ややネタバレを含むのでご注意を。
今巻は、今まであまり深く触れてこなかった、麻子さんが子供の頃の話がメインテーマ。
8巻に渡りほのかに匂わせつつも深く掘り下げてこなかったのは、物語の構成上の必要性もあろうかと思うが、
8巻という時間は、麻子さんにとっては触れられたくない、自身でも触れたくない心の傷と闇に対する距離感、
過去に触れることへの躊躇を象徴するものだったと感じる。
香太郎との関係は、出会いとそこからの展開は運命的なものであったが、少しづつ段階を踏み、
ひとつひとつの問題を言語化してお互いに再確認し丁寧に紐解くことによって徐々に信頼関係を積み重ねていった
とても慎重で丁寧なものであるから、やはり不穏な気配を感じさせる幼少期の心の傷へ容易には
(お互いに)触れたくなかった、それが8巻という長い時間だったのだろうと思う。
たまたま出会って目が合ってドドーンとババーンと恋に落ちたりノリや勢いで結婚したりするものじゃないんですよ!
あせとせっけんの世界は!
しかし、物語のメインテーマに通底する問題であるからには、ここに触れずに話を進める訳にも行かない。
作者にとっても読者にとっても、ついに来るべき時が来た、という今巻ではなかろうか。
心がざわつく局面で今巻は終了するが、次巻ではきっと二人は困難を乗り越え更なる成長に
繋がると思うので、それを待ちきれない方は10巻発売を待ってから今巻を読んだ方が
精神衛生上良いのかも知れない・・・
尚、特装版のオマケページはボリュームもあり、「いつもの空気」を感じさせてくれて
二人を心配するやるせない心持ちを中和してくれるので、そこに期待してただちに特装版を読むのも
良い選択です。
今巻序盤の二人で浴衣を着てお祭りに出向くエピソードは、今まで培ってきた
二人の信頼と求め合う気持ちを再確認できるとても素敵な展開。
はらはらしつつも、きっとこうなってくれるという読者の信頼に応えてくれる展開を用意してくれた作者には、
本当に感謝したい。ありがとう。
そこから一転、麻子さんの旧友との再会や、二度と思い出したくない過去との予期せぬ邂逅・・・
衝撃を受けた麻子さんはコントロールできない自身の感情に混乱し、取り乱す。
忌まわしい記憶や心の傷は誰しもが持つものだが、麻子さんはそれら全てを受け止めて肯定してくれた
香太郎とのこの一年で、癒され救われ、恐らくは今までの人生で一番自分を肯定できる状態で
過ごしていたのだろうと思う。
だからこそここへ来て予期せぬ形で痛みを伴う過去の記憶との遭遇に、想定外の大きな衝撃を受け
混乱したのだろう。
しかし、二人の関係を見続けてきた読者は、香太郎は必ず麻子さんの過去の傷も現在の心情も
理解し受け止めてくれることを信じているし、二人で時間をかけてそれを乗り越えることを信じている。
この二人であればきっとこの件を克服し乗り越えることでまた成長してくれるであろうことが、分かっている。
だからこそ、この心がざわつく幕引きは次巻での大きなカタルシスに繋がるものとして受け止めたい。
次巻が待ち遠しい限り!
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