最後の全国ツアーを4日前に控え発売された通算43枚目のオリジナルアルバム。
キャッチコピーは、「中島みゆきが中島みゆきを歌う。」
タイトル「CONTRALTO」は自身の音域のことを指す。
和紙風の紙を型圧ししたブックレットは過去最高の出来。
美しくやさしいみゆきさんの写真を見ることができる。
CD面とCDで隠れているバックカバーにも違う写真が使われているので、CDでの購入をお奨めしたい。
公式ウェブサイトも新調し、その力の入れようを感じるのは、ラストツアーという今年の大きな公演があるからだろう。
本作の一番の特徴はガナリ声のある曲が1曲もないことや、オーソドックスで声と歌詞を邪魔しない編曲が普遍的な旋律で美しいこと。90年代から2010年代にあった熱さがない代わりに、迫りくる切実さや達観した強さがこれでもかと詰まっている。
誤解を恐れずに言うと、みゆきさんは常にこれが最後になるくらいの心持ちでオリジナルアルバムを出してきたと思うが、”何時までと区切りましょう 突然で驚かぬように”と歌う「齢寿天任せ」にある通り、本作はいわば万が一の為の終活作かもしれない。
このタイミングでラストツアーを発表したことにも通じられ、上の歌詞の前に歌われる1番の歌詞にストレートな気持ちが書かれてある。いつまでも歌ってほしい願いがあるファンに対する思いやりと共に、無常を知らせる言葉なのかと感じられた。そういえば、昨年に行われた舞台「リトル・トーキョー」のラストに歌われた曲も・・・。
同曲は、みゆきさん自身の本音が冒頭にあり、2番には思い通りにならない人生や無い物ねだりの人の心が描かれている。そして何ともクセになるリズムがたまらない。
やっぱり一番の魅力は想像を掻き立てる歌詞。
1つの物語を描きながら、中島みゆきという役目と本作のテーマを歌ったとも感じられる「終わり初物」
繰り返される今日をロック調に歌う「おはよう」メロと声が共鳴した秀作。
「それ以上言わないで」に通じる音色で地球にあるすべてのものをさらりと讃えた「ルチル」視点を変えれば恋歌や替えの利かない命の歌にも読みとれる。低く柔らかい歌声と、ゆるやかな水の流れのようなメロディが深い癒しを与えてくれる1曲。
「Clavis -鍵-」よりもアラブ感の強く彷徨いを感じる歌唱で、表現の自由をテーマにしたであろう「歌うことが許されなければ」
宗教や政治により歌うことが許されない国を指しているのかもしれないし、内から生ずるものかもしれない。この曲の歌詞に登場する”歌”とは、語源である”訴う(うったう)にかけているのかもしれない。(個人解釈です)
感覚的に伝わるような歌詞と可愛い歌声から切実な歌声に変化する「観音橋」
1985年のアルバムの曲「月の赤ん坊」の香りも少し混じりつつ、ジャジーなメロと歌で独りぼっちで千鳥足になっているような女歌の「自画像」
ちなみに歌詞の中の「已んぬる哉」とは、どうしようもない。の意
異色作ともいえるのは朝靄の港を連想する曲調からはじまる「タグ・ボート」
混迷を極めた曲調と声に変化し、やがては夕靄のなかをポンポンと進むタグ・ボートの姿が見えるような曲。これもまた個人的な解釈だが、タグ・ボートとは国を支える国民一人一人のことで、「大いなる船」とは国を指し、そこに乗る者たちは地位の高い人を指しているのかもしれない。
アルバムを締めくくる「進化樹」ではこの自分がどのようにして生まれたのかと内観させられる。
戦争の時代を生きた人を描いたドラマ「やすらぎの刻～道」のテーマソングでもあり、戦争経験者が健康的な理由や亡くなるなどで選挙に行けなくなった近年になって、憲法の改正を議論しようとする戦争未経験の人たちへの願いとも理解でき、戦争の時代を生きた倉本聰が描くドラマのメッセージにも寄り添っていると思う。
このような少数意見の世界を描くことが出来るのは、番組視聴率やCDのランキングに目もくれない倉本聰×中島みゆきのタッグでなければ実現しなかったのではないだろうか。
あらゆる経験者の声はいつの時代も忘れ去られ、経験しては消えていく。
新しく生きるということは、転ぶ恐ろしさを知見から予測しながらも、本当の意味で知らない危うさ。
私たちが手に入れた新しさは、脈々と守り受け継がれた壮大な縁が積み重なった過去の証明であって、
私たちが生きているあいだに生み出せる新しさは、受け継がれることのない愚かさの方が遥かに多いのかもしれない。
遠い過去から届いた、私たちを案ずる手紙をみゆきさんが読んでくれたような、そんな気がした。
“中島みゆきが中島みゆきを歌う”と書かれた本作で一貫したのは、小さき者たちを見ている、みゆきさんの眼だ。その眼は目に見えないほどの小さなものまで見晴らしているかのような、目線の低さ。
聴く者に想像させる歌詞は、いかようにも解釈できる宇宙的な広さがある。
みゆきさんは自然界をありのままに生きているのだろう。
世界を狭く、濁しているのは人の心なのだ。
みゆきさんはいつも私たちの心を支え、辛い人生の航路を支えてくれる。
なのに、みゆきさんには何ひとつ返せていない。
「タグ・ボート」を聴いてまた別の解釈が浮かんだ。
みゆきさんは、最期までタグ・ボートであり続けようと宣言しているのではないかと。
何も返せない私たちでも、生きているだけで、みゆきさんは嬉しがってくれているのではないかと。
コントラアルト
私たちはあなたのその"声"に生かされています。
登録情報
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商品の説明
外付け特典あり:A5クリアファイル
前作の『相聞』から約2年ぶりに発売する43枚目のオリジナル・アルバム『CONTRALTO』が2020年1月8日に発売決定。
作品タイトル『COTRALTO』の読み仮名は「コントラアルト」。中島みゆきはこのタイトルについて「私の音域のことです」と述べている。
また、このアルバムには「自画像」「歌うことが許されなければ」という曲が収録されていることから、自分自身を様々な視点で綴り、
歌っていることが感じられる作品となった。
本作に収録されたタイアップ曲は、先行シングルとして発売された倉本聰脚本、テレビ朝日60周年記念帯ドラマ劇場『やすらぎの刻~道』の主題歌「離郷の歌」「進化樹」の2曲に加え、
このアルバムに収録された「終(おわ)り初物(はつもの)」「観音橋(かんのんばし)」が、さらに同ドラマの新たな主題歌として決定。合計4曲のタイアップが収録されることとなった。
前作の主題歌「慕情」も含め中島みゆきの主題歌が5曲も起用された前代未聞のドラマ『やすらぎの刻~道』の音楽を存分に楽しめる内容にもなっている。
Disc-1
1.終(おわ)り初物(はつもの)
2.おはよう
3.ルチル(Rutile Quartz)
4.歌うことが許されなければ
5.齢(よわい)寿(ことぶき)天(そら)任(まか)せ
6.観音橋(かんのんばし)
7.自画像
8.タグ・ボート(Tug・Boat)
9.離郷の歌
10.進化樹
11.終(おわ)り初物(はつもの)(TV-MIX)
12.観音橋(かんのんばし)(TV-MIX)
全10曲12トラック収録
*TV MIX はカラオケです。
