狼男との恋愛を子供向け童話として笑ってはいけない。童話とは人や社会への戒めとして比喩された子供達への教育なのだから。
「おおかみ」の意味とは、日本社会から理不尽に蔑まれている存在、「差別」の象徴として認識している。それは、犯罪歴のある人、今も部落差別を受ける人々、一部の在留外国人、昔のハンセン病感染者・現代のHIV感染者、震災避難生活者や身体障害者等々。本作では親子を通して、「差別」が世代を越えて受け継がれていく哀しい様子を描いている。
母親には人生の伴侶を選んだ責任があるが、子供達の未来には関係無い筈だ。でもそれを未だに許そうとしない社会の壁が重苦しい。その堅固な同質性社会を共に生き抜く筈の夫は倒れてしまった。
分別が判るまで子供達は世間の前に晒せない、必ずしも理解して貰えるとは限らない人々には素性を隠したい、世の「普通」とは違う子供達に辛い思いをさせたくない母親にとって、生活基盤は自給自足が可能な田舎しか無かった。
子供達が天真爛漫で、明るく美しい作画に救われるが、そのメッセージ性はかなり重い作品だと思う。
子供達には「同じ水蒸気でも地上に至る迄には雨と雪の二つの道」があるが、それは自分で選択するしかなく、偶然に出逢った理解者や支援者等の周囲の影響で変わる。その答えには正解も間違いもない、それが人生だ。
本作を観た子供達は楽しみながらも、本人の責に拠らない事への差別や社会で生きる事の難しさ、差別しない人々の気高い意思を知らず知らずの内に学ぶだろう。
細田監督作品は設定が何とも奇想天外だが、その比喩表現はいつも深いと思う。母親の役割、子供の成長、そして差別の否定。自然に帰るおおかみの遠吠えは、「異質に対しては差別ではなく、区別を通じて理解し合う成熟した日本社会を大人達が作らねば俺は戻るつもりはない」と聞こえるのだ。
教条的なジブリの作風とはちょっと違う、人の愚かさと愛しさを親子に愉しく観させる離れ業は細田監督にしか出来ない芸当だろう。

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