・原題:Ser du månen, Daniel
・英題:Held for Ransom
・制作国:デンマーク、スウェーデン、ノルウェーの3ヶ国
・制作年:2019年
本作監督は「ミレニアム -ドラゴン・タトゥーの女-」のニールス・アルデン・オプレブ氏と、本作で交渉人アトゥーア役で出演されてるアナス・W・ベアテルセン氏の2人によるダブル監督作品。
2013年から2014年の398日に渡る間、イスラム過激派組織ISの人質となり、いわれなき理由で壮絶な拷問を常習的に受けながらも奇跡的に生還したデンマーク人写真家ダニエル・リューの実話。
今でこそISはほぼ壊滅状態となってはいるが、その頃は潤沢な資金と銃火器等で徹底的かつ圧倒的恐怖政治でイスラム国の建国に至る。
当然ながらイスラム国は国連が国として承認するはずなく否決されたが、複数の何ヶ国かは「承認」した。
「承認」した国は予想通りのメンツたったのを覚えています。
主人公ダニエルはオリンピックの体操でデンマーク代表の有望株だったが、世界を相手に戦うには致命的なケガを負ってしまい、オリンピックの夢を諦め写真家として身を立てることを決意。
「世界に真実を伝えるため」と称して戦場へ向かい、そして絶え間ない死の恐怖に晒されながらシャッターを押し続けるジャーナリストたち。
主人公ダニエルは家族が大好きで子供が大好き。
父・母・姉・妹・恋人、それに姉夫婦の子供たち。
妹は反抗期真っ盛りのティーンだが、そんな妹にさえも優しく接するダニエル。
戦火の中で暮らす子供たちの現状を世界に伝えるため、ダニエルは自身の身の安全の確保と家族に心配させないために非戦闘地域での活動を選択するが、無法者集団のISにとってはそんなことは一切お構いなし。
結果的にダニエルの行動はダニエル自身は勿論のこと、愛する家族や恋人を恐怖のどん底へ叩き込むことに。
歯向かう自国民は躊躇(ためら)うことなく射殺し、他国民はジャーナリストであろうがなかろうが金蔓(身代金)の対価として幽閉する。
心の底から憎悪している敵対国アメリカ人の場合、見せしめとして極めて残酷な方法で殺害し、そのシーンを動画に収め世界じゅうに発信する。
その結果、米海兵隊が出撃し無法者集団の殲滅作戦を実行するが、それはまた新たな憎悪を確立させ新たな犠牲者を出すこととなり、まさに負のスパイラルそのもの。
9.11の首謀者ビン・ラディンの殺害に成功しても、いずれ必ず後継者は現れる。
「テロリストとは交渉しない」
その言葉を裏返せば「自国民に犠牲者が出るのはやむなし」ってこと。
テロリストに身代金を渡す=テロリストへ活動資金を供給することとなり、テロリストを支援することとなる。
あのような無法者集団でも支援している国は複数存在し、それらの国は経済的・物質的に支援している。
しかし、圧倒的な武力と恐怖を植え付ける組織を維持するためにはまだ足りない。
大量の銃火器・大量の弾丸・攻撃用車両・移動用車両・水・食料・衣類・電力・ガソリン・軽油・プロパガンダ発信のためのノートPC・スマホ・高画質ビデオカメラなどの多くの諸費用は、莫大な身代金で賄われているのが実情。
ダニエルはあくまでも非戦闘地域での安全が確保されたはずの中で捕虜となりましたが、ダニエル以外の寝食を共に男たちは非戦闘地域ではなく重危険地域での活動でしたので、自身がそうなることは覚悟の上で諦めのような顔つきと行動をされていたのが印象的でした。
ダニエルと他の何人かは身代金要求のために動画を撮られてましたが、アメリカ人のジェームズ・フォーリーだけは身代金要求の動画を撮影されることがなかったのは、ヤツらにとって最大憎悪のアメリカ国民だから、身代金など要らず最初からアメリカへの見せしめ処刑するためだけに生かしておいた。
交渉人アトゥーアがアブー・スハイブ(テロリスト集団の地域ボス)と車の中で、アブーはダニエル解放の条件についての提示はしていたが、ジェームズの解放条件については頑(かたく)なに拒否してたのが何よりの証拠です。
ダニエルの家族は合法的に身代金を確保しようと奔走するが、要求額があまりにも莫大すぎて集まらない中、ダニエルの母スサネは巨大銀行の頭取ヘニングに直談判。
ヘニングの銀行の昨年度は60億クローネ(当時のレートで約700億円)の利益を出している巨大銀行。
ヘニングの妻はスサネと同じ大学へ通っていた同窓生で、ヘニングの結婚式にも参加していたから、ヘニングもスサネも互いの顔も会社も知っており、まったく知らない間柄ではない。
スサネは息子ダニエルの身代金をかき集めるが、500万クローネ足りないことを告白する。
500万クローネといえば当時のレートで約1億円。
スサネは募金ではなく融資を申し込む。
スサネは夫と共に働き必ず全額返済すると約束するからと言うが、ヘニングは「テロリストに協力した銀行」とバッシングされ世間の信用が失墜するのを恐れ丁重に断る。
カフェの伝票を手に店を出ようとするヘニングを制したスサネは、話しを聞いてくれたヘニングにお礼を述べた後「46クローネなら私でも払えます」と。
46クローネは当時のレートで約800円。
翌日、6回に分けて500万クローネが口座に振り込まれていた。
あのノートPCをよく見ると、6回の入金者はそれぞれ別々の個人名になっており、その意味はもう誰でもわかりますよね?
かくしてダニエルは家族の元へ無事帰還した。
しかし、ジェームズは・・・。
ダニエルはジェームズの家族に彼の遺言を伝えるため渡米。
書き留めるメモもペンもなかったけど、ダニエルはジェームズの遺言を一言一句間違えることなく彼の家族に伝えたシーンは完全に涙腺崩壊しました。
幽閉された牢獄でダニエルとジェームズとの別れのシーン。
ジェームズはダニエルに対し自身の家族への遺言と同時に、ダニエルへ向けた言葉も遺してました。
「君は日常に戻る」
「退屈で平凡な毎日にね」
日常が退屈で平凡なこと=命の危険はないってこと。
ジェームズは退屈で平凡な毎日を送れることは幸せなことだと教示してくれた。
周りにはいつも愛する家族や友人がいる。
家族・恋人・友人たちと普通に楽しく会ったり、メールでやり取りしたり、誰かとSNSでやり取りしたり、誰かの愚痴を言い合ったり、食事に行ったり映画鑑賞に行ったり・・・。
そんな人たちとタマにはケンカもするけど、夜になればエアコンの効いた何の危険もない部屋でフカフカのベッドでぐっすり寝られるし、翌朝は学校や職場へ行きそれぞれの役目を果たし、ケンカした人とは仲直りしたりする。
そんな退屈で平凡で当たり前の日々は尊い。
ジェームズを殺害した男の氏名は「ジョン・ジハーディー」という英ロンドンの大学に通っていたイギリス人。
彼はネットでISの求人を見て、ISの思考と目的に賛同し、そして高額報酬も相まってISの組織員となる。
苗字の「ジハーディー」が表す通り、彼はISに参加し合流したその日のうちにキリスト教からイスラム教へ改宗させられ、そして苗字も変更させられた。
当初、彼はIS内では非戦闘員として活動していたが、慢性的な人員不足+敵対国の攻撃でさらなる人員不足となり、非戦闘員から戦闘員へ“格上げ”させられてしまった。
米海兵隊の急襲でアジトを追われることになったISと捕虜たちは廃鉄工所へ逃げ込み、そこでIS戦闘員はダニエルの頭に銃を突き付けてましたが、銃を突き付けるIS戦闘員の手は震えてましたよね。
そして、ダニエルが祖国への帰国後にアメリカ人記者ジェームズ・フォーリーの殺害動画を見、その時、ジェームズの横に立つIS戦闘員のナイフを持つ手は震えてましたよね。
その理由について、ジョンは非戦闘員から戦闘員にさせられ、そして絶対的指導者の命令により人生で初めて殺人という行為をしなければならなかったから。
ダニエルはあの動画を交渉人アトゥーアに最後まで見るなと制止されたましたが、ダニエルは最後まで見てしまいショックのあまりその場に倒れ込んでしまいました。
しかし、最後まで見たお陰で廃鉄工所で自身に銃を突き付けた戦闘員と、ジェームズをナイフで殺害したIS戦闘員が同一人物であるとダニエルは気付き、そしてその戦闘員の名は「ジョン」だと確信した。
「ジョン」の名はダニエルが自殺未遂をしてから、他の捕虜たちのいる部屋へ移動させられた時、たった一度だけでしたがドアの外でIS幹部と戦闘員との会話が聞こえており、その会話の中で「ジョン」という名が出ており、ダニエルはその名を記憶していたから、あの動画の再生中に思わず「ジョン!」と叫んでしまったのです。
ダニエルの極めて重要なキーワードを言ったお陰で、アメリカ人ジェームズを処刑したジョン・ジハーディーはアメリカの最重要手配テロリストとなり、軍事偵察衛星のデータを基に発見され、米海兵隊のドローン攻撃により“優先的に”殺害された。
反抗期真っ盛りで当初はダニエルにキツいもの言いばかりしていた妹が、生還したダニエルに思いきり抱きつくシーンは家族の絆を感じました。
最後に・・・、世界はデジタル化が進み、圧倒的なスピードでPC・スマホ・SNS・AI等の技術革命も進み、性差別・人種差別・障害者差別・ジェンダー差別などへの反対運動も世界規模となり、それらの運動は今や世界各地で開催されている現代となった。
しかし、そんな技術革新や差別反対運動が世界規模になろうとも、世界は常に憎悪に満ちあふれ、そして世界のどこかでは常に戦争状態なのが現状。
どんなに便利な物が開発されても、どんなに技術は進んでも悲しいけど戦争は終わらない。
人間に憎悪・欲望という感情と、人間に“嘘をつく”という機能が備わっている限り、物理的な戦争も精神的な戦争も終焉を迎える日は人類が滅亡するまで絶対にやってこない。
世界に真実を伝えるために命を賭してジャーナリズムを敢行し、そして命を落とされたすべてのジャーナリストたちへ・・・、どうか安らかに・・・。