「かくしてモスクワの夜はつくられ、ジャズはトルコにもたらされた 二つの帝国を渡り歩いた黒人興行師フレデリックの生涯」という、異常に長い書名の本を読んだ。旧黒人奴隷を父にアメリカ・ミシシッピに生まれ、ヨーロッパやロシア、トルコを遍歴した、フレデリック・トーマスという、たぐいまれなき男の一大伝記だ。
フレデリックは米国南部に生まれるも、給仕の仕事で頭角を現し、シカゴやニューヨーク、パリなどを経て、革命前のモスクワに入国。身に付けた才覚と人なつっこい性格により、モスクワで20世紀初頭、ナンバーワンのレストラン兼劇場の経営者になった。
だが、ロシア革命の勃発により、モスクワで築いたすべての財産を失った。からくも逃れたトルコ・コンスタンチノープルで彼は、同じレストラン経営で今一度、一大財産を築いた。だが、今度はケマル・アタチュルクのトルコ近代革命で欧州文化を排除する動きが広がり、経営が左前になって、最後は野垂れ死ぬという話だ。
アメリカでは黒人差別がすごいが、欧州、特にロシアでは差別がなく、逆に珍しがられて立身出世していく様子が面白い。モスクワで一度失敗しても、トルコで「ジャズのスルタン」という異名を取り、復活を成し遂げる姿も読ませた。
著者ウラジーミル・アレクサンドロフはロシア人ではなく、ソ連からアメリカに亡命したロシア人の父を持つ、ロシア系2世のアメリカ人だ。
原題は「Black Russian」、直訳すれば「黒いロシア人(黒人のロシア人)」になるが、「黒いロシア人」という書名だと、「やっぱりロシア人は腹黒い」と勘違いする人がいるので、あえて異常に長い説明的な書名にしたのだろう。
でも、奇をてらった感じがあり、僕は原題通り、「黒いロシア人」でよかったのではと思う。翻訳自体は読みやすく、良かった。
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かくしてモスクワの夜はつくられ、ジャズはトルコにもたらされた:二つの帝国を渡り歩いた黒人興行師フレデリックの生涯 単行本(ソフトカバー) – 2019/9/27
ウラジーミル・アレクサンドロフ
(著),
竹田 円
(翻訳)
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アメリカン・ドリームをモスクワで叶えた黒人
すべてを乗り越える、差別も、言語も、革命の激震も
アメリカン・ドリームをモスクワで叶えた黒人フレデリック。ナイトクラブの興行で巨万の富を築いた彼を革命が襲う――その栄光と破滅。解説:沼野充義
この生涯もまた、彼がプロデュースしたスペクタクルなのか<?/b>
厳酷な黒人差別社会に見切りをつけたミシシッピ生まれのフレデリックは、海を越えて旧大陸へ渡り、帝政時代のモスクワでアメリカン・ドリームを摑むのだが……ロシア文学の碩学による、まるで物語(フィクション)のような歴史ノンフィクション。アメリカ南部の社会、爛熟する帝政末期のモスクワの夜、そして、第一次世界大戦とロシア革命の勃発――激動の時代を背景に描かれる、不屈な男の、凄まじくも痛快で爽快な魂の遍歴。
とはいえ本書の面白さは、われらが「主人公」フレデリックの波瀾万丈な人生を追うことだけにとどまらない。彼がモスクワで成り上がる過程は、じつは帝政末期ロシアにおけるミドルクラスの勃興と軌を一にしている。マクレイノルズ『〈遊ぶ〉ロシア』(法政大学出版局刊)で分析されたようなこの時代のロシアのミドルクラスの余暇の過ごし方――劇場、スポーツ、ツーリズム、ナイトライフ、映画――と、フレデリックが活躍した娯楽庭園やナイトクラブは、切っても切れない関係にある。フレデリックや、彼を取り巻いた人びとの姿を通して、大衆文化の揺籃期特有の熱気をも感じることができるのだ。
巻末に沼野充義氏(スラヴ文学者)による解説を収録した。
[目次]
プロローグ生きるか死ぬか
1南部のなかの南部
2フレデリックの修業時代
3モスクワにまさるものなし
4最初の富
5ロシア人になる
6喪失と逃走
7コンスタンティノープルでの再起
8アメリカ市民権を求めて
9ジャズのスルタン
エピローグ死者と生者
謝辞
解説境界を越え、歴史に抗って生きたロシアの黒人沼野充義
訳者あとがき
原註
出典一覧
索引
[原題]The Black Russian
すべてを乗り越える、差別も、言語も、革命の激震も
アメリカン・ドリームをモスクワで叶えた黒人フレデリック。ナイトクラブの興行で巨万の富を築いた彼を革命が襲う――その栄光と破滅。解説:沼野充義
この生涯もまた、彼がプロデュースしたスペクタクルなのか<?/b>
厳酷な黒人差別社会に見切りをつけたミシシッピ生まれのフレデリックは、海を越えて旧大陸へ渡り、帝政時代のモスクワでアメリカン・ドリームを摑むのだが……ロシア文学の碩学による、まるで物語(フィクション)のような歴史ノンフィクション。アメリカ南部の社会、爛熟する帝政末期のモスクワの夜、そして、第一次世界大戦とロシア革命の勃発――激動の時代を背景に描かれる、不屈な男の、凄まじくも痛快で爽快な魂の遍歴。
とはいえ本書の面白さは、われらが「主人公」フレデリックの波瀾万丈な人生を追うことだけにとどまらない。彼がモスクワで成り上がる過程は、じつは帝政末期ロシアにおけるミドルクラスの勃興と軌を一にしている。マクレイノルズ『〈遊ぶ〉ロシア』(法政大学出版局刊)で分析されたようなこの時代のロシアのミドルクラスの余暇の過ごし方――劇場、スポーツ、ツーリズム、ナイトライフ、映画――と、フレデリックが活躍した娯楽庭園やナイトクラブは、切っても切れない関係にある。フレデリックや、彼を取り巻いた人びとの姿を通して、大衆文化の揺籃期特有の熱気をも感じることができるのだ。
巻末に沼野充義氏(スラヴ文学者)による解説を収録した。
[目次]
プロローグ生きるか死ぬか
1南部のなかの南部
2フレデリックの修業時代
3モスクワにまさるものなし
4最初の富
5ロシア人になる
6喪失と逃走
7コンスタンティノープルでの再起
8アメリカ市民権を求めて
9ジャズのスルタン
エピローグ死者と生者
謝辞
解説境界を越え、歴史に抗って生きたロシアの黒人沼野充義
訳者あとがき
原註
出典一覧
索引
[原題]The Black Russian
- 本の長さ366ページ
- 言語日本語
- 出版社白水社
- 発売日2019/9/27
- ISBN-104560097224
- ISBN-13978-4560097229
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
厳酷な黒人差別社会に見切りをつけたミシシッピ生まれのフレデリックは、海を越えて旧大陸へ渡り、帝政時代のモスクワでアメリカン・ドリームを掴むのだが…ロシア文学の碩学による、まるで物語のような歴史ノンフィクション。アメリカ南部の社会、爛熟する帝政末期のモスクワの夜、そして、第一次世界大戦とロシア革命の勃発―激動の時代を背景に描かれる、不屈な男の、凄まじくも痛快で爽快な魂の遍歴。
著者について
ウラジーミル・アレクサンドロフ Vladimir Alexandrov
亡命ロシア人二世としてニューヨークに育つ。プリンストン大学で比較文学の博士号を取得。ハーヴァード大学を経て、イェール大学スラヴ語・スラヴ文学学科教授として長年ロシア文学を教えてきた。アメリカにおけるロシア文学研究の第一人者として知られる。主な著書に 『アンドレイ・ベールイ――主要な象徴主義小説』(ハーヴァード大学出版局、1985年)、『ナボコフの異世界』(プリンストン大学出版局、1991年)、『解釈の限界――「アンナ・カレーニナ」の意味』(ウィスコンシン大学出版局、2004年)など(いずれも英語、未邦訳)。
訳者:竹田円(たけだ・まどか)
東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了。スラヴ文学専攻。訳書にペジック『近代科学の形成と音楽』、ブルーム『ジャスト・ベイビー――赤ちゃんが教えてくれる善悪の起源』(以上NTT出版)、グリーン『モラル・トライブズ――共存の道徳哲学へ』(岩波書店)、アレン『ハーブの歴史』(原書房)、エリオット『女の子脳 男の子脳――神経科学から見る子どもの育て方』(NHK出版)など。
解説者:沼野充義(ぬまの・みつよし)
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授(現代文芸論・スラヴ語スラヴ文学研究室)。著書に『徹夜の塊 亡命文学論』(サントリー学芸賞受賞)、『徹夜の塊 ユートピア文学論』(読売文学賞受賞、以上作品社)、『チェーホフ――七分の絶望と三分の希望』(講談社)など、訳書にナボコフ『賜物』(河出書房新社)、レム『ソラリス』(国書刊行会)など。
亡命ロシア人二世としてニューヨークに育つ。プリンストン大学で比較文学の博士号を取得。ハーヴァード大学を経て、イェール大学スラヴ語・スラヴ文学学科教授として長年ロシア文学を教えてきた。アメリカにおけるロシア文学研究の第一人者として知られる。主な著書に 『アンドレイ・ベールイ――主要な象徴主義小説』(ハーヴァード大学出版局、1985年)、『ナボコフの異世界』(プリンストン大学出版局、1991年)、『解釈の限界――「アンナ・カレーニナ」の意味』(ウィスコンシン大学出版局、2004年)など(いずれも英語、未邦訳)。
訳者:竹田円(たけだ・まどか)
東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了。スラヴ文学専攻。訳書にペジック『近代科学の形成と音楽』、ブルーム『ジャスト・ベイビー――赤ちゃんが教えてくれる善悪の起源』(以上NTT出版)、グリーン『モラル・トライブズ――共存の道徳哲学へ』(岩波書店)、アレン『ハーブの歴史』(原書房)、エリオット『女の子脳 男の子脳――神経科学から見る子どもの育て方』(NHK出版)など。
解説者:沼野充義(ぬまの・みつよし)
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授(現代文芸論・スラヴ語スラヴ文学研究室)。著書に『徹夜の塊 亡命文学論』(サントリー学芸賞受賞)、『徹夜の塊 ユートピア文学論』(読売文学賞受賞、以上作品社)、『チェーホフ――七分の絶望と三分の希望』(講談社)など、訳書にナボコフ『賜物』(河出書房新社)、レム『ソラリス』(国書刊行会)など。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
アレクサンドロフ,ウラジーミル
亡命ロシア人二世としてニューヨークに育つ。プリンストン大学で比較文学の博士号を取得。ハーヴァード大学を経て、イェール大学スラヴ語・スラヴ文学学科教授として長年ロシア文学を教えてきた。アメリカにおけるロシア文学研究の第一人者として知られる
竹田/円
東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了。スラヴ文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
亡命ロシア人二世としてニューヨークに育つ。プリンストン大学で比較文学の博士号を取得。ハーヴァード大学を経て、イェール大学スラヴ語・スラヴ文学学科教授として長年ロシア文学を教えてきた。アメリカにおけるロシア文学研究の第一人者として知られる
竹田/円
東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了。スラヴ文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : 白水社 (2019/9/27)
- 発売日 : 2019/9/27
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 366ページ
- ISBN-10 : 4560097224
- ISBN-13 : 978-4560097229
- Amazon 売れ筋ランキング: - 588,617位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 1,247位世界史一般の本
- - 60,098位ノンフィクション (本)
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