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5つ星のうち 5.0 ベルトルッチのロマンチシズムとマルキシズム, 2012/4/12
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「1900年」、意味深長なタイトルである。19世紀の最後の年から20世紀の半ば、ふたつの世紀を跨いだ激動の時代を描いた今作は、ベルトルッチが好むか好まざるかを措いて、彼が心底信じた「社会主義」について苦渋と共に考えざるを得ないタイトルだと思う。
20世紀とは近代政治史にとってどんな世紀だったのか、なんて小難しい理屈から始めるのは心苦しいが、社会主義と言うものが、ふたつの大きな世界大戦と戦後の混沌を挟んで、帝国主義列強諸国の悪弊や弱体化を受けて、高揚感と共にその思想や運動が隆盛した時代、そして、大いなる自己矛盾と恐怖と共に崩壊終焉していった世紀と位置付ける事が出来るんじゃないか。

1945年、ムッソリーニ政権が倒れイタリアが解放された日、映画のラストから遡って幕を開ける今作は、1900年に北イタリアのポー河流域のある地主領で、同じ日同じ場所で生を受けながら、ひとりは大地主の跡取りとして、もうひとりは小作人頭の息子として誕生したふたりの友情と階級的確執を主軸に、当時の政治状況を縮図化して、20世紀のイタリア近代史を照射する試みがなされている。

ランカスターを地主、ヘイドンを農民、デニ―ロをリベラル、ドパルデューをコミュニスト、サザーランドをファシストの代表として割り当て、類型的図式主義、善悪二元論の物差しの中、ロマンチシズムとデカタンスのスパイスをたっぷり効かせながらのほとばしるような葛藤のドラマ。
圧倒的映像美を以て豊饒な色彩感覚を駆使し、絵画の如きイタリアの田園風景と四季を描く絢爛豪華な映像絵巻。
正に、愛と情念の水流が累々と流れる悠々たる通俗的大河ロマンとして5時間20分、だれる部分なく映像世界に釘付けにさせてしまうベルトルッチの力技は凄い。
ヨーロッパの芸術映画を5時間超も見せられるのかと怖気づかれる方も、騙されたと思って是非御覧頂きたいと思う。

ベルトルッチ、ストラーロ、モリコーネ。才気ある一流芸術家たちの優れた仕事ぶりが目を瞠るが、俳優たちの演技の素晴らしさも特筆ものだ。
いちいち名を挙げるのは省略するが、中でも、大地主に一歩も引かず対等に物言いをした気骨ある小作人頭のスターリング・ヘイドンの重厚な存在感と、常軌を逸したぎらつかせた目で農民たちを虐殺していく黒シャツ姿のファシストのドナルド・サザーランドの残忍な悪役ぶり。
かって赤狩り時代に密告者として仲間を売った悔悟の過去を持つヘイドンと、思想家アントニオ・グラムシを支持し、ジェーン・フォンダと共にベトナム反戦運動を行っていたサザーランド。
それぞれに今作への強い思いを抱きながらの役柄へのアプローチだったと思うが、今も脳裏に焼き付く名演であった。
(蛇足ながら、主要キャストで最も目立たないのが、意外にもロバート・デニ―ロ。それは、彼の役柄がひ弱なインテリで抑えた演技をしなくてはいけなかったからだと推測するが、性格演技はお手の物であった彼からすると物足りないと思ったのか、同時期撮影の「タクシー・ドライバー」ではその本領を遺憾なく発揮していた。)

ところで、今作が、コミュニストであったベルトルッチにとってイタリア共産党に捧げられた作品である事はよく知られている。
ベルトルッチは今作の事を、
〜“これは田舎の、そして農民についての映画だ。大地に生まれ、歩き、生活する事についての映画だ。私はメロドラマの作劇を取り入れ、大衆的な映画を作る事にした”
と語っている。
だからこそ、自然をより意識出来るように物語を4部構成とし、それぞれを20世紀初頭から第一次大戦まで続く主人公ふたりの少年時代である夏、社会不安が増長し、ファシズムが台頭、戦争が勃発する秋、冬の時代を経て、ラストの農民解放を迎える春と、四季のシンボリックなイメージに重ねていったのだ。

ラスト、戦争が終わり、解放の時が来た農民たちにとってはユートピア的な1日。
画面一杯にひるがえる赤旗の鮮やかさ。
ロマンチシズムとマルキシズム。
これは社会主義の勝利であり、ベルトルッチの臆面もないシンパシ―に他ならないのだが、資本主義の処方箋として登場した社会主義が、実はとんでもない副作用があった事が見えてしまった今日では、何とも辛く重いラストだ。
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このトピックの全投稿7件中1件から7件までを表示
最初の投稿: 2012/04/14 22:28:37:JST
投稿者により編集済み(最終編集日時:2012/04/14 22:31:29:JST)
Bo-he-mianさんのコメント:
hide-bon さま

掲載おめでとうございます!そして素晴らしいレビューです!
デ・ニーロが「リベラル」との位置づけ、確かになるほどと思いました。私は実に単純な構造でこの映画を観てしまっていた(苦笑)。
メキシコ革命を背景にしたマカロニ・ウェスタンの『群盗荒野を裂く』でも、小作農たちに篤く接するリベラルな地主が出てくるのですが、革命側にとっては十把ひとからげに「権力者」として処刑されてしまう皮肉なシーンがあるのを思い出しました。

本作のドラマ構成を四季に重ねた解釈にも脱帽です(これまたおっしゃる通りです!)。本レビューには深く感銘です。参りました(笑)。
実は私、リバイバル時のパンフが行方不明で、今回は自分の印象だけでレビューを書いたのですが、ベルトルッチの言葉を引用して『1900年』はメロドラマである、との話に同感です。小説でこれをやってしまうと甘っちょろいと言われてしまうかもしれませんが、映画は小説とは違うものだと思います。

丁度いま『暗殺の森』を再見して、『1900年』とのあまりの違いに改めて驚いています。反ファシズム、というテーマは根底で共通していても、『暗殺の森』はインテリ(ゴダール)への決別表明だと言う事が、比較することで具体的に再認識できました。
『1900年』は大衆映画なのですね!

前の投稿への返答(返答日時: 2012/04/15 1:40:41:JST )
投稿者により編集済み(最終編集日時:2012/04/15 1:57:34:JST)
hide-bonさんのコメント:
Bo-he-mian さま

コメント、早々にありがとうございます。
貴殿の仰る通り、NGワードの問題だったのかも知れません。
お誉め頂き恐縮です。
これでも、当初のレビューからはかなり削りました(笑)。
デニ―ロをリベラルと見立てたのは讀賣新聞記者で映画評論家の河原畑寧氏が書かれていた映画評がどこかで記憶に残っていたからですし、四季をモチーフにした解釈はベルトルッチ自身が語っていた事でもあります。
「群盗荒野を裂く」は残念ながら未見なんですが(以前告白したように、自分は西部劇やマカロニ・ウエスタンのジャンルはヨワイのです)、70年当時の硬派映画ジャーナリズムからは高評価されている作品との印象があります。
リベラルは社会民主主義みたいなモノで、ブルジョワ諸共敵であるとの感覚は、当時の新左翼的思想の本質を捉えていると思います。
今作がメロドラマ的要素が強いのが大甘であるとの一部の指摘もごもっともだと思いますが、大衆映画ですからこれで良いんですよ。
「暗殺の森」を再見されたとの事ですが、今回自分も久しぶりに「1900年」をLDにて観直してみて、改めてその肌触りの違いを確認出来ました。
どちらも素晴らしい傑作ですが、カルト・ムービーとして魅力なのは、破綻が多くても「暗殺の森」だった事も認識出来ました。
貴殿のレビュー、期待しています。
自分は半年前にUP致しましたが、一部修正して書き込みたいと思っています。

前の投稿への返答(返答日時: 2012/04/16 1:21:17:JST )
Bo-he-mianさんのコメント:
hide-bon さま

レス、遅くなってすみません。
『暗殺の森』レビュー、中々苦心しております(笑)。
観ている時は、書きたいネタがあれこれ浮かんで来たのですが、『1900年』と比べて、非常に硬質というか冷たいドラマなので、中々感情移入ができず進みません(笑)。
『ラスト・アメリカン・ヒーロー』のような映画は、単純ながらも容易に感情移入できるのでノリノリで書けてしまうのですが・・・、『暗殺の森』は、いましばらく時間がかかるかもしれません。
『コーマン帝国』を観てきた興奮で、そっちが書きたい!という気分が盛り上がっているのもあるかもしれません(笑)。

尚、森での暗殺のシーンが雪景色だった理由も、「ファシズム=冬の時代」の象徴なのだという事に、hide-bonさんのレビューを読んだ事で気づきました。
個人的には、そこまでロジックで演出せんでも、秋とかに撮影すればそれはそれで美しいと思うのですが・・・そこがインテリの映画なのでしょうか(笑)。

前の投稿への返答(返答日時: 2012/04/16 14:02:00:JST )
投稿者により編集済み(最終編集日時:2012/04/16 14:29:27:JST)
hide-bonさんのコメント:
Bo-he-mian さま

「暗殺の森」は、本当に観る度に刺激的で新たな発見がある眩惑と陶酔の「映像力」の映画です。
自分は登場人物たちへの感情移入はとうにあきらめています(笑)。
「暗殺の森」については、取りあえず、半年前のレビューを修正してUPしてみました。
「コーマン帝国」、是非とも鑑賞したいですね。
名古屋では、5月にシネマテークにて公開です。
そう言えば、モンテ・ヘルマンの「断絶」も今月末にようやく公開となります。
「断絶」を始め、貴殿にお薦め頂いた映画たち、中々観れておりません。
まずは「キリング・フィールド」からと考えているのですが、、、。
アルトマン映画が先になるかも(笑)。
でも、本当は、自分も、貴殿に於ける「ラスト・アメリカン・ヒーロー」(息の長〜いハリウッドの名優ジェフ・ブリッジスの初主演作として承知してるんですが、ごめんなさい、自分は未見なんです)みたいな作品レビューを書きたいんです。

前の投稿への返答(返答日時: 2012/04/17 8:46:12:JST )
投稿者により編集済み(最終編集日時:2012/04/17 8:47:37:JST)
Bo-he-mianさんのコメント:
hide-bon さま

レス、ありがとうございます。
『コーマン帝国』は面白かったですよ!この映画で、ひとりの新人監督がデビューしたというのも、いかにもコーマンらしくて嬉しいですね。
同作で一番興味深かったのは、キワモノB級映画の帝王と呼ばれるコーマンが、かつて一度だけ作家性の強い社会派映画を撮っているという事を知ったことです(よくよく調べてみたら、コーマンの自伝本にも書いてあります)。
人種差別問題を取り上げた『The Intruder』という映画なのですが(主演ウィリアム・シャトナー!)、何とあの『アラバマ物語』と同じ年に製作されているのです。『アラバマ物語』はオールセットで製作されましたが、コーマンの映画は、まだ人種差別意識が高かった南部で、オールロケ(!)で撮影し、現場もそうとうヤバイ事があったようです。そして、公開の結果は惨憺たるもの・・・「このコミュニストめ!」との怒号が劇場内に飛び交ったそうです。この映画に、俄然興味がわきました。近いうちに輸入版で購入して、レビューを書きたいと思っております
コーマンが、インディペンデント・フィルムメーカーとしてどれだけ先駆的な活動を行ってきたかが判りやすく描かれていて、決してキワモノ的な面白さだけで作られたドキュメンタリーではなかったのことに感銘を受けました。

『暗殺の森』レビューようやく書けました。UPされるまでもう少しだと思います。

前の投稿への返答(返答日時: 2012/04/18 13:10:42:JST )
投稿者により編集済み(最終編集日時:2012/04/18 13:12:17:JST)
hide-bonさんのコメント:
Bo-he-mian さま

こちらにもレス頂いていたようでありがとうございます。
丁度、今、「別冊映画秘宝」のムック本「衝撃の世界映画事件史」を読み始めた処だったのでベリー・ナイスな話題でした(笑)。
「The Intruder」、しっかり紹介されています。
なるほど、これは硬派な社会派映画ですね。
製作されたのが62年ですから、これは筋金入りのリベラリストであったコーマンの面目躍如たるものがありますね。
格好良いですね。
まだ読み始めたばかりなんですが、「コーマン帝国」でジャック・ニコルソンが、コーマンを讃えながら涙ぐむシーンがあるらしいですね。
これまた中々胸を打つお話だと思います。
「コーマン帝国」、居住まいを正して必ず鑑賞させて頂きます。

前の投稿への返答(返答日時: 2012/04/20 2:27:37:JST )
Bo-he-mianさんのコメント:
hide-bon さま

レス、ありがとうございます。
ニコルソンは、『コーマン帝国』の中で一番しゃべっていました(笑)。
かなりの憎まれ口も叩いているのですが(笑)、実は誰よりもコーマンに恩義を感じているようで、映画のラストでしゃべっている途中で感極まって泣き始めてしまうシーンは、驚くと共に感動してしまいました。
コーマンがアカデミー特別功労賞?を授与されるシーンは、自分もちょっと目頭が熱くなりました。
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