この結末は、ない。
「いぬやしき」最終巻を初めて読んだ時、僕は正直、そう思った。9巻までのすさまじいドライヴ感が最初からこの着地点を目指したものであるなら、端的に言って駄作だと思ったのだ。
しかし、読後から1年経過し、いま改めて読み返してみると、少々異なる所感が沸き上がってきたことに気付いた。そういう僕の気付きに、他の方々にも気付いていただきたくて今、こうしてレビューをしたためている次第だ。ネタバレも含まれるので、未読の方は先に本編を通して読んでいただきたい。
─・─・─・─・─・─・─
奥浩哉の漫画は、疾走感こそが肝要だと僕は思っていた。駆けるように読むのが正しいとも思っていた。しかし、改めて読み返すと「いぬやしき」最終巻は、真逆の構成だったことに気付いた。本来は1ページ毎に、ページ内の全ての情報を読み取るつもりで、じっくりと時間をかけて読まなければならなかったのだ。
例えば25P目の見開き、ここは主人公の決意を表現したページだ。彼は、いまや彼の非日常を受け入れたかけがえのない家族から、彼らを救うために飛び立つ。その直後、はな子(犬)が家から駆け出し、彼が豆粒のように虚空へ消えるまで追いかける。
そして次のページで再び、見開き2連続。ごく平凡な会社員に過ぎなかった彼が背負ったものが何なのかを、パノラマで描き出す。彼は、彼自身にとっての家族と同様、誰かにとってかけがえのない、豆粒のような数多の存在のために戦うことを表現している。主人公が街を見下ろしているのは、自身の"使命"を再確認しているのだ。
映画であれば、ここまで3分は費やされるだろう。しかしマンガではコマを飛ばしながら1分以下で読み下せる。読者は、情報を端折って読むことができ、その際に得る情報は話の筋が主体になる。45P目の見開きで描かれた宇宙空間の息をのむ緻密さも、51P目で描かれた隕石の途方もない巨大さの実感も、大多数の読者はすっ飛ばしながら読む。だから、その場にいる主人公が得るであろう体感を、読者は得ないまま読み進めることになる。
本作での奥の"失敗"を挙げるならば(それは失敗の部類にはとても入らないのだが)、読者の視線の速さをあえて無視したところにある。彼はマンガ家として、「いぬやしきはひとコマずつ、じっくりと楽しんで欲しい」とは、ついに言えなかったのだろう。
だから、もう一度、読み直してほしい。
1コマずつ、犬屋敷がその場面で感じていることを、彼の考えを、想いを、その感情に寄り添いながら、ゆっくりと読み直してほしい。
「いぬやしき」は、とてもマンガではない。
映像にすることすら困難な、映画だったのだ。
いぬやしき(10) (イブニングコミックス) Kindle版
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言語日本語
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出版社講談社
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発売日2017/9/22
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ファイルサイズ135290 KB
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カスタマーレビュー
5つ星のうち4.0
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上位レビュー、対象国: 日本
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2018年12月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
『GANTZ』と『いぬやしき』をこの数日で一気読みしたアラサー男です。
色々と賛否あるようですが、個人的にはとても感動した漫画です。
何度も目頭が熱くなりました。
ラストも、アルマゲドンかとツッコミを入れつつも、感動しホロリと泣けました。
色々と考えさせられる素晴らしい作品だと思います。
どなたかがレビューで仰っているように、10巻で完結というのも、ムダに引っ張らずちょうどいい長さだと感じました。
また読み返すと思います。
色々と賛否あるようですが、個人的にはとても感動した漫画です。
何度も目頭が熱くなりました。
ラストも、アルマゲドンかとツッコミを入れつつも、感動しホロリと泣けました。
色々と考えさせられる素晴らしい作品だと思います。
どなたかがレビューで仰っているように、10巻で完結というのも、ムダに引っ張らずちょうどいい長さだと感じました。
また読み返すと思います。
2018年9月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
gantz読んだことないの?そもそも奥の漫画って深いストーリーとか伏線とか、そういうんを楽しむもんじゃないでしょ。。
奥はハリウッド映画大好きダイハード大好きで、同じことをマンガって媒体でやろうとしてるわけよ。
楽しみたいなら深読みしたらまけ。自分にいろんな種類の芸術を幅広く楽しむ素養がないからって作品のせいにするな。
宇宙人の存在が最後まで明かされないことに文句いってるやつに関してはもう論外だわw
奥はハリウッド映画大好きダイハード大好きで、同じことをマンガって媒体でやろうとしてるわけよ。
楽しみたいなら深読みしたらまけ。自分にいろんな種類の芸術を幅広く楽しむ素養がないからって作品のせいにするな。
宇宙人の存在が最後まで明かされないことに文句いってるやつに関してはもう論外だわw
2017年12月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
元々かわいそうなおじいさんがひどい目に遭う物語かと思ってたので敬遠してたのですが、たまたまAmazon primeで見つけ一気にみました。はじめの方の獅子神の殺人シーンには引きましたが、それがスパイスとなり最後まで引き込まれました。隕石は少し強引だとは思うのですが、全体的にきれいにまとまっていると思います。この作者にしては主人公二人の心の葛藤などよく掘り下げて描いているかなと。。。ただ、この作者特有の全体的に無機質な感じが個人的にはあまり好きではなく名作ってほどではないかなと思います。そういう意味で星4つにしました。
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