「高台家の人々」が面白かったので、そのまま「ごくせん」大人買いへ。
高台家とは全く異なる描線の固さに最初は驚きましたが(特に第1回、その後は描線が次第にクリアな硬質さに洗練され、これがまたいい)、あまりの面白さに一気読み。
ヤンクミや黒田一家、学校の先生・生徒はもちろん、どの登場人物のキャラもみな立っていて、しかも憎めない人ばかり。
コマの展開やここぞとばかりに繰り出されるセリフも小気味よく、パワーあふれるコメディーが楽しくて、「ごくせん」ワールドにどっぷりはまりました。
笑いころげながらどんどん読み進めて、巻もだいぶ進んだ頃に、ようやく気付きました。
これは、一級品の学園コメディーであると同時に、実は、ボーイミーツガールの物語だったんだ、と・・。
考えてみれば、高台家もまさしくボーイミーツガールの物語ですが、作品の面白さは主人公の女の子が醸し出す妄想ギャグの妙にあります。
けれども、ごくせんのボーイミーツガールは、慎ちゃんというある一人の男の子がある一人の女の子(ヤンクミだけど)と出会うそのケミストリーを描いた、とても個人的な恋の物語です。
学園ストーリーがパワフルにスピーディーに爆笑展開していく中に慎ちゃんの物語は織り込まれ、少しずつヤンクミに惹かれていく瑞々しい心の揺れや動きが繊細に丁寧に描かれていきます。
慎ちゃんは、その気にさえなれば東大だってホストだってオッケーの「持てる男」。
なのに、大人や社会になじめず、生きづらさを抱えてる。
そんな傷ついた少年である慎ちゃんが、最強・熱血・純粋・どっかおかしいヤンクミと出会い、人として真っ直ぐに向き合う時間の中で、次第に人や社会に心を開いて、自分の立ち位置をみつけていく。
少年が大人になっていく一瞬が、リリカルに(しかしあくまでコミカルに)展開されていきます。
リリカルかつコミカルってすごくないですか。そんな世界がたちのぼってくるすごい作品です。爆笑コメディーの中に珠玉の純愛が息づいてます。大笑いしているのに、慎ちゃんの心の動きに胸がせつなくなります。
どうしてこんな芸当が可能なのか、何度も読み直して考えましたが、ストーリー進行やギャグ・コメディ要素はセリフや擬音を効果的に時に様式的に使って要所と枠組みをしっかり固め、心の機微は表情やコマ割りだけでみせて、読者は理解するのではなく感じ取るだけ。感じ取るだけの中で、いつの間にか、慎ちゃんの恋のドラマを一緒に生きるようになる。
しかも、ヤンクミ→篠原先生の恋心については、コメディーマンガの定石で描く使い分け。
森本先生、天才と思う。一方、最後の大団円ではきっちり篠原先生にも慎ちゃんにもセリフとして語らせて、片を付けるサービスも忘れない。
女(男)と出会って自分の夢をようやくみつけた、なーんていう「軟弱さ」を魅力に感じたことはなかったけれども、この作品を読んで考え直しました。
夢を見つけること自体が難しくなった今の時代、何が善で何が悪なのか、簡単には決められない今の時代、好きな女のために生きていくっていうのは、じつはまっとうな気持ちなのかもしれないな。
篠原先生もいいオトコ。
自分の夢をあきらめず、人の気持ちも大切にして、社会とはなんたるやもよくわかってる真に大人の男性。
私が登場人物と同年代だったら、篠原先生に憧れちゃうナ。
でも、大人の分別の中で生きてきた時間が長くなった今は、慎ちゃんの真っ直ぐさがひたすら眩しいのでした。
いつか、慎ちゃんとヤンクミが40代くらいの中堅どころの年齢になった物語も読んでみたいですね。
検事になった上杉律くんとの対決もみたいし(笑
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