6篇からなる短編集である。
そのうちの一篇に「足跡」というタイトルのものがある。
「旦那さん以外に抱かれたいと思ったことはないの?」という聞き捨てならない質問から始まる話で、女性が主人公。
とあるきっかけから、自分の中に「満たされていない」部分があるということに気がつく女。
この話の中では、舞台が、「既婚者しか通うことができない治療院」が舞台になっているので、「現実にはそんなところねーよ」と思うかもしれないが、これは単なるメタファーなのだと思う。
ポイントは、“たまたま”知人から紹介された治療院というところ。
たまたま訪れた雑貨店で、たまたま訪れたスーパーで、たまたま乗っていた電車の中で、たまたま同僚と意気投合し...
それは、どこであろうと“きっかけ”にすぎない。
その些細なきっかけにより「自分の中にある満たされなさ」を知り、気がついた時には.....。というところがこの話のポイントになっている。
一見して、「幸せそうに見えるあの人が、不貞をするなんて!」と世間はいうかもしれない。
しかし、その「満たされなさ」は本人にしか分からない。いや、本人すらも気づいていなかった、もしくは「気がつかないふり」をしていたのだから。
だから「浮気はよくないよ!けしからん!」と頭ごなしに否定する人には、この本は合わないだろう。
むしろ、登場人物たちの感情の機微や、その危うさを味わうところにこの手の作品の楽しみ方があるのだ。
はたまた、別の一篇では、「遊びから始まる恋」の末路を描いていたり。
遊びが故に、本音を伝えられない辛さをリアルに描いて見せている点はさすがである。
本音が言えないからこそ、自分の気持ちに気がつかないふりをしている人もいれば、気づきながらも気づいているからこそ、決定的ににすれ違う人々もいる。
センシティブでもあり、読後は心地よい希望もほんのり醸してくれる稀有な作品ではないだろうか。
私はまず一気に通読しましたが、すこし時間をおいて、夜長にウイスキーでも飲みながら再度少しずつ読み進めていきたい作品です。
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