孫子正解シリーズの9冊目であり、第七篇「軍争」を詳説している。
孫子十三篇における「軍争」篇の位置づけは、いわゆる弱者の戦法の中核をなすもののひとつで、弱者の戦法の理論編である前篇「虚実」をうけて、その用兵作戦の具体的な実施要領を説く実践篇という形になっている。
戦争は戦う相手があって成り立つものである以上、相手との駆け引きによって勝敗が大きく左右される。駆け引きと言うと勢い戦場での戦いにおける駆け引きだと解釈が傾きがちであるが、著者はそれだけではないとしている。
この戦場での戦いにおける互いの駆け引きは、いわば勝ちを争う戦術的な駆け引きであり、それ以外に出陣してから戦場に到着するまでの、いわゆる利を争う戦略的な駆け引きがあるとしている。つまり「軍争」篇は、前段に戦場到着までの戦略的な駆け引きを、後段に戦場における戦術的な駆け引きの二部構成にから成っている。
そして筆者の詳説する今回の「軍争」篇の真骨頂は、戦場までの戦略的駆け引きの真髄として記されている、彼の「迂直の計」の真意とその本質的意義について述べた箇所である。孫子兵法を書いた他の書籍では、「迂直の計」を、「行軍を迂回することで敵を欺き、混乱させることで戦場到着を遅延させ、その隙に後から出発した自軍が先に戦場に到着せよ」という趣旨だとしている。しかし筆者の説いている「迂直の計」は、それとは似ても似つかぬものであった。
詳細は本書に譲るが、概略は孫子の言わんとする「迂直の計」は、そのように字面をそのまま訳したような単純なものではなく、双方にとって利のある争地を先に敵軍に占拠されてしまったときに、いかにして彼の利を我の利に転化できるかの問題であるとしている。そしてその問題を解決するためには敵軍の利する争地にこだわることなく、敵軍が無視できない新たな争地を自らが作りだし、そこに敵軍を引きづり込むことによって、彼の利を我の利に転化することができるのであり、それこそがまさにこの「迂直の計」の真髄なのだと説いている。
目から鱗の感である。著者の「迂直の計」に関する論を読めば、確かに唯物弁証論に立脚し、合理性の塊である孫子が、そのような稚拙なことを謂うわけもなく、いかに他の本が説く「迂直の計」が表面的で思慮の足りないものであるかがわかる。
またこの「迂直の計」は、彼の利と我の利との衝突という矛盾対立をいかに解決するかということを説くものであるということから、著者は毛沢東の「実践論・矛盾論」を引用し理解の補完を図っている。
まさにこの本無くして、孫子兵法の正解(正しい理解)なしといった感である。是非とも手にとって確かめられたい。
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【孫子正解】シリーズ第九回 弱者の戦法「局所集中戦略」実践篇〈第七篇 軍争〉 Kindle版
〈第七篇 軍争〉は、局所優勢戦略の理論篇たる前篇の〈第六篇 虚実〉を受けて、その具体的な用兵作戦、則ち「軍争」を論ずるものです。これについて孫子は『軍争の難きは、迂を以て直と為し、患いを以て利と為すにあり。』と喝破して、言わばその矛盾解決法たる『迂直の計』を説いております。
一般に、『迂直の計』は「回り遠い道をとってゆっくりしているように見せかけ、敵を利益でつってぐずぐずさせ、相手よりも後から出発して相手よりも先に(戦場に)行き着く」意と解されておりますが、これは孫子の真意から遠くかけ離れた妄想的解釈と言わざるを得ません。
そもそも軍争とは「戦いの駆け引き・機動」の意であり、一つは、局所優勢を演出するための戦略的軍争(戦場到着前の機動)を、一つは、戦場で勝ちを争う戦術的軍争(戦闘機動)を論ずるものであることは論を俟ちません。言い換えれば、孫子の曰う言わば矛盾解決法たる『迂直の計』の真意を体得するためには、まず、「軍争」の両側面をキチンと弁(わきま)えること、併せて〈第十一篇 九地〉に曰う『争地』について理解することが肝要であります。
このことにより、一般に解されている「迂直の計」なるものが、いかに能天気にして的外れなものであり、かつ曲学阿世的なものであるかがおのずから明らかとなり、同時に、孫子の論ずる『迂直の計』が、いわゆる矛盾解決法たる普遍的な原理原則を説くものであることが明確に理解されます。その内容は下記の「目次」に示す通りです。
第一章 〈第七篇 軍争〉読み下し文
第二章 〈第七篇 軍争〉の構成分類
第三章 篇名に曰う「軍争」の意味
第一節 広義の軍争(戦略的軍争)
第二節 狭義の軍争(戦術的軍争)
第三節 篇名に曰う「軍争」とは
第四章 戦略的な「利」を争う軍争・迂直の計
第一節 「迂直の計」の意義
第二節 「迂直の計」の理論的根拠(事物の矛盾の法則)
第三節 矛盾解決法たる「迂直の計」の条件づくり
第五章 本篇前段と後段との関係(間接的戦法と直接的戦法の本質)
第六章 戦場で「勝ち」を争う軍争
第一節 衆を用うるの法
第二節 敵を制する四法
(1)気を制する(無形上の交戦力たる敵軍の士気の虚に乗ずる軍争)
(2)心を制する(無形上の交戦力たる敵将の心の虚に乗ずる軍争)
(3)力を制する(敵軍の物質的要素の虚に乗ずる軍争)
(4)変を制する(ゆきづまりを打開する状況変化の要素を自己の支配下におく)
第三節 用兵の法……「現行孫子」と「竹簡孫子」の相違について
一般に、『迂直の計』は「回り遠い道をとってゆっくりしているように見せかけ、敵を利益でつってぐずぐずさせ、相手よりも後から出発して相手よりも先に(戦場に)行き着く」意と解されておりますが、これは孫子の真意から遠くかけ離れた妄想的解釈と言わざるを得ません。
そもそも軍争とは「戦いの駆け引き・機動」の意であり、一つは、局所優勢を演出するための戦略的軍争(戦場到着前の機動)を、一つは、戦場で勝ちを争う戦術的軍争(戦闘機動)を論ずるものであることは論を俟ちません。言い換えれば、孫子の曰う言わば矛盾解決法たる『迂直の計』の真意を体得するためには、まず、「軍争」の両側面をキチンと弁(わきま)えること、併せて〈第十一篇 九地〉に曰う『争地』について理解することが肝要であります。
このことにより、一般に解されている「迂直の計」なるものが、いかに能天気にして的外れなものであり、かつ曲学阿世的なものであるかがおのずから明らかとなり、同時に、孫子の論ずる『迂直の計』が、いわゆる矛盾解決法たる普遍的な原理原則を説くものであることが明確に理解されます。その内容は下記の「目次」に示す通りです。
第一章 〈第七篇 軍争〉読み下し文
第二章 〈第七篇 軍争〉の構成分類
第三章 篇名に曰う「軍争」の意味
第一節 広義の軍争(戦略的軍争)
第二節 狭義の軍争(戦術的軍争)
第三節 篇名に曰う「軍争」とは
第四章 戦略的な「利」を争う軍争・迂直の計
第一節 「迂直の計」の意義
第二節 「迂直の計」の理論的根拠(事物の矛盾の法則)
第三節 矛盾解決法たる「迂直の計」の条件づくり
第五章 本篇前段と後段との関係(間接的戦法と直接的戦法の本質)
第六章 戦場で「勝ち」を争う軍争
第一節 衆を用うるの法
第二節 敵を制する四法
(1)気を制する(無形上の交戦力たる敵軍の士気の虚に乗ずる軍争)
(2)心を制する(無形上の交戦力たる敵将の心の虚に乗ずる軍争)
(3)力を制する(敵軍の物質的要素の虚に乗ずる軍争)
(4)変を制する(ゆきづまりを打開する状況変化の要素を自己の支配下におく)
第三節 用兵の法……「現行孫子」と「竹簡孫子」の相違について
- 言語日本語
- 発売日2015/1/21
- ファイルサイズ2670 KB
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登録情報
- ASIN : B00SKLT05M
- 発売日 : 2015/1/21
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 2670 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効にされていません
- Word Wise : 有効にされていません
- 本の長さ : 147ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 246,981位Kindleストア (の売れ筋ランキングを見るKindleストア)
- - 404位ビジネスの意思決定
- - 439位リーダーシップ (Kindleストア)
- カスタマーレビュー:
著者について
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・山梨県出身
・拓殖大学政経学部卒(拓空会OB)
・元ラジオ日本・報道部放送記者、報道番組制作、都庁鍛冶橋記者クラブ他
・宝飾品販売会社経営
・(財)中小企業経営者災害補償事業団 教育学院副学院長
・現在、一般社団法人 孫子塾の塾長として「孫子に学ぶ脳力開発と情勢判断の方法」オンライン通信講座、「孫子兵法」通学ゼミ講座を主宰し、関連書籍の執筆活動を行うと共に、付属機関である日本空手武道会 拓心観道場の主席師範として「古伝空手・琉球古武術」の指導と普及に当る。
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2015年2月4日に日本でレビュー済み
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第七篇 軍争は、第六篇 虚実 理論篇からの流れで弱者の戦法たる用兵作戦を論じる言わば実践篇であり、孫子を全く知らない人でも周知であろう言、武田信玄の軍旗でもある「風・林・火・山」の書かれた篇である。
先ず今篇を読み解く上で鍵となるのは、戦略的軍争と戦術的軍争の両側面を弁えた上での「矛盾」の理解にある。これを理解する事によって初めて孫子の論ずる「迂直の計」の本来の意味に辿り着く事が出来る。内容紹介にも挙がっているが、「迂直の計」とは一般に言われているような右から左に訳しただけの様な浅学妄想的解釈ではなく、敵強我弱の状況にての遊撃戦法であり、その戦略的軍争における矛盾を弁証法にいう正・反を止揚し如何に合へ統一調和させるかを説く、謂わば矛盾解決法である。
それを読み解く材料として、毛沢東の唯物弁証法思想から著された有名な「矛盾論」を引用し、それを実現する為の臨機応変・状況即応の理念を脳力開発における「条件づくり」に結び付け、その理解における螺旋的上達構造を詳説されている。それを踏まえて「迂直の計」における用兵の要訣を暗示的に述べているのが、件の「風・林・火・山・陰・雷」となる。巷の一般的解釈ではどうにも腑に落ちない点が多々見られる今篇前段も、上記を踏まえて素直に読み解く事で孫子の意に適い、明確に意味が通ずるものとなる。正に孫子正解と言ったところか。
著者の書籍を読めば読むほど、人生に関する過去の考え方が如何に甘いものだったかを反省し、その不甲斐無さを改め前向きにならざるを得ない。私事であるが、何かを行う前のモチベーション向上の為、日常的に読み返す平素必携の書となっている。言うは易く行うは難しの言を挙げるまでもなく、出来て当たり前の事を継続して行うのが最も難しい。己を律し厳しく生きたいものだ。
先ず今篇を読み解く上で鍵となるのは、戦略的軍争と戦術的軍争の両側面を弁えた上での「矛盾」の理解にある。これを理解する事によって初めて孫子の論ずる「迂直の計」の本来の意味に辿り着く事が出来る。内容紹介にも挙がっているが、「迂直の計」とは一般に言われているような右から左に訳しただけの様な浅学妄想的解釈ではなく、敵強我弱の状況にての遊撃戦法であり、その戦略的軍争における矛盾を弁証法にいう正・反を止揚し如何に合へ統一調和させるかを説く、謂わば矛盾解決法である。
それを読み解く材料として、毛沢東の唯物弁証法思想から著された有名な「矛盾論」を引用し、それを実現する為の臨機応変・状況即応の理念を脳力開発における「条件づくり」に結び付け、その理解における螺旋的上達構造を詳説されている。それを踏まえて「迂直の計」における用兵の要訣を暗示的に述べているのが、件の「風・林・火・山・陰・雷」となる。巷の一般的解釈ではどうにも腑に落ちない点が多々見られる今篇前段も、上記を踏まえて素直に読み解く事で孫子の意に適い、明確に意味が通ずるものとなる。正に孫子正解と言ったところか。
著者の書籍を読めば読むほど、人生に関する過去の考え方が如何に甘いものだったかを反省し、その不甲斐無さを改め前向きにならざるを得ない。私事であるが、何かを行う前のモチベーション向上の為、日常的に読み返す平素必携の書となっている。言うは易く行うは難しの言を挙げるまでもなく、出来て当たり前の事を継続して行うのが最も難しい。己を律し厳しく生きたいものだ。