時々クスリとさせられながら、サラッと読める本である。
その半面、考えながら読めば、弁護士による国際協力の現場と、その裏側までもが垣間見えてくる本でもある。
筆致が軽いので、法整備支援という言葉を知らない人は勿論、
国際協力や弁護士の仕事について疎い人でも、
飽きずに読み進めることができると思う。
そこには、著者が自分の地位や職能、更には語学力を殊更に卑下してみせるような、
ちょっとてらったようなところが無きにしも有らずである。
それは、読者に対する著者一流のサービス精神の現れだと思われるが。
例えば、著者は随所で自分が「全然調停のことをわかっていない」(69頁)だの、
「日本の法律すらあまり知らない」(177頁)だのと公言している。
ところが、本書には「(モンゴルにおける)すべての調停事件について事件記録を読みこんでいた」とか、
「調停手続の条文を起草するにあたって、僕はまず日本の民事調停法などを読み返してみた」云々という記述も見える。
更に199頁で「業務量はかつてとは比べものにならないほどに増えていて」とあるのを目の当たりにすれば、
著者が勉強家であり非凡な実務家であることは、行間など読まずとも大抵の読者は理解できるのではないか。
また本書の内容に彩りを添えるものとして、
滞在中に経験した事件や出来事などへの言及と、それらへの洞察を綴った箇所が挙げられる。
具体的には、途上国での生活の苦労を窺わせる、自宅の火事についての一件(172から175頁)や、
テレビの法律相談番組への出演(235から250頁)などがそれにあたる。
その他、「モンゴル語が下手だからといってあいさつするのを避けていてはもったいないと思った」から、
「たどたどしいモンゴル語で、そこら中の人にあいさつして回りながら」(55頁)とか、
「モンゴルでうまく仕事を進めるためには人との関係がとても重要である」(81頁)といった部分は、
著者なりの異文化理解の方法を示している点で興味深い。
これらのくだりで見られる著者の饒舌ぶりが、本書を類書から分かつ大きな特徴かもしれない。
最後に、法整備支援に関心のある方は、調停法起草に関わった経緯を綴った138頁以降からを、
またモンゴルの調停制度そのものに興味がある向きは、モンゴルの調停事件の具体例が示されている129頁以降を、
それぞれ読まれたい。専門的な知見が得られるに違いない。
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