スタンフォード大学の神経科学者である著者による、自身がテレビ番組で放送した内容を基とした脳科学に関する本。私たちの日々の暮らしにおける、脳と意識や意思決定についてを解説したものだ。
各章の内容は以下の通りだ。生まれてから後の経験が脳の形や回路を書き換え続け、私たち自身を決定付ける。(第1章「私は何ものか?」)私たちの周囲のさまざまなものは錯覚で、実はエネルギーと物質があるだけであり、脳はこれらを豊かな感覚経験へと変換しているにすぎない。(第2章「現実とは何か?」)私たちの1つ1つの行動は、脳内の意識下での膨大な計算があってはじめて可能となる。(第3章「主導権は誰にある?」)脳は複数の競いあうネットワークで構成されていて、それぞれが独自の目標と欲望をもっている。(第4章「私はどうやって決断するのか?」)脳は他人を必要としており、正常な脳の機能は周囲の社会ネットワークに依存している。(第5章「私はあなたに必要か?」)人類の歴史はいま、生物学とテクノロジーの融合によって脳の限界が超越される瞬間にあり、人間であることの意味が根本的に変わろうとしている。(第6章「私たちは何ものになるのか?」)
第2章がなかなか興味深い。私たちは、目や耳、鼻、口、皮膚という感覚器官を通して、外の世界の種々雑多な情報源を見つけ、それを電気化学信号に変換して脳へ送る。つまり、どんな光景も音もにおいも、私たちが経験するものはすべて直接経験ではなく、電気化学的な演出なのだと著者は解説する。われわれが普段感じている現実の世界とは、実は本当は何もない世界なのかもしれない。
そして最後の第6章では、脳科学とテクノロジーの共進化により、私たちの進化の物語を超越するツールの出現を著者は予想する。私たちは、自らの脳をコンピューターにアップロードすることにより、肉体を脱ぎ捨ててしまうかもしれないのだ。2章も6章も、映画『マトリックス』を思わず彷彿させる内容だ。
脳に関するさまざまな話題について、著者の体験や実験も織り混ぜながら分かりやすく解説される。イラストや写真も多く使用されており、専門外の人でもストレスなく読める。脳とは、実に不思議なものだ。
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