孫子正解シリーズも13冊目となった。今回より第十一篇「九地」に入る。
今回の「九地」篇は篇名に「地」がついていることからもわかるように前篇「地形」篇同様、地形を中心に展開されており、一見すると地形という物理的条件を述べているかのようにみえる。しかしこの孫子正解の著者は、本篇はそのような単純なものではなく、前半においては「九地」の理論を説くとともに「弱者の戦法」を再説することで決戦的敵国侵攻作戦たる「死地作戦」の意義を再確認させ、後半はその「死地作戦」をとおして「九地」の理論を実践的・具体的に展開し、併せて第1篇「計」から前篇「地形」までの重要論点を総括することで孫子の用兵思想の徹底化を図っていると喝破している。
全体においては弱者ではあるが、敵を分断し局所において強者となるといういわゆる弱者の戦法は、「最悪の場合どうするか」を論ずる兵法において避けては通れないものであり、その趣旨において孫子は基本的用兵論の最後に、「死地作戦」という決戦的敵国侵攻作戦を通して、弱者の戦法の要諦と、それを実現可能と為らしめる孫子の用兵思想を総括するものとして本篇を位置づけているのである。
今回の孫子正解第13巻では、本篇全体の構成説明および前半の理論編の語句説明・解釈が中心に書かれており、後半の実践編は構成説明の部分で触れられているものの、詳説は次回以降になると思われるが、呉王の「あえて問う。敵、衆にして整い将(まさに)来たらんとす。これを待つこといかに」という問いに答える形で展開するその実践論では、戦場となる九つ各々の地形の物理的条件を適切に把握することは勿論のこと、その地形(戦場)が兵卒に与える心理的影響といった人的条件をも十分に考慮したうえで、その地形の対処ならびに活用を行っていくことが重要であることが説かれている。それは当たり前といえば当たり前ではあるが見逃されやすい、「戦う主体は感情を持つ生き物としての人間である」という事実に立脚したものであり、ここにおいても他の兵法とは比べ物にならない孫子兵法の深遠さが見て取れる。
孫子兵法はわずか6千余文字であり、その表現も簡素であることから、勢い字面のみを追い表面的な解釈に偏りがちである。しかし、孫子兵法に触れば触れるほど、その簡素な文の一つ一つのなかに、実は深遠な意味が隠されていることがわかる。その深遠な意味を読み解くためには語句の適切な解釈は勿論のこと、全体に流れている孫子の哲学、思想を十分に理解していることが必要不可欠である。その点においてこの孫子正解シリーズはまさにうってつけであり、孫子の哲学、思想に立脚したその内容の深さはほかの孫子本の追従を許さないものであると思う。孫子兵法の神髄に触れたい方にお勧めする。
内容紹介
本篇は、客戦である死地作戦を理論的に論ずる部分と、その具体的かつ実践的な適用・応用の実際を示す部分の二つから構成されている。
前者(其の一・理論篇)は、本篇・篇首から、『利に合えば而ち動き、利に合わざれば而ち止む。』までの段まで、後者(其の二・実践篇)は、『敢(あ)えて問う、敵、衆にして整い将(まさ)に来(き)たらんとす。之を待つこと若何(いかん)。』から、本篇・結言までの段を曰うものである。
前者(其の一)は、理論篇・総括的用兵論として、客戦と密接不可分の関係にある九地の解説を行うことと併せて、弱者の戦法の要訣たる〈第六篇 虚実〉の相対的局所優勢論を再説することにより、そもそも死地作戦を敢行する意義・狙(ねら)いは何処(どこ)にあるのかを改めて再確認させることを目的としている。今回の【孫子正解】シリーズ 第十三回は、とりわけこの部分を詳説するものである。
後者(其の二)は、実践篇・応用的用兵論として、その理論の具体的な適用・応用の実際を示すものであるが、それと併せて、〈第一篇 計〉から前篇の〈第十篇 地形〉に至るまでの所論を総括するとともに、これまでの重要命題を再説し、あるいは視点を変えて再論することにより、その軍事思想・用兵論の徹底を期せんとするものである。次回の【孫子正解】シリーズ 第十四回は、とりわけこの部分を詳説するものである。
この意味において、本篇は、〈第十二篇 火攻〉前半部の特殊作戦(火攻・水攻)を除き、孫子の用兵論(用兵原則)の纏(まと)めをなすものであるが、とりわけ、前者(其の一)は総括的用兵論を、後者(其の二)は応用的用兵論を論ずるものである。
【孫子正解】シリーズ 第十三回 死地作戦・其の一(理論篇・総括的用兵論)〈第十一篇 九地〉 目次
第一章 〈第十一篇 九地〉読み下し文
第二章 〈第十一篇 九地〉の構成分類
第三章 〈第十一篇 九地〉について
第一節 本篇の趣旨
第二節 主戦と客戦について
第四章 本篇の構成について
第一節 死地作戦・其の一(理論篇・総括的用兵論)
一、主戦・客戦・九地の関係、九地の意義、九地への対処の方針(在り方)
二、死地作戦の目的を再確認、及び弱者の戦法としての局所優勢戦略の要訣
第二節 死地作戦・其の二(実践篇・応用的用兵論)
一、客戦たる死地作戦の優位性と特色
二、絶地の意義と九地の活用法
三、順詳一向戦略の要訣
第五章 死地作戦・其の一(理論篇・総括的用兵論)
第一節 主・客両戦と九地との関係、九地の分類・定義・対処の方針(在り方)
第二節 死地作戦の意義とねらいの再説
一、相対的局所優勢演出の四要素
①敵軍の態勢を浮彫にさせ、自軍の態勢は秘匿すること
②迅速なる兵力の分散・集中・転移
③決戦の強要あるいは決戦回避の主動権を握ること
④敵兵力の決勝点集中を阻止すること(迅速なる兵力の分散・集中・転移の裏)
二、運動戦の至難性及び用兵原則・情勢判断
三、相対的局所優勢とそれを演出する迂直の計の戦例
前者(其の一・理論篇)は、本篇・篇首から、『利に合えば而ち動き、利に合わざれば而ち止む。』までの段まで、後者(其の二・実践篇)は、『敢(あ)えて問う、敵、衆にして整い将(まさ)に来(き)たらんとす。之を待つこと若何(いかん)。』から、本篇・結言までの段を曰うものである。
前者(其の一)は、理論篇・総括的用兵論として、客戦と密接不可分の関係にある九地の解説を行うことと併せて、弱者の戦法の要訣たる〈第六篇 虚実〉の相対的局所優勢論を再説することにより、そもそも死地作戦を敢行する意義・狙(ねら)いは何処(どこ)にあるのかを改めて再確認させることを目的としている。今回の【孫子正解】シリーズ 第十三回は、とりわけこの部分を詳説するものである。
後者(其の二)は、実践篇・応用的用兵論として、その理論の具体的な適用・応用の実際を示すものであるが、それと併せて、〈第一篇 計〉から前篇の〈第十篇 地形〉に至るまでの所論を総括するとともに、これまでの重要命題を再説し、あるいは視点を変えて再論することにより、その軍事思想・用兵論の徹底を期せんとするものである。次回の【孫子正解】シリーズ 第十四回は、とりわけこの部分を詳説するものである。
この意味において、本篇は、〈第十二篇 火攻〉前半部の特殊作戦(火攻・水攻)を除き、孫子の用兵論(用兵原則)の纏(まと)めをなすものであるが、とりわけ、前者(其の一)は総括的用兵論を、後者(其の二)は応用的用兵論を論ずるものである。
【孫子正解】シリーズ 第十三回 死地作戦・其の一(理論篇・総括的用兵論)〈第十一篇 九地〉 目次
第一章 〈第十一篇 九地〉読み下し文
第二章 〈第十一篇 九地〉の構成分類
第三章 〈第十一篇 九地〉について
第一節 本篇の趣旨
第二節 主戦と客戦について
第四章 本篇の構成について
第一節 死地作戦・其の一(理論篇・総括的用兵論)
一、主戦・客戦・九地の関係、九地の意義、九地への対処の方針(在り方)
二、死地作戦の目的を再確認、及び弱者の戦法としての局所優勢戦略の要訣
第二節 死地作戦・其の二(実践篇・応用的用兵論)
一、客戦たる死地作戦の優位性と特色
二、絶地の意義と九地の活用法
三、順詳一向戦略の要訣
第五章 死地作戦・其の一(理論篇・総括的用兵論)
第一節 主・客両戦と九地との関係、九地の分類・定義・対処の方針(在り方)
第二節 死地作戦の意義とねらいの再説
一、相対的局所優勢演出の四要素
①敵軍の態勢を浮彫にさせ、自軍の態勢は秘匿すること
②迅速なる兵力の分散・集中・転移
③決戦の強要あるいは決戦回避の主動権を握ること
④敵兵力の決勝点集中を阻止すること(迅速なる兵力の分散・集中・転移の裏)
二、運動戦の至難性及び用兵原則・情勢判断
三、相対的局所優勢とそれを演出する迂直の計の戦例