ガガガ文庫がメタフィクションっぽい作品を出すという事で期待した。昔「恋に変する魔改上書」というメタフィクション系のかなり面白い作品出した事あったからかなり期待した(なぜかあの作者は一冊だけで消えたが)。作者名にあまり聞き覚えが無いから調べたらハヤカワから既にデビュー済みの人らしい。なのでまた喜んだ……SF嫌いじゃないし、それでメタフィクションならかなり面白かろうと期待した(昔は「朝のガスパール」とか読む浅いSFファンではあったし)
……微妙というかひたすら冗長。
いや、言いたい事は分かるんよ。「規定された作者によってフィクションは現実に従属するものになる」という創作が受け手である読者も含めて気付かんうちに窮屈な枠の中に囚われてしまう事と「なんでもあり」のせめぎ合いをテーマに書こうとしているのは分かる。
が、その作者なりに「言いたい事」に辿り着くまでがひたすら長い。しかも圧倒的につまらん。会話文がやたらと多い「ベタなライトノベルの文体」を敢えてやってるつもりなのかもしれんが、それでもつまらん。まるで走り幅跳びするのに42.195kmを助走で延々と走らされているんじゃないかと思わされるぐらいに無駄に長い。
しかもそのベタなライトノベルの文体が異常にハイテンション。途中で「ストーリーは緩急が重要」と書いているぐらいだからこれも敢えてやっているのかも知れんが、主人公と「虚構を作る力が擬人化した存在」を名乗るヒロインが「作中の人物」である三人のサブヒロインを交えて延々とハイテンションな会話を続けるドタバタ展開が200頁……ダレる、もうどうしようもなくダレる。メタフィクションは「仕掛け」を楽しむもので「ストーリー」を楽しむものではない、という考え方もあるのだろうけど無駄にテンションの高いドタバタ劇に200頁付き合わされる読者の事を考えてないのだろうか?
……いや、そもそも「理想のSF読者」というのは「こういう仕掛けを楽しめてこそ一人前」とか思ってたりするのか?サブヒロインの一人が樋口恭介の「構造素子」をもじった「河沢素子」なんて名前だったり、「果志奈モモ」だの「虚空レム」だのと「分かる人にはわかる」系のネタが多いし最初から「ハヤカワ作品追ってない人間はお断り」という楽しむためには乗り越えるべき高い敷居を設けた作品なのかもしれんけど。
そもそもメタフィクションはリアリティの位相を仕切る強固な壁が崩れていく過程が一番面白いと思うんだけど序盤であっさりネタを割っちゃうのはどうよ?サブヒロイン同士のいざこざで主人公が死んでしまい、メタフィクションという構造の語り手と理想のストーリーである「学園ラブコメ」に持って行くために奔走するというのは分かる。でもそのサブヒロインたちがドタバタやる位相が確立される前にネタを割っちゃうからサブヒロインたちの要層はひどく薄っぺらく感じられてその後「なんでもあり」に振り回される展開のインパクトが弱くなってる。「現実」と思っていた物が崩れていくインパクトってのはもう少し強調されるべきだと思うんだが……
「SF」「メタフィクション」で大いに期待したし、200頁を過ぎてから語られたテーマは「なるほど」と思わされたのだけどそこに辿り着くまでの冗長さだけは、本当にどうにもならなかったのかと言いたくなる一冊。単純に作者との相性が良くなかった、の一言で済ませても良いのかも知れんが。
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