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2014年10月18日
 シャーロック・ホームズとはヴィクトリア時代に活躍した世界最初の諮問探偵です。
 彼を作り上げたコナン・ドイルの意図はともかく、出版時には最初のもたつきののちに一大ブームを巻き起こし、今もなお大英帝国が世界に君臨したヴィクトリア時代へのノスタルジーと共に根強いファンを持っています。
 しかし彼の本質は、当時まだ経験と勘に頼るだけの警察の捜査活動に、「近未来的」とさえ言えるほどの画期的な科学的手法を取り入れた、新しいヒーロー像だったと思うのです。そこには、超自然も超科学もありません。彼は、19世紀から20世紀へと近代化が進む中で、当時の一定以上の教養レベルの人なら見まわしてこれなら自分にもできるかもしれないと思わせる、足が地に付いた科学的捜査を率先して行ったのです。
 その手法は、100年という時が経過した今では、もはや古びた形骸でしかありません。悲しいかな、これは事実。しかしその精神は、今なお生きています。
 作者は犯罪史・法医学史の専門家の立場で、ホームズ譚のさまざまな記述を例にとりつつ、ヴィクトリア時代前後に科学的捜査法にどんな発達があったのかを描いています。
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2009年3月4日
 シャーロック・ホームズが活躍した19世紀末から20世紀初頭の頃、日常身辺の科学が急速に発達した。それは、その後犯罪捜査に活かされ、指紋・足跡・弾道痕・血痕・毒物・付着物などが犯人検挙に使われるようになった。ホームズは、まさに犯罪捜査における時代の変わり目に活躍した探偵であったと言える。

 本書は、ホームズ物の小説の中で交された会話の断片を中心にして、それ以前に起こったさまざまな殺人事件の捜査のあらましと、それ以後に開発され警察が採用するに至った科学捜査の手法を対比しながら、犯人検挙の虚々実々の歴史をたどったものである。現実に起こった数々の事件を振り返りながら、科学の知見が現実の犯罪捜査に活かされるようになった歴史がよくわかるし、推理小説の種本を読む思いがする。

ホームズの生みの親コナン・ドイルにはさまざまな先達がいた。良き恩師でありホームズのモデルとなったジョゼフ・ベル、変装の名人で犯罪の手口に詳しかったユージーン・ヴィドック、犯罪学教授にして捜査規範を出版したハンス・グロス、ささいなことにも注意を払うことを奨励したヘンリー・ゴダードなどである。ドイルは、彼らならどう対応しただろうかと想像しながら筆を進め、また同時代に起こった事件についてあれこれ推理したのであろう。現実の事件と類似した状況を小説に取り入れ、ホームズに名推理を展開させているからだ。著者のうんちくをこれでもかと言わんばかりの数々の事件の裏話が実に興味深い。
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2016年2月5日
緋色の習作』の一節、「そのホームズという男は、ぼくから見るとちょっと科学的に
過ぎるというか――つまりその、冷血と言ってもいいくらいなんです。たとえば、
新しく発見した植物性アルカロイドの効き目をためすためなら、友人に一服盛る
ことも辞さないような。もちろん悪意があるわけじゃなく、正確な効能を知りたいという
純粋な研究心からですがね」。
 そして本書は、そんな彼を案内人とした、同時代の犯罪学、法科学史。
「科学は単純な答えを提供するものではなく、答えにつながる質問を組み立てる
ための、厳密な方法を与えてくれるものなのだと、彼は教えてくれるのだ」。

 解剖、毒物、指紋、血液――
 現代の刑事司法やミステリー・ドラマでもおなじみのこれらの「厳密な方法」が
いかなる実践的な要請に従って生まれてきたのか、をなぞってみせたのが本書。
とはいえ、単に科学史の辿り直しに終始するものではないことは何よりも、「事実は
小説より奇なり」を地で行く実際の事件をめぐる鮮烈な描写ぶりに由来する。
 禍々しい民間伝承の怪奇譚が時に現実と交差する。
「不幸の前ぶれだという不思議な黒い犬にまつわる土地の伝説をしっかり頭に
叩き込まれていたチャールズ」はまさしくその事態に遭遇する。「それから家までの
道を、恐怖にかられたチャールズは死にもの狂いで走った。帰り着いたとき、
その日の朝まで元気そうだった妹がちょうど息をひきとったところだと知った」。
そして時は流れ、「リウマチ持ちの74歳の老人となったチャールズ・ウォルトンが
かつて幽霊犬と出会ったというその場所のそばで死んでいるのが見つかったとき、
その話が戦慄とともによみがえった。……喉が自分の使っていたなた鎌で
切り裂かれていた。身体は自分のまたぐわで地面にはりつけにされ、胸のところに
深々と十字が刻まれていた。血が地面にしみ込んでいた」。
 さて、科学はこの伝説にいかにして立ち向かったのだろうか。

 そうは言っても1世紀を遡る時代の出来事、可能性を模索する試行錯誤の中、
現代的にはただの迷信が科学の装いをまとう過誤に振り回されることだってある。
 例えば『最後の事件』でホームズは断言する。
「しかし、悪魔のような遺伝的性質をもっていたんだよ。犯罪に走りやすい傾向が、
並みはずれた頭脳によって矯正されるどころか、ますます助長されて、このうえなく
危険なものになったんだ」。
 このことばの背景にあるのは、今となっては悪名高きロンブローゾの骨相学。 
 とはいえ、異常行動の究明を志向した『犯罪人論』をもって、犯罪学なる領域の扉を
開いた功績は何ら否定されるべきものではない。

 描写は時に過剰なまでに血なまぐさい。
 科学に関する記述は決して細心を極めたものとは見えない。
 菅野賢治『ドレフュス事件のなかの科学』クラスの名作とまでは言わない。
 とはいえ、実際の事件と結びつけることで、法科学史を飽きなく読ませる工夫は
一定の成功を収めているようには思う。そしてそれは同時に、コナン・ドイル読解に
同時代性の眼差しを与えた、という達成の証でもある。
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2010年3月23日
内容については★5だったが、訳しかたがイマイチでね。
偏見も多く感じる。それがホームズや他の登場人物の時代背景ならそれなりの記しかたがあるだろう。
日本語としての文章表現がね……良さが薄らぐ。
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2009年5月21日
ホームズが語ればこうなるか?という客観的な事象の捉え方、構成にホームズファン(シャーロッキアン)はポイントをおくと思う。
索引は詳しく充実している。
先にレビューを書いた方と同様に、ショッキングな描写が多々あるので、そういうものに嫌悪がある方にはおすすめできない。(女性科学者の視点と思うとまた違った見方ができるかもしれないけれど。)
日暮雅道氏の翻訳に慣れていないせいか、日本語として読みづらい箇所があり、意味をつかみづらいところも多い。英文の関係代名詞をそのままに訳しているのでは?という部分・原文どおりでなくても改行すべきでは?など、意訳でも良いので読みやすい「日本語」にして欲しかった。
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VINEメンバー2009年4月13日
現代の犯罪捜査で使われる科学捜査の黎明期の様子をシャーロック・ホームズの物語と絡めて紹介しています.実際の事件とそこに用いられた捜査方法は興味深いものですが,先にホームズ物語を一通り読んでおくと「あの場面か!」といった感動が得られるのではないかと思います.

また,科学捜査といってもあくまで殺人事件などの凶悪犯罪に対する捜査ですので,テレビで見るようなスマートなものではなく,かなり生々しい記述で書かれています.この手の話が苦手な方はやめておいた方がよいでしょう.
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