ
「ニューヨーク・タイムズ」紙の調査報道記者。職場問題、その中でも特に女性の待遇について重点をおくとともに、2度の大統領選挙の取材に従事。著書に『The Obamas』がある。ミーガン・トゥーイーと共にハーヴェイ・ワインスタインについての調査報道で多くの賞を受賞し、ジャーナリズムの分野で最高の名誉とされるジョージ・ポルク賞や、「ニューヨーク・タイムズ」としてピュリッツァー賞公益部門を受賞している
トゥーイー,ミーガン
「ニューヨーク・タイムズ」紙の調査報道記者。女性や子供の問題に焦点をあて、ロイターニュース記者時代の2014年にピュリッツァー賞調査報道部門の最終候補者になる。ジョディ・カンターと共にハーヴェイ・ワインスタインについての調査報道で多くの賞を受賞し、ジャーナリズムの分野で最高の名誉とされるジョージ・ポルク賞や、「ニューヨーク・タイムズ」としてピュリッツァー賞公益部門を受賞している
古屋/美登里
翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
「ニューヨーク・タイムズ」紙の調査報道記者。職場問題、その中でも特に女性の待遇について重点をおくとともに、2度の大統領選挙の取材に従事。著書に『The Obamas』がある。ミーガン・トゥーイーと共にハーヴェイ・ワインスタインについての調査報道で多くの賞を受賞し、ジャーナリズムの分野で最高の名誉とされるジョージ・ポルク賞や、「ニューヨーク・タイムズ」としてピュリッツァー賞公益部門を受賞している
トゥーイー,ミーガン
「ニューヨーク・タイムズ」紙の調査報道記者。女性や子供の問題に焦点をあて、ロイターニュース記者時代の2014年にピュリッツァー賞調査報道部門の最終候補者になる。ジョディ・カンターと共にハーヴェイ・ワインスタインについての調査報道で多くの賞を受賞し、ジャーナリズムの分野で最高の名誉とされるジョージ・ポルク賞や、「ニューヨーク・タイムズ」としてピュリッツァー賞公益部門を受賞している
古屋/美登里
翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2020/7/30)
- 発売日 : 2020/7/30
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 416ページ
- ISBN-10 : 4105071718
- ISBN-13 : 978-4105071714
- 寸法 : 19.1 x 13.2 x 2.5 cm
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カスタマーレビュー
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2020年8月19日に日本でレビュー済み
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30人のお客様がこれが役に立ったと考えています
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2020年11月17日に日本でレビュー済み
女性問題やフェミニズムで名を上げた女性弁護士がじつはワインスタインのために動いていたとか、スパイまで雇って主人公のジャーナリストの動きを追いかけるとか、SNSを使って記者にを誹謗する情報を流すとか、犯罪映画のような現実。記事をねじ伏せるべく、金と権力にものをいわせるワインスタインもひどいが、示談金や成功報酬に群がる弁護士や代理店もひどい。対する一流のジャーナリストが、詰め将棋のようにワインスタインを追い詰めていく。決定的なのは、やはり無力感に支配されることなく、声を挙げた女性たちだ。
2020年11月27日に日本でレビュー済み
アメリカの調査報道の質の高さというのでしょうか。これはワインシュタインのみならず発揮されるのでしょう。日本の報道はひどい、それは記者の責任だけではないと思いますけれど。/被害者の訴えを抑え込もうという具体も確認できました。だいたいいまだに男連中はヒドイと思うところです、私の周りを見てもね。/ウチの連れも就職して一年目、職場の先輩に休日に呼び出され、ホテルに連れ込まれそうになり、拒絶すると翌日からいじめが始まった、とのことです。本人は恥ずかしくて訴えたくもない、と言ってますが、もしかしたらトラウマになっているのだろうか。私はその男の管理責任者に電話しておきましたが。いずれにしても、頑張ろう、というメッセージの伝わる本でした。
2021年2月27日に日本でレビュー済み
邦題は受け入れ難い(星一つ減じた)。これは、誰かを糾弾する表現だ。原題は、She Saidであり、トーンが全く違う。正直、読もうかどうか迷った。でも、「はじめに」にこう書かれていた。「この運動の目的は性的嫌がらせを根絶することなのか、刑事裁判システムを改革することなのか、家父長制を打ち砕くことなのか、それとも相手の感情を傷つけずに恋をすることなのか、と」そして、「罪のない男性たちを傷つけることになってしまったのではないか」と書かれてあり、邦題から受ける印象が変わり、読んでみようと思った。
本書において、加害者の糾弾も大事な要素だが、むしろ、著者が、被害者の証言の公にしにくい状況を克服し、真っ当な戦いに持ち込んだ活動と言い換えていいだろう。被害はプライバシーで守られるべきレベルのことばかりで、極めて個人的なものまで暴露しなければならない中、それらをうまく束ねて、「被害者たち」という声を形成していく。
ジョディとミーガンには拍手なのだが、こういう活動があまりに扇状的な取り上げられて、罪のない男性(あるいは女性)たちが傷つけられていないことを祈りたい。
本書において、加害者の糾弾も大事な要素だが、むしろ、著者が、被害者の証言の公にしにくい状況を克服し、真っ当な戦いに持ち込んだ活動と言い換えていいだろう。被害はプライバシーで守られるべきレベルのことばかりで、極めて個人的なものまで暴露しなければならない中、それらをうまく束ねて、「被害者たち」という声を形成していく。
ジョディとミーガンには拍手なのだが、こういう活動があまりに扇状的な取り上げられて、罪のない男性(あるいは女性)たちが傷つけられていないことを祈りたい。