この本で書かれていることは啓蒙書としては大事な仕事をしている。
通常数学言語で説明される内容を、的確な具体例で、平易な言葉で解説された努力には
敬意を表したい。
一方で、注目を浴びている啓蒙書でもあり、最近急速に注目を浴びるようになってきているので、
建設的な意味で、重要なことを指摘しておきたい。
1.前半のランダム化比較実験と自然実験の部分はいいのですが、
それ以降のDinDや、IV、マッチング法、回帰等の手法で、「因果関係の存否」が推論できる、というのは、やや誤解を招く言い方、本の構成の仕方です。かなりきつい、ほとんど現実には成立しない仮定の下でしか、因果関係のエビデンスはオファーできません。どちらかというと、あくまで「意味のある関連」のエビデンスが言えるのがやっとであり、因果関係をいうには、背後のメカニズム、想定している行動や市場に関するモデルの想定が必要です。もっというと、この「エビデンス」という言い方は、誤解を招きやすい言葉です。
法廷で使うことができるエビデンスでは全くないです。「傾向として若干サポートすることができる発見」という程度の意味です。学術的には、Supporting Findingという言い方がより適切でしょう。
2.ちょっとだけ触れられてはいますが、この本で言えることは、Outcomeと政策変数との因果関係であって、政策の目的、社会経済の厚生との関係は、まったく分かりません。ここに恣意性が入り込む危険があります。
さらに、因果関係は分かっても、それを生み出している背後のメカニズムは不明ですから、政策担当者を説得することは困難でしょうし、本当の意味でのCounterfactual 分析をすることはできません。
実際の政策現場で最も大事なことは、そもそも何が政策目標であるかです。これは、決してやさしい問題ではありません。
3.むしろ、こうした因果関係自体は正しくても、それを実際採用するべき政策との間には、大きな開きがあります。Outcomeは政策ではありません。偏見が助長される危険すらあります。
一番怖いのは、「教育の分析では、XとYとの因果関係はこうだった、だから、あなたの行動は間違いだ。。。」みたいな、絶対あってはいけない間違った、トンデモ議論が起きる危険があります。
こうした限界を認識しつつ、正しくこれらの方法論を使用していくべきだと思います。
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