作者は歴史を色々な視点から見る必要性を述べている。本書は覇権国家の盛衰という視点から歴史を読み解き、「38個の歴史法則」導き出した。この歴史法則以外にも、世の中の法則や仕組み、うんちくが満載である。とにかく例え話が実に的確でわかりやすい。そして歴史小説を読んでいるかのように、おもしろく一気に読み終えることができる。
なぜ盛者は必衰なのか? 本書の歴史法則がそれを解き明かす。「成功は失敗のもと」「人生は観覧車のごとく」「おごれる人も久しからず。ただ春の夜の夢のごとし」。諸行無常の響きを味わいながら、“世界史がわかる”本である。
歴史の場合は100%事実をとらえることは不可能である。これは現代史でも同じである。また事実認定は同じでも、その解釈は人それぞれであることを考えれば、極論を言うと、自分の考えと全く一致する歴史本は自分で書くしかない。
ここでは、本書を読むことを前提として、三橋貴明氏の著作で学んだマクロ経済の視点も含めて、本書の補足を試みてみたい(間違っていたら、ごめんなさい)。
人間は一人一人では弱い存在であり、集団を作らないと外敵から身を守ることができない。外敵とは大きく2つ存在しており、一つは異民族の侵略(最近ではグローバリズムの侵攻)で、もう一つは天変地異、凶作、疫病などである。
ただし、そのような集団が形成されるには、その集団に属する人々が、身分の上下にかかわらず、自分たちはお互いが仲間で、運命共同体であるというアイデンティティーが存在していることが必須となる。ローマの場合、それを本書では「古代ローマ精神」と呼んでいる。
例えば日本の高校野球。出場する高校や選手とまったく接点がない“赤の他人”であっても、同じ都道府県というだけで、自分のことのように応援し、その勝敗に一喜一憂する。これが「共同体意識」である。オリンピックやサッカーのワールドカップも同様だ。つまり集団に共同体意識が形成される条件の一つとして、「共通の敵がいる」ということが上げられる。
そしてローマ共和制初期の段階では、貴族と平民の間に共同体意識が十分にあり、平民の権利が次々と認められていった。理由は、当時のローマ軍は平民も貴族も武器を自前で調達して、戦場で共に命をかけて戦っていた戦友同士だったのである。
さて、農業社会の経済力は国土の広さ(耕地面積)に依存している。ローマ共和国も領土が拡大するにつれ経済力が向上したのだが、人は誰しも欲望があるので、新たに得られた土地の分配に失敗した。具体的には本書を参照してほしいが、結果、多くの失業者が出たということだ。失業者の増加は社会不安に直結する。
そこで所得再分配の改革が模索されるのだが、このような改革は、実は独裁制でないと無理である。もしくは革命を起こすしかない。過去の歴史を通して、民主制においては必ず失敗していると言ってもよい。
巨万の富を得た「新貴族」は、おカネですべてが解決できると勘違いするニヒリズムに陥りやすく、平民との運命共同体意識が薄くなってしまう。よって貧民のための、自分たち裕福層の既得権や利益が削られる改革は、あらゆる手を使って妨害するからだ。
こうして、失業した平民に土地を与えるグラックス兄弟の改革は失敗し、ローマ市民から構成されるローマ軍も崩壊した。そこで失業したローマ人を傭兵として雇用することで救済し、崩壊したローマ軍を立て直すこととした。彼らを雇う費用は、大富豪の、兵役免除と引き換えの税金でまかなっていた。
また大富豪の農場で働く人々は、ローマとの戦争に負けて奴隷となった人々である。よって奴隷を供給するために、ローマは常に外側に向かって拡大して行かざるを得なかった。しかし時代とともにローマ軍がだんだん弱体化していき(ローマの水道管の鉛中毒もその一因と言われている)領土の拡大が止まった。結果、新規の奴隷労働者の流入がなり、ローマ経済の根幹であるラティフンディウムの崩壊が始まったのである。
この時点で、奴隷の流入が止まり耕作できなくなった大富豪の土地を国家が取り上げ、再び、ローマ市民に分け与えて自作農を作るという改革も考えられたが、グラックス兄弟の改革の失敗から200年、もう土地を耕すローマ人はいなくなっていた。
そして本書にある通り、キリスト教の蔓延により、ローマ人にとって最後の紐帯だった「古代ローマ精神」が失われ、ローマ帝国は崩壊したのである。
ちなみに「古代ローマ精神」とは具体的に何かと言われても、説明は難しい。古代ローマ帝国をローマ帝国ならしめているものとしか言いようがないので、ご了承の程を。日本の「大和魂」と「古代ローマ精神」はよく似ていると言われるので、参考までに。
次は中華帝国である。
なぜ支那大陸では儒教による「徳治主義」だけでは天下を統一できなかったのか。なぜ法家による「法治主義」と、それにもとづく「官僚制」が天下統一に必須だったのか。それは支那大陸の広さと、そこに住むあまりに多くの民族のせいである。
チャイナではすべてが漢字で表記されるので、登場人物すべてが漢民族と思いがちだが、実はついこないだの蒋介石の中国国民党の時代ですら、ひとつ山を越えると民族が異なり言葉が通じないというぐらいの、超多民族国家がチャイナである。現在でもメジャーな民族が国内に7つも存在している。もちろん中国共産党は、7つの民族はすべて漢民族であり、7つの言葉は漢語の方言であるという立場をとっているが。
言葉が違うとコミュニケーションをとれないので、複数の民族からなる帝国に、国全体としての共同体意識を形成することは不可能である。よって共同体の中にしか通用しない規律である「徳治主義」によって、天下を統一することは不可能となるわけだ。
そのような支那大陸を秦の始皇帝が強引に統一してしまってから、支那大陸がおかしくなったと言えるのかもしれない。現在の主要な7つの民族ごとに独立国家が誕生し、戦国七雄の時代に戻れば、それが本来の自然な支那大陸の姿であり、世の中がよい方向に向かうのかもしれない。
共同体意識のない超多民族国家を統治するには「法治主義」が必須の条件となる。つまり法を文章にして明確化し、どのような地方に住んでいたとしても、中央から派遣された官僚が全国一律に、その法に従って賞罰と徴税を公正に行うことを、強力な国家権力により徹底させ保障することである。つまりチャイナ帝国の第一目的は国民の統治ではなく、官僚をいかに統治するかということにあった。
経済成長には投資が必須であるが、投資とその利益の回収にはタイムラグがあり、一寸先は闇の社会では投資ができない。よって社会が安定し投資が可能となると経済は発展する。
戦国七雄のうち最も西方にあった秦は、民族の数も最大で、最も社会が安定していなかった。そのため、いち早く「法家」の政策を採用せざるを得なかったのだが、その結果として、戦国七雄のうちで最も社会が安定し、秦のインフラ整備は進み、国内生産力はうなぎ上りに上昇した。
経済が成長するということは、国民の所得が増え国民が豊かになることである。結果として国家の税収が増え、西方の戦車の導入など、秦のあの恐ろしく強大な軍事力を支えることが可能となり(富国強兵)、秦は初めて支那大陸を統一したのである。
秦の始皇帝は、チャイナ“始”めての“白”人(西洋人)の“王”だったと言われている。実は当時の支那大陸には、白人も多く住んでいたのである。特に燕や斉に多く、この両国は白人の国だったとも言われている。
儒教はユダヤ教の支那バージョンと言われており、支那大陸にいた古代ユダヤ人の子孫が信仰していた宗教である。春秋戦国時代の各国が儒教を採用していたのは、彼らユダヤ商人の莫大な財力と経済政策が国家運営に必須だったからだ。
国家統治に「法家」を採用したことで、秦は支那を統一できたのであるが、経済は経済の法則に従っており、秦国の法律や皇帝の命令通りに経済が動くものではない。適切な経済政策は依然としてユダヤ商人の手によるところが大きかった。そして金融資本家であり産業資本家でもあったユダヤ商人は、国が豊かになればなるほど、それ以上に彼らも豊かになったのである。
始皇帝も古代ユダヤ人の子孫(始皇帝の父は呂不韋というユダヤ商人)だと言われているが、彼らユダヤ商人の莫大な財力に恐れをなした始皇帝は、ヒトラーのように、彼らを一網打尽にすることを決めた。焚書坑儒と言われる儒教とユダヤ人の弾圧を開始したのである。
このとき多くのユダヤ商人が始皇帝の弾圧から逃れるため、朝鮮半島を経由して日本に渡って来た。彼らは「秦氏」と呼ばれている。
世界史の中で、焚書がなされたのは3回しかない。秦の始皇帝、ヒトラー、そしてGHQであり、キーワードや「ユダヤ」となる。
GHQのアメリカは、その人口の2%がユダヤ人であるが、ユダヤ人の自由が認められている世界最大の国である。と言うことは、GHQは日本人が古代ユダヤ人の血を引いている可能性を意識して焚書を行ったのだろうか?
支那大陸に住む人々の間では、内側の共同体意識はついに形成されなかったが、本書p.90にあるように「中華思想」という選民思想的プライドが、支那大陸の官僚を中心とした支配者階級の間に形成されていた。これが支那大陸のアイデンティティーとも呼べるものである。
支那大陸は周辺の草原、砂漠地帯と比べると遥かに豊かで、外国と貿易をしなくとも、支那大陸内で全ての生活が完結できていた。と同時に、その豊かな土地を狙って、周りから外敵が自分たちに向かって常にやって来るのである。
支那大陸もユーラシア大陸の宿命で、都市に城壁が必要な世界だった。そして支那大陸の人々は、その豊かな経済力を背景とした圧倒的な武力で、自分たちに向かってくるすべての外敵を追い払ってきたのである。
なぜ蛮族は周囲から自分たちに向かってやって来るのか? それは当然、自分たちが一番すばらしい世界に住んでいるからだろう、という錯覚に陥ったのが「中華思想」とも言える。
ところが地球の裏側の“妖怪”の世界からやってきた「英虜女酋」の国にアヘン戦争で敗れ、大清帝国は西洋諸国の半植民地となってしまう。これ契機に「中華思想」が全否定され、支那大陸はアイデンティティーを喪失した急性アノミーのような混迷の時代を向かえるのである。
そこに登場したのが毛沢東である。彼はソ連のスターリンに並ぶ傑物である。
まずは、蒋介石の国民党軍を日本陸軍に徹底的に潰していただいた。日本陸軍の相手は国民党軍に任せ、赤軍は日本軍とは戦わずに逃げろと指示を出していた。
支那大陸は広い。奥地に逃げれば逃げるほど日本軍の補給は困難となる。日本軍の攻撃が止まったらまた攻撃をしかけ、日本軍が反撃してきたら逃げるということを繰り返していた。結局日本陸軍は支那軍に連戦連勝して敗北したのである。
また毛沢東は、支那の利権を失いたくない英国(と、英国を利用した国際金融資本)の欲望をうまく利用して、英国に利用される形で英国を利用することにした(蒋介石のバックはアメリカですからね)。彼らのおカネが中国共産党を育てたのである。さらにその資金で蒋介石の国民党を支那から追い出すことに成功し、ここをもって中国共産党帝国が成立した。その初代皇帝が毛沢東ということだ。
ただチャイナ統一後、毛沢東は国際金融資本からも独立しようとしたので、経済政策の失敗という形で彼らの反撃を受け、失脚してしまう。しかし文化大革命で巻き返しをはかり、リベラル的かつ資本主義的な考えを持つ者はすべて国際金融資本の手先と見なされ、徹底的に殺すという反撃を始めた。巻き込まれた支那の人々は御愁傷様としか言いようがないが、そこまで徹底しないと国際金融資本と戦うことはできないことも事実であった。
ただ、支那大陸から外国勢力を追い出して中国を統一したカリスマ、毛沢東の権威を全否定してしまうと、スターリンを否定したソ連が崩壊したように、アノミーが生じて、支那大陸は再び混乱の世に戻る可能性が大きい。そこで何とか毛沢東と国際金融資本の手打ちが必要となり、実際に手打ちが行われ、毛沢東は復権した。
この辺の謎は、No2と言われたフランス留学組の周恩来が、実は毛沢東を監視する国際金融資本の代理人だったとすれば説明がつくのだが、まだ詳細は不明である。
なぜNo2の周恩来は、独裁者毛沢東に粛正されなかったのか。周恩来は、中国共産党の、いわゆる国際社会に対する窓口であっただけでなく、外交上の成果もすべて周恩来の力と言われている(毛沢東は一度も外国に出ていない)。また、開放路線の鄧小平を毛沢東からかくまったのも周恩来と言われている。
そして、いよいよ失われた「中華思想」を取り戻すべく、中国共産党は行動を開始する。
彼らは発展途上国に毛の生えたような状態から、まずは日本からのODAと技術供与でインフラ整備を着々と進めてきた。また「ソ連を牽制するために力になりますよ」とアメリカを騙して、科学技術や軍事技術をアメリカ側から無償供与してもらった。さらにソ連崩壊後も中国の経済は発展を続け、特に2001年WTOに加盟してからの経済成長は目を見張るものがある。
老子や孫子の兵法の国がチャイナである。人間の物欲と性欲と名誉欲を利用することが実に巧みである。よってこれまでの政権は「中華帝国再現の野望」などおくびにも出さず、第二次グローバリズムの中「チャイナで生産すると人件費が安いので儲かりますよ」とマネートラップを仕掛けて、(表向きはひたすら低姿勢で)先進国の技術と富を盗んできた。p.121の「中華思想をささえる圧倒的な経済力と圧倒的な軍事力」を身に付けるためだ。
特にクリントン、オバマ時代にアメリカは中国に対し経済的支援を積極的におこない、中国製品をどんどん輸入し、技術の移転盗用にも目をつむった。結果として、人口だけが多くてあの貧しかった中国が、2010年、とうとう世界第2位の経済大国に踊り出た。日本を抜いてアジアの一等国に返り咲いたのである。
中国共産党は、毛沢東が国際金融資本の一敗地に塗れたことを知っており、米ソ対決から米中対決に移行するため、必要のなくなったソ連が、彼らによって崩壊させられたことも知っている。つまり中国共産党は、国際金融資本の強大な力も恐ろしさも十分承知しており、彼らとガチンコの勝負をする気はまったくない。国際金融資本が没落するのは、人類が“おカネから卒業した時”以外にないことも理解しているからだ。
逆に国際金融資本側の誤算としては、中国も豊かになれば、もう少し自由民主主義的な動きが出てくるだろうと楽観していたところがあった。しかし中国共産党の「中華思想」は支那大陸の歴史に基づく独特なアイデンティティーで、たとえ共産党にかわる政権が出現しても変わることはない、と国際金融資本は理解したのである。
現在の習近平皇帝はアメリカの覇権に挑戦し、米中覇権戦争が始まっているが、これはアメリカとのガチンコの戦いではなく、国際金融資本家グループ内の、トランプ派 VS 反トランプ派の争いという流れで見る必要がある。
いずれにせよ、中国共産党とアメリカ合衆国の間に挟まれた日本は、米中対決の最前線となり、米ソ対決のときのベトナムやアフガニスタンのような、直接の被害者となる覚悟が必要となってきた。
次はイスラム帝国である。
イスラム人(教徒)はコーランの教えが絶対で、なかなか現実との折り合いができず、かつイスラム原理主義までが根強い力を持っている。しかしキリスト人(教徒)は、ごく少数の原理主義者もいるが、一般には聖書の教えと現実とをうまく使い分けている。
これは聖書と異なり、コーランが民法にあたる所までを規制しているため、普遍的なローマ法の精神がイスラムには根付かないからだとも言われている。
さらにここでは、モンゴル帝国によってもたらされたペストの流行を考えてみたい。
ヨーロッパではペストの流行で人口の2/3が死亡してしまったのだが、このペストの流行にローマ・カトリックのオカルトパワーはまったく通用しなかったのである。この経験がローマ・カトリックの権威の喪失に大きく役立った。しかしイスラムでは、そのようなコーランの権威が大きく失墜するような疫病が発生していなかった・・・。
世の中の聖人君子の教えは、その当時の社会状況とそこに住んでいる人々のレベルに合わせて説かれたものである。現在の我々のために説かれたものではない。よって、その教えの一字一句までもが現代にも当てはまると考えるイスラム人はどうかしているとしか言いようがない。
例えばお釈迦様は全てを捨てて出家し、托鉢の生活をせよと言ったが、暖かいインドだからできるのであって、日本でマネをすれば解脱する前に凍えて死にます。しかもお釈迦様の弟子や信者の多くは、もうこの世でやることのないような大金持ちばかりですからね。
“神様”は人を困らせるようなことはしない。うまくいかないのは、アッラーの神様が「それはやり方が間違っているからだよ」と教えていることに、早くイスラム人は気付いて欲しいですね。
次は、海洋国家、大英帝国の登場である。
ローマ帝国、中華帝国、イスラム帝国のような覇権国家は多民族を支配する「帝国」であり、かつ「大陸国家」である。そして農業社会の経済力は国土の広さと人口に依存していた。
ところが、近世ヨーロッパの時代から歴史は次の段階に移行する。資本主義経済による生産性の向上により、広い国土をもたなくても経済力(GDP)を高めることが可能となったからだ。
大砲や銃など新しい武器の発達で騎士が没落し、常備軍へと移行したことにより戦争に莫大な費用がかかるようになった辺から話は始まる。時を同じく宗教や王位継承がらみの戦争が多発するようになり、王様や領主は領民からの税金ではとても戦費が足りない状況となった。
しかし「すみません、今おカネがないので攻め込むのは待って下さい」が通らないのが戦争だ。つまり借金なしに戦争を遂行することが困難となったのである。
戦争に勝てば賠償金が手に入るが、それで借金のすべてを清算できるとは限らない。特に戦争に負けて賠償金を払ったほうは、借金の返済で大変なことになる。日露戦争でも日本はロシアから賠償金を取れなかったので、借金の返済に約80年もかかっている(1987年に返済が完了)。
王が民間から借りた借金の返済は、国民の税金から支払われる。そこで王は富国強兵政策を取らざるを得なくなる。当時市民と言われた、いわゆる経財界の人々の活動を支援し、国内生産力を向上させた。逆に国内への投資を怠り増税に走ってGDPを縮小させた王や領主は没落した。
当時、国王などにおカネを貸せるだけの莫大な金融資産を持っていたのは、いわゆるユダヤ人の金融資本家達である(日露戦争の際、日本おカネを貸してくれたのもユダヤ人です)。
ただ、ヨーロッパにおけるユダヤ人迫害の歴史から、ユダヤ人はいつでも逃げる準備が必要なので、持ち運びのできない工場や土地が必要な産業資本にはユダヤ人はいっさい関与していない。よって産業資本家、つまり当時の「市民」のほとんどはキリスト人であると考えてよい。
よく世の中で一番儲かるのが戦争だと言われるが、これは戦費を貸し付ける金融資本家や、武器商人など、その代金を受け取る側からみた話で、支払う側からすると、世の中で一番おカネがかかかるのが戦争というわけだ。
第二次産業革命を経て機械化が進んだ現代社会でも、また当時のヨーロッパにおいても、人が働かないとモノやサービスは生産されない。労働が、すべての付加価値や金融資産の根本であることはいつの時代でも同じだ。そしてヨーロッパの生産力を増大させた裏に、もちろんヨーロッパ人も働いたが、実はアメリカ大陸におけるインディアンやアフリカ黒人の奴隷労働による犠牲が隠されていた。( p.192「大西洋三角貿易」)
ちなみにアフリカでの奴隷調達は、西洋人が直接「人狩り」をしていたのではなく、現地の部族間の抗争を利用していた。それなりの金額は支払うから、負けた部族の人々を殺さないで売って欲しいと、それこそアフリカのすべての部族と交渉していたのである。
さて経済が発展していくと、その国の経済力は資本の蓄積にこれまで以上にますます大きく依存するようになる。当時のヨーロッパは金属本位制で、多くの金銀があればおカネをたくさん発行できて経済が発展するという「重商主義」の時代であった。よって世界中の金銀がヨーロッパに集まってきたのだが、生産力の向上があってこその重商主義であることを理解していない国があった。それがスペインである。
スペインは、アメリカ大陸からもたらされた大量のメキシコ銀貨(金融資産)で外国から物資を購入し、覇権国家として君臨していたが、国内に投資して自国の生産力を向上させることはしなかった。その結果、気がついたらスペインの無敵艦隊のすべての船がオランダ製であったという笑えないオチとなって、覇権はスペインからオランダに移行した。
交通機関の発達とともに、様々な商品が国境を越えて売買されるようになる。しかし当時の国際通貨は金銀であり(実際はほとんどが銀貨)、金銀は保管も大変であり、かつ重くて運ぶのも大変だった。そこでオランダは、400以上あった各国通貨をそれぞれの適正なレートでオランダのアムステルダム銀行の手形に変換できるようにした。そして色々な地域に行って商売を行っても、その地域にあるアムステルダム銀行の支店で代金決済ができるようになり、重たい金銀をいちいち運ぶ必要がなくなった。このような金融経済における商品決済システムにより商業を著しく発展させ、オランダの覇権をささえたのである。
しかしオランダの生産力がいかに強大であったとはいえ、さすがに国土面積が小さすぎて、大陸国家フランスの圧力をはねのけることができなかった。そしてオランダの成功パターンをそっくり真似たのが、わずか34kmのドーバー海峡を隔てたお隣の国、イギリスである。
前述のように金銀は移動で大変で、特にゴールドは量に限りがあり、使えばなくなってしまうというような不安や心配からか、なかなか消費や投資に回らず、経済成長に必要な量のおカネを市場に供給できないというマネーサプライ問題を引き起こしていたのである。もっとも貯め込んだにしても保管のリスクは高く、使用人に金銀を持ち逃げされる例が後を絶たなかった。
そこで、商人は金匠細工人(ゴールドスミス)にゴールドを預けたのだが、その預かり証(金匠手形)が紙幣として流通するようになった。
その後の展開を“お伽話”のように例えると、ロスチャイルド様が世界中の金鉱山を押さえ、またヨーロッパ中のゴールドをロスチャイルド様が預かり、ロスチャイルド様の信用を担保に市場におカネ(ゴールドの預かり証)を貸し出す形で流通紙幣を増大させ(信用創造)、マネーサプライ問題を解決したのである。
そしてイギリスの覇権を決定づける、中央銀行という画期的な制度がイギリスで作られた。
それまでの政府は市場に流通しているおカネを借りていたのだが、市場に流通しているおカネの量には限界がある。また返済は国民の税金によってまかなわれるので、税収の限界が借金の限界となり、戦争をし続けることができない。
そこでイングランド銀行が発行する「イングランド銀行券」のみをイギリス国内で使用できるおカネとし、そのイングランド銀行が発行するおカネを、政府が借用書(国債)と引き換えに借りて使用するという形にした。
こうすれば、政府が“無からおカネを発行する”のと事実上同じことになり、イギリスの生産力が続くかぎり(インフレ率が限界になるまで)は、政府はおカネを発行し続け、戦費を調達できるからだ。イギリスがナポレオンに勝って第2次英仏100年戦争に勝利したのも、このような中央銀行のシステムが大きく貢献した。
イギリス王室との秘密契約により、このイングランド銀行をロスチャイルド様が掌握。覇権国家の中央銀行を押さえることで、ロスチャイルド様は事実上世界金融のトップに躍り出ることに成功し、国際金融資本の総本家のような地位を確立する。
経済成長に必要な投資に関しても、イングランド銀行は生産設備やインフラへ十分な投資をおこない、本書で述べられているイギリスの産業革命をささえた。そして当時のポンドに対する信用は、イギリス政府というより、イングランド銀行の背後にいるロスチャイルド様の持っている莫大な金銀に対する信用であったと言ってもよい。(p.203の脚注13)
イギリス帝国は19世紀に海洋国家としては初の、世界規模の覇権国家となったが、以上のように産業革命による生産力とイングランド銀行による金融力(合わせて経済力)、そして7つの海を支配するイギリスの海軍力によるものであり、さらには情報の9割が行き来する、当時の海底ケーブルがすべてロンドンを経由するという情報力(インテリジェンス、謀略)によるところも大きい。国土の大きさでないことは明かですね。
さて、ここからはグローバリズムと帝国主義のお話となる。グローバリズムとは「国境を超えてモノ、ヒト、カネ(資本)の移動を“自由にする”こと」である。
まずは「モノの移動」である。三橋氏の言う「第ゼロ次グローバリズム」は、東南アジアの香辛料をヨーロッパに運べば高く売れるという、スパイスがその始まりである。それ以前にもシルクロードで有名な交易が存在した。
さて、香辛料や絹が歴史の表舞台に登場する代表産物なら、アヘンは歴史の表には出てこない代表的交易物資である。
アヘンは痛みに苦しむ者への神からの贈り物と言われた。戦争における負傷兵の、痛みでもがき苦しむ様を間近に見た兵士達は、もう戦争を継続することなどできない。アヘンで痛みを無くした負傷兵を見るからこそ、明日も戦場に赴けるのである。人類の歴史は戦争の歴史とも言われるが、アヘンがあればこそ、と言及しないのは片手落ちだろう。
話を戻して、自国で生産できるものでも、他国から買ったほうが安く手に入る場合はどうだろう。“経営”的視点からは確かに安い方が利益になる。しかし産業革命により人類史上初めて「過剰生産の問題」が出現するほど生産力が増加し、不足する必要物資を輸入するというレベルを越えた大量のモノが国境を越えて行き来する時代となり、話がまったく変わってしまった。
安価な外国製品の大量流入は、マクロ経済を考えると、国内の生産を壊滅させ失業などの諸問題が発生する。結果GDPは減少しその国は貧しくなってしまう。実際インドでは安価なイギリスの綿製品が大量に流入し、インドの木綿産業は壊滅した。
そこで関税をかけるのだが、モノを売る方の立場からは、関税を掛けられるとモノが売れなくなる。そこで他国に関税をかけさせないようにする、つまり“自由貿易”を強制することがモノの移動におけるグローバリズムである。お互いに必要なものを購入するという、交易との意味合いの違いを理解していただけただろうか。
では他国に関税をかけさせないようにするにはどうしたらよいか? ここからが帝国主義の話となる。
これまでの大陸国家であるローマ、イスラム、中華、ロシア帝国は、植民地もグローバリズムもへったくれもなく、国境など無視して、ひたすら領土を拡大して他国を自国にしていくだけである。帝国“主義”ではなく、まさに帝国そのままである。
ところが海洋国家である(ポルトガル、スペイン)オランダ、イギリスは相手国の領土にはあまり関心がない。港を押さえて貿易(商売)をすることが主眼であるからだ。
近代的商取引が成立していない地域には自国民を植民させて、自国と同じ経済圏にしてしまう。チャイナや日本のような政治経済の制度がしっかりしている国には、関税自主権と領事裁判権のない「通商条約」を押し付けれはOKである。
このように自分たちの商品に関税をかける権利のない国を植民地と呼び、その植民地を広げていくことが海洋国家の戦略となる。この戦略を「帝国“主義”」と呼び、これまでの大陸国家による「帝国」とは区別した。つまり帝国主義は海洋国家が覇権国となってから定着してきた概念である。
次に「ヒトの移動」に関してはどうだろう。これに関しては作者の「移民で読み解く世界史」を是非お読み下さい。
最後に「資本の移動」であるが、当時は植民地への資本の投下はなく、植民地は単なる搾取の対象でしかなかった。イギリスのインドにおける鉄道建設などの投資も、現地の経済発展のためではなく、あくまでイギリスのためのものであった。唯一日本のみが、朝鮮半島や台湾、満州、東南アジアなどに資本を投下し現地の経済を向上させた。
その理由は、残念ながら日本の植民地は、インドやインドネシア諸島、アメリカ大陸、支那のような豊かな国ではなかったので、搾取するものがなかったのである。よって、自分たちが豊かになるためには周りの人々を豊かにしなくてはならないというマクロ経済の“ルカの法則”(与えよ、さらば与えられん)を忠実に実行するしかなかった(p.279)。
イギリスが覇権国家となってからのグローバリズムの進展を簡単に見てみたい。これは「第一次グローバリズム」と言われているが、1816年イギリスの貨幣法による金本位制から始まり、1929年の大恐慌で世界がブロック経済に移行し、終了した。
ポンドの価値は、ポンドで買えるモノやサービスの価値に由来しており、従ってイギリスの生産力がポンドの価値をささえる根本となる。とはいえ、ポンドを国際通貨として流通させるためには、19世紀の人々の潜在意識にすり込まれているゴールドの信用にポンドをリンクさせる必要があった。そこでイギリスはポンドとゴールドの兌換を法律で保証したのである。金本位制である。
覇権国家イギリスは、グローバリズム、すなわち国境に影響されない自由貿易を推進したが、その中にあって、輸出に関しては自由貿易の恩恵にあずかり、輸入に関しては保護貿易を行って国内経済を発展させた国が二つあった。ビスマルクにより統一されたドイツ帝国と、南北戦争後のアメリカである。そしてグローバリズムの「資本の移動の自由」の恩恵を受けたのも両国である。
経済成長には大量の投資が必要であるが、逆に金融資本家にとっては経済が成長するところに資金を投入しないと、自分たちの金融資産を増やすことができない。よってアメリカ合衆国とドイツには大量の資金が投入され、その資金がまた両国の著しい経済発展を支え、第二次産業革命によって、覇権国家イギリスをおびやかす存在にまで成長したのである。
特に第一次大戦後のナチスドイツに大量の資金が流れ、ナチス政権下のドイツの経済成長と軍拡を可能にした。
つまり自由貿易と資本移動の自由というグローバリズムは、グローバリズムを推進した覇権国家イギリスを衰退させてしまう副作用があったのである。
ちなみにこう着状態に陥っていた第一次世界大戦が唐突に終了したのは、1920年前後のパンデミックとなったスペイン風邪の流行で、戦争などしていられなくなったというのが実情だった。イギリスは第一次世界大戦の後方支援として、チャイナから人夫を100万人ほどヨーロッパ戦線に投入したのだが、その中に支那大陸の風土病であったインフルエンザに罹患していた人がいて、それが世界中に広まってしまったのである。
当時は世界大戦中で報道規制が敷かれており、最初にスペインで報道されたのでスペイン風邪と言われるようになった。全世界で2000〜5000万人が死亡したとも言われている。結果、「風が吹けば桶屋が儲かる」の原理で、スペイン風邪は第一次グローバリズムを終焉させたのである。
次は いよいよ本命のアメリカ合衆国である。
帝国主義の時代となり、邪魔な君主や王がいなくなったグローバリスト達は、自分たちのカネ儲けのために、お互いに激しいバトルロイヤルを繰り広げながら、自分たちの私腹のために国を動かすようになった。そのためにはマスコミを利用して国民を騙す必要があり、その完成された形が、建国の初めから民主制だったアメリカ合衆国である、ことは本書にある通りだ。
また本書を読むと、アメリカのあまりに幸運な出来事の連続に驚くであろう。“神様”はアメリカをイギリスに代わる覇権国家にするために、このようなシナリオを書いたのですね(笑)。
アメリカの見方であるが、アメリカはイギリスの植民地であった。よってイギリスを中心としたヨーロッパの国際金融資本が、当初からアメリカの金融経済を支配しようと動いていた。そしてFRBという、完全な民間銀行をアメリカの中央銀行にすることに成功するのである。
つまりアメリカ人は、インディアンやバイソン、プレーリードッグ、クジラなどを虐殺した因果応報?で、建国当初から自分たちの富を国際金融資本家にピンハネされる宿命を背負った。また、アメリカ移民の中からも石油王ロックフェラーに代表される産業資本家や金融資本家が続々と育ち始め、現在のウォール街の人々と言われるグローバリストが形成された。
1994年徳間書店から出版されたやや古い本ではあるが、藤井厳喜氏の著作「ロックフェラー対ロスチャイルド」にその辺の事情が分かりやすく書かれており、国際金融資本の基本を理解するための古典的名著である。
p.300 で紹介されている世界大恐慌は、マクロ経済的に言うと「デフレ不況」である。これは国内に十分な生産力があり、モノが有り余っているにもかかわらず、有効需要(GDPを増やす消費)がないために、モノやサービスが売れず、結果庶民が貧しくなって行く不況である。GDP三面等価の原則から、モノが売れない → 所得が下がる → よりモノが売れない、という悪循環に陥る。物価も下降するが、それ以上に賃金が低下し、失業も増加していく。
よって対策は、F・ ルーズベルトのニューディール政策のように、おカネを発行できる政府が有効需要を創出することである。つまり、公共事業などを行って政府が労働者に賃金を支払う → 労働者が市場でモノやサービスを購入できるようになる → 消費が増えて経済が回復してくる、という道筋となる。
ではなぜバブルの崩壊(株価の大暴落)からデフレ不況が始まるのか。
バブルは金融経済の話で、株や土地などの資産の値上がり利益を見込んで“借金をして資産を購入”する投機により生まれる。例えば1000万円借金して買った株式が1億円になったら、何もしないで9000万円儲けることができるからだ。
だがバブルは必ず崩壊する。いつバブルをいつ崩壊させるかは、いつ金融引き締めをおこなうかということであり、それは国際金融資本が決める。そしてバブルが崩壊する直前に売り抜けて、自分たちの利益を確保する。
一方ほとんどの人々は、資産価値の下落により借金を銀行に返済しなくてはならなくなる。つまり1000万円借金して買った株式が100万円に下がってしまうと、900万円の借金が手元に残るわけで、投機はギャンブルと同じである。
その結果、実体経済に回るはずだったおカネが、この借金を返済するために使われてしまい、実体経済の消費が増えない。消費が減る → 所得が下がる → より消費が減る、というデフレスパイラルが発生するのである。
また、二束三文になった優良企業の株を国際金融資本は買い占めて、ここでも利益を確保する。つまり国際金融資本にとってバブル崩壊は、2重に儲けるおいしいイベントなのだ。日本のバブル崩壊も同じですね。
さて、第二次世界大戦後に世界の覇権国家に躍り出たアメリカであったが、この時点ではソ連という強力なライバルが存在し、アメリカの覇権は完成していなかった。
しかし広島長崎の原爆投下により、米ソ両国の直接軍事衝突は不可能となった。核戦争に勝利者は存在しないからである(相互確証破壊)。結果、作者が言うように「無制限に武力がモノを言う時代」が終了したのである。
またキューバ危機では大陸国家ソ連が手を引き、ベトナム戦争では海洋国家アメリカが一敗地にまみれたことから分かるように、大陸国家が海に、海洋国家が大陸に深入りする危険性も明らかとなった。
第二次世界大戦後は、アメリカの圧倒的な生産力と軍事力を背景に、ドルが国際通貨となった。しかし金本位制の場合は、どれだけ生産力があっても、発行できるドルの量は保有しているゴールドの量によって決められてしまう原則に変わりはない。
ベトナム戦争で大量のドルを発行してしまったため、そのまま金本位制を続けていると、必要な量のドルを発行できなくなり、必要な経済政策を打てなくなってしまう。そこでニクソン大統領はドルとゴールドの兌換を停止すると発表したのである。
「各国の管理通貨制(金融政策の独自性)」「資本(おカネ)の移動の自由化」「固定為替」は同時に2つまでしか成立しない。これは「国際金融のトリレンマ」と呼ばれている。戦後のブレトンウッズ体制で、各国の通貨とドルの交換比率を固定されたため、それぞれの国は「自由に自国通貨を発行できない」もしくは「資本の移動を制限する」しかなくなった。これが「アメリカの世界金融支配」である。
そして金本位制を止めたニクソンショックにより、ドルの他国通貨に対する価値は、アメリカ政府の手から離れて市場の取引で決まるようになった(変動為替相場)。これが本書で述べている「アメリカによる世界金融支配が崩壊」したということである。
では国際通貨としてのドルの価値の担保をどうするのか。ここで天才キッシンジャーが登場する。石油取引の決済をドル以外で認めないことに成功したのである。つまりドルの価値を石油と結びつけたわけだ。
ドルがないと石油が買えない。ドルがあれば石油を買える。基軸通貨という言葉もあるが、「世界で最も大切なものを購入できるおカネ」という概念である。その為にキッシンジャーは世界最大の産油国であるサウジアラビアと裏取引をしたと言われている。
話を戻して p.326「再び強いアメリカを目指す」レーガン大統領が登場し、スターウォーズという突拍子もない計画をぶちあげた。さすが元俳優と散々バカにされた計画であったが、ソ連のすべての原子力潜水艦が浮上するという事件から、ことの重大性が明らかとなった。原潜に位置情報をしらせるソ連の人工衛星がアメリカの人工衛星により機能停止に追い込まれたのである。結果、ICBMを搭載したソ連の原潜がまったく機能しなくなり、短時間ではあるが米ソ間の、核の「相互確証破壊」が崩れたことが全世界に知れ渡ってしまった。
このような宇宙(成層圏)での戦いにかかるおカネは莫大で、ソ連は経済総力戦に追い込まれてしまう。アメリカよりも生産力が著しく低かったソ連経済は、ウクライナのチェルノブイリ原発事故を契機にとうとうギブアップ。結局、一発のミサイルも飛び交うことなくソ連は崩壊し、ロシアを含め多くの諸国が独立した。(その事務手続きを行ったのがソ連のゴルバチョフ大統領で、彼も国際金融資本の代理人であった。)
軍隊による“熱い”戦争ではないが、軍拡競争で需要に生産供給が追いつかず経済が破綻、国家が崩壊し“領土を失った”ということは、“冷戦”はまさに戦争だったのである。また「覇権国家の戦いは生産力の戦いである」ことが改めて実証され、ソ連の崩壊をもって第三次世界大戦が終了したとする考えも出てきている。
このソ連崩壊で、軍事的にアメリカに対抗できる国は地球上から消滅し、帝国主義の時代における「国家 vs 国家」のフェイズが終了した。つまり帝国主義の最終ランナーがアメリカに確定したのである(p.336)。以後、グローバリストはアメリカ国家を利用して、関税自主権と領事裁判権の撤廃を全世界に向けてしかけていくことになる。
その最初のターゲットが日本となった。日米構造協議など一連の対日要求だったが、もともと日米安保条約下の日本には領事裁判権はなく、また自由貿易の強制はさすがに時期尚早であったので、後の多国間条約にまかせ、その代わりに「金融の自由化」を実現した。
金融の自由化とは、日本国内の金融証券市場などで外資が自由に活動でき、かつその利益を自由に日本国外に持ち出すことを認めるということである。バブル崩壊で日本が1000兆円の金融資産を失ったのも、この「金融の自由化」が大きな原因の一つである。
そして、いよいよ多国間による関税自主権の撤廃(TPP)が実現するはずだったが、TPP反対のトランプ氏がアメリカ大統領となり、TPPは事実上失敗となった。
さて、日本以外に目を向けると、アメリカンルールに反発したとしても、まともにアメリカと戦争することは不可能なので、世界はテロや局地紛争の時代となった。最近はむしろアメリカが積極的にテロや局地紛争を誘導し、グローバリストの利益を計っている。ハリウッド映画でよく描かれているような内容である。特に中東の政情不安や北朝鮮問題はグローバリストである武器商人が儲けるために演出されている。
9.11の同時多発テロも、アメリカのグローバリストが仕組んだ“やらせ”であることはすでに知れ渡っているが、あの世界を騒がせたイスラム国も、その資金源をさぐると実はアメリカのウォール街に由来するアングラマネーで、武器装備もアメリカ製、人道支援の国連のトラックを利用して物資が輸送されていた。その裏には必ずビジネスがあり、シリアの「石油利権」をねらったマッチポンプであったという、これまたハリウッド映画にそっくりの話である。
アメリカは正確に言うと人種差別ではなく、財力差別主義の社会である。能力のある者はおカネを稼げて、おカネを稼げない者は能力がないとみなされる。つまり、どれくらいおカネを持っているかで評価が決まる社会というわけだ。そしてそれぞれの稼ぎに応じた階級が発生し、その中の人々とおつきあいをする、もしくは秘密結社みたいな仲良しクラブを作ってしまう。黒人でも、お金持ちの黒人は貧乏な黒人と交際することはない。
アメリカは「おカネがすべての社会である」とわかると、なぜアメリカ人やグローバリストが、他人の利益を奪ってまでカネ儲けに走るのか理解できる。財力差別主義の社会であるため、彼らには自国の貧しい人々との共同体意識がなく、彼らが貧困になるのは、すべて「自己責任」だからである。
そのように、グローバリストは覇権国家アメリカを利用して、自分たちの暴利を貪ってきたのであるが、アメリカ国民の貧困化がリーマンショック後より隠しきれなくなった。そしてパナマ文書によるタックスヘイブン、NSAのスノーデン氏による暴露などで、アメリカ国家を陰で支配しているディープステイトの存在を否定できなくなり、グローバリズムに対するアメリカ庶民の怒りが爆発した。トランプ大統領の選出である。
しかしトランプ大統領自身もアメリカの不動産王で億万長者である。つまり本来は、「国際金融資本、グローバリスト、ウォール街の人々」側の人間である。そもそもアメリカの大統領になるには莫大な資金が必要で、あちら側の人間でないと決して大統領にはなれない。
アメリカの支配者達の予定では、トランプは大統領候補に入っていなかった。だがトランプは大統領になりたかったのだろう。前述したように、オバマ政権8年のグローバリズムとディープステイトによるインチキ政治に嫌気をさしていたアメリカ国民の思いを汲めば、大統領になれると確信したのである。
本書でもトランプ氏の発言はメチャクチャであると指摘されているが、これは国際協調という、アメリカの国民が辟易しているグローバリズムの美辞麗句を、アメリカ国民の喝采を浴びる為に、メチャクチャにこき下ろした発言であるとも言える。
不動産王トランプは約束を守る男である。彼は、グローバリストである無国籍巨大企業や国際金融資本、俗にいうウォール街の人々の利益一辺倒ではなく、国内労働者の所得が増える政策(失業率の低下)を実行した。それはアメリカの実体経済を回復させることである。そしてアメリカは白人だけでなく、黒人やヒスパニックの所得が建国以来の最高水準に達したのである。
ところが、ウォール街を中心としたグローバリストには青天の霹靂だった。絶対に当選するはずではなかったトランプ大統領の登場で、グローバリストは勝手気ままな行動がしにくくなったのである。とにかくトランプを何とかしなくてはならないと、すべてのメディアマスコミで大ウソの反トランプ報道を繰り広げている。2014〜2020年までのアメリカは、まさに「トランプ VS 反トランプ」の戦争状態となっている。
物事、そう単純ではないのだが、あえて単純化すると、トランプの背景にはロスチャイルド様に代表されるユダヤ資本が、反トランプの背景はディープステイトの取締役であるロックフェラーの関与が言われている。そういう意味で、デイヴィッド・ロックフェラーが死亡した2016年にトランプ大統領が誕生したのは、何かの因縁だろうか?
トランプ大統領の「アメリカ第一主義」は、自分たち大金持ちの金融資産の価値を維持するには、アメリカの国民を裕福にして、アメリカ国家の生産性の向上と軍事力の維持を計らないとダメだという、マクロ経済の“ルカの法則”に基づいたまっとうな政策である可能性が十分にある。
それに対して反トランプ陣営の人々にとって、庶民は彼ら支配者階級のために生まれてきた家畜である。スポーツ、スクリーン、セックス、芸能、グルメで適当に飼いならして、餓死しようが戦争で死のうが知ったことではない。前述のように共同体意識がないからである。
イギリスの考察で述べたように、グローバリズムという帝国主義は、帝国主義を主導する国家を破壊するという自己矛盾を内蔵したシステムである。しかし実際のところは、アメリカという覇権国家が弱体化すると、グローバリストも困るのである。
なぜなら、彼らの稼ぎは最終的にはドルに変換される。前述のようにドルは基軸通貨であり、ドルがあれば世界中の「モノやサービス」を購入できるからだ。そのドルの価値を維持しているのが、アメリカの生産力であり、アメリカの軍事力、そしてその軍事力を支えるアメリカ国民の豊かさである(富国強兵)。
つまりグローバリストが最も嫌いな「国民国家」(この場合はアメリカ)そのものが、彼らの金融資産の価値の根本となっている。よって彼らが世界中から貪ったドルの価値を維持していくには、アメリカの覇権を維持していかねばならないという、グローバリスト側にも自己矛盾を内蔵している。
ではグローバリストが理想とする世界統一政府はどうだろう。こちらもEUの失敗でまったく目処は立っていない。
昨年(2019)の10月に、陰謀論で有名な「世界経済フォーラム」で「コロナ・パンデミック・シュミレーション」が開催されており、この“インチキ”コロナパンデミックは、世界中の反トランプ陣営のために、トランプを潰す為に計画され、実行された。中国共産党が主張している「コロナはアメリカのディープステイトが持ち込んだ」は正しいのである。
しかしこのパンデミックで、21世紀の文明の下であっても疫病が広がれば世界経済はあっというまにダウンしてしまうことが露呈してしまい、「国境」の重要性、特に無制限な「人の移動」は禁忌であることが世界中の共通認識となってしまった。結果、現在の第二次グローバリズムが終わりを迎えようとしている。よって作者の言うようにアメリカが最後の覇権国家となるだろう。
では世界はどのような方向に向かうのだろう。歴史は繰り返す。ぜひ本書の中からそのヒントを見つけて欲しい。
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
無料アプリを入手するには、Eメールアドレスを入力してください。

1分以内にKindleで 「覇権」で読み解けば世界史がわかる (祥伝社黄金文庫) をお読みいただけます。
Kindle をお持ちでない場合、Get your Kindle here Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
Kindle をお持ちでない場合、Get your Kindle here Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。