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丸山真男 音楽の対話 (文春新書)
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18人中、13人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
2003年3月26日
 丸山真男の人間像を知るだけでなく、よき時代のクラッシック音楽を知りたい人にも面白く読める本。
 丸山がいかに西欧の古典音楽が好きであったか、とくに晩年は「本店」としての政治思想史の学問をうっちゃるほどに入れこんでいたことが、本書を読んでよくわかった。そういう意味では、思想史家としての丸山だけに関心のある人には向かない本かもしれない。が、丸山の人間像を知るには読まざるを得ない本だと思う。
 もっとも興味をそそられたのは、フルトヴェングラーを例に挙げて、ナチス独裁政権下の明日をも知れない極限状況でこそベストの演奏ができたのではないかとの問いに丸山が苦しい返答をせざるをえなかった記述だ。丸山とは離れるが、極限状況下の優れた音楽演奏はよくあることで、あの名ピアニストのリパッティも、ジャンルは違うがジャズ演奏のコルトレーンも、自身の肉体が滅びる寸前に偉大な演奏を行なっている。
 
 著者が車で丸山を別荘まで送る際の、丸山のひどく喜ぶさまを描いた箇所も面白い。かつては東大法学部で丸山の講義を受け、いまは公用車での送り迎えに慣れきった亡国の高級官僚や財界のお偉方に読ませたい。
 師匠丸山の文章とは対極のように、流れるようなかろやかな文章でスラスラと読み飛ばすことができるが、そのぶん軽薄で大袈裟で俗っぽく、筆が流れすぎる嫌いがあるのが唯一の欠点か。
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14人中、10人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
 適合力をもたない芸術は滅びざるを得ない。と、丸山はいう。ならば、なぜヨーロッパのクラシック音楽は数百年間に及ぶ生命力を持ち得たのか。 「調整と形式」がヨーロッパのクラシック音楽の基礎だ、と丸山はいう。言いかえれば、それを確立した音楽をクラシック音楽といってよいのかもしれない。 ベートーヴェンの交響曲を聴いているときの、何ともしれない息苦しさ。そして苦しければ苦しいほど、味わうことの出来る聞き終わった後の快感。 なぜ苦しいのか。どうして気持ちがいいのか。やっとわかったような気がした。それだけでも本書を読む価値があった。(丸山の着想もさることながら、筆者の解説がすばらしい。) 丸山真男は、戦後思想史の巨人だ。筆者は、いわば丸山の教え子。「弟'''」といってもいいのかもしれない。「一生がこの人物について語り続けることで終わってしまうかもしれない恐怖心に襲われた」とすら言う。   しかし、意見が異なって議論めいた場面になっても、「言い負かされた」とか「相手が先生なんだから仕方がないや」という不愉快な思いを味わったことはない。と筆者は言う。筆者はそれを丸山の人柄がなせる業であったと評価するが、同時にそれは筆者の人柄もあってのことだと思う。 民族や国家というかなり重いテーマを扱っているのに、さわやかな読後感を感じさせる一冊だ。
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6人中、4人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
2006年7月21日
著者と丸山との会話をもとに、音楽芸術とドイツ文化を縦軸、ワーグナーやフルトヴェングラー、そして必然的にナチスとの関わりを横軸として、展開していく本。

ドイツの黒い森が生んだ文化としての音楽を、演奏家が追創造していた失われた良き時代。

楽譜を右手、実演に接することのなかったフルトヴェングラーの録音を左手に、古き良きドイツ文化の追体験を求め続ける探求熱心な丸山の姿がそこにある。

そして、この本を読んだ私には、丸山をも頼りにしてかすかな追体験を求めざるを得ないようなもどかしさが残った。

とある中老のドイツ紳士の言葉「あそこにはドイツ文化の精髄があったんだ。ドイツ文化が世界の規範のひとつであった時代の証しが、眼に見える形で存在していたんだ」というのは事実であろう。丸山は同時代人としてそのようなドイツ文化の存在を知っており、おそらく師南原と同様にドイツに留学したかったのではないか。彼は本質的にはヨーロッパ、ことにドイツ文化の理解者であり、そのことは『南原繁回顧録』において「当初私があまり気が進まなかったのに、ヨーロッパではなくて日本の伝統的思想あるいは中国の古典の政治思想の研究を強くすすめられた」とあることからも窺われる。

ドイツ文化の精髄に触れた丸山の姿に習い、今はなきものをしきりに求めたくなる本である。
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15人中、10人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
2005年9月12日
戦後を代表する知識人、丸山眞男の意外?にも「保守的」な側面を知ることの出来る、はなはだ興味深い一冊です。
この本に書かれているコンテクストに従えば、丸山こそが真の保守派であり、わが国の保守派は何を「保守」すべきかも知らない似非保守、と言うことになるでしょう。
わたしも一音楽ファンとして、カラヤンではフルトヴェングラーの代わりにはならない、と言う彼の意見には全面的に賛成です。カラヤンにとって音楽はあくまでも「音響」であり、「言葉」ではない。
それを一概に悪い、とは言えませんが、まったく作品への共感が感じられない、と言うケースも間々、あります。
そんなことをしていたらいずれクラシック音楽は滅びるだろう、と言うのもその通りでしょう。そこにあるのは形骸化、だからです。
そこから彼が何を「保守すべき」と言っているのかも自ずから、浮かび上がってくるでしょう。
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20人中、13人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
2004年5月1日
 『丸山真男 音楽の対話』は、下手な音楽のプロも足元に及ばぬほど音楽に造詣が深かった丸山眞男と音楽との関わりについて述べたものであり、丸山眞男の息遣いが伝わってくるような本である。特に以下の丸山の発言は強く筆者の印象に残る。
 「音楽という芸術のなかに『意志の力』を持ち込んだのはベートーヴェンです。『理想』と言ってもいい。人間全体、つまり人類の目標、理想を頭に描いて、〈響き〉=〈音響感覚〉でそれを追求し、表現する。凄まじい情熱ですね。これを『ロマンティック』と言わずして、他に何がありますか。『ロマン』は単なる情熱やセンチメンタリズムではない。人間の理想の追求が『ロマン』なのですから……。」
『丸山真男 音楽の対話』(p.75)
 「音楽のなかに『意志の力』を持ち込んだベートーヴェン」という丸山の発言を目にした読者は、今までとは違った角度からベートーヴェンを聴くようになるのではないだろうか。まさに、「人間全体、つまり人類の目標、理想」という丸山の発言にあるように、ベートーヴェンは18世紀という時代精神の申し子であり、紛う方なきフリーメーソンであった。
 なお、今までに丸山眞男の一連の著書に目を通したことのある読者は既にお気づきの通り、丸山の著書群には執拗低音(バッソ・オスティナート)という音楽用語がたびたび登場する。この執拗低音は、丸山思想を真に理解するためのキーワードとされており、執拗低音とは何かということについて教えてくれるのが本書だと思う。したがって、本書は丸山の音楽に対する熱い思い、丸山の息遣い、人となりが伝わってくる本というだけではなく、真摯に丸山眞男の思想を追求したいという人にとっては欠かせぬ本なのである。その意味で、本書は生まれながらにして名著の地位を約束されたといっても過言ではない。
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2006年5月7日
2006年の今年は戦後知識人のなかの「巨人」の一人、丸山眞男の没後10年。司馬遼太郎も確か同じ年に亡くなったはずだ。丸山は政治思想に対すると同じぐらい、あるいはそれ以上に西洋クラシック音楽に情熱を注いだらしい。岩波新書の『フルトヴェングラー』では鼎談という形でその思いを吐露していて、大変興味深かったが、本書はそんな丸山に師事していた側近中の側近であるレコード界の重鎮が音楽ファン丸山の在りし日の姿を描いている。

フルトヴェングラーに対する丸山のファンとしての強烈な「信仰告白」とともに、政治学者としての目がなせる「批判」は、過去多くの論者が行ってきた「フルトヴェングラーとナチ(政治)」というプロブレマティックのプロトタイプというものだ。クルト●リースの『フルトヴェングラー』はこの大指揮者の政治音痴に対して贔屓が過ぎると言われたものだが、丸山が同テーマで書いても大きな違いがあったとは思われない。少なくとも本書を読む限りで想像してみるならば。というのも、丸山はフルトヴェングラーの演奏を、その出自を愛しすぎているからだ。丸山の名に初めて接したのが吉本隆明の『丸山眞男』(勁草書房)であってみれば、戦後民主主義の「いやらしさ」にこそ鼻が利くこちとらとしては、政治思想史家丸山に対する目は曇っているということを、まず言っておかねば成るまい。

加藤周一や丸山が称揚する芸術、その信仰告白めいたオマージュというだけで警戒してしまう。これぞ、「戦後民主主義」の悪弊なのかもしれないが・・・。

しかし、そんな戦後民主主義は、いまや危機に瀕している。「まだ戦後民主主義の方がましだった」という声が、それこそ「執拗低音」となって響いているような気がする。いまこの現在にである。音楽という芸術もその危機の影響を間違いなく受けているのである。そうしたとき、丸山の偉大さもまた理解されるのかもしれない。いま丸山が生きていたら、どういう発言をし、書物を書いただろうか。
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2007年6月6日
丸山氏が目の前で語りかけているような構成がとても良い。

所々で捕捉しながら、クラシックの魅力を充分に伝えている。

ワーグナー、フルトヴェングラーがメインで、最後はシャコンヌについて。

調性についてのくだりはとても明瞭で、目からウロコが落ちました。

音楽にとどまらず、本業の政治思想、教育問題についても言及している。

シャコンヌが理解できなければ、日本思想はわからないという丸山氏の結論には驚いた。

何度も読もうと思える、ファンには必読の書ではないだろうか?
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2012年8月26日
丸山眞男と著者との対話の記録とそれを整理するための文章が添えられている。主な話題はもちろん音楽だが、時代(歴史)、政治、思想、教育などにも話は及ぶ。僕にとって音楽美論と丸山式教育法とは非常にタメになった。丸山の芯を食った表現を僕は好きだ。
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2013年5月21日
丸山さんの古典音楽(厳密にブラームスまで)に関する学殖、ワーグナー、フルトヴェングラーへの傾倒ぶりなど充分に描かれており、筆者と同世代のものとして共感するところが多くありましたが、ややくどい記述があり星1つ削らせていただきました。
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2009年5月21日
丸山の音楽論に間近で接した貴重な証言だが、内容的にはありきたりな印象が拭えない。丸山の素顔や音楽の趣味、鑑賞スタイルが分かる点は興味深い。しかし、著者が伝える丸山の音楽論は、西洋音楽史を勉強した読者には、むしろ陳腐に響くのではないか。

丸山が音楽鑑賞家として優れていた理由の一つは、作品の構成について類稀な鑑識眼を備えていたことだろう。丸山は論文を書く際、作曲家や演奏家のもつ構成力に学んでいた節がある。凡人学者の論文が、映画『アマデウス』の中のサリエリの作品だとすれば、丸山の文章は、緊張を孕んだ多彩なモチーフを見事に統合しており、構成の見事さはモーツァルト後期の傑作を思わせる。丸山自身、意識して音楽史用語を思想史研究に用いてもいる。だから、丸山と音楽の関わりを語るなら、思想史研究の「名演奏家」としての丸山、という視点が欠かせない。

もう一つ丸山が優れていた点は、音楽史を思想・政治史と関連づけて論じる能力である。私が鮮烈に覚えているのは、丸山が、戦前日本の農本主義を、日本版『カヴァレリア・ルスチカーナ』と呼んだことだ。作曲家マスカーニは、このオペラで、牧歌的で喧嘩早いイタリアの農村気質を描き、後にはファシスト党員となった人物だ。丸山は、後発国としての日伊の共通性、特に農本主義の「ファシズム」への発展という並行関係を踏まえた上で、凡人なら肥桶の臭いしか嗅ぎ取らない農本主義に、美しい間奏曲をもつオペラに通じるものを見たわけだ。しかし本書から察する限り、著者には、丸山の闊達な比較文化史論についていくだけの知的準備は乏しかったように見える。

丸山の音楽論を深く味わうには、音楽と思想の両方に通じる「構成」についての感覚と、政治・思想を含めた文化史に関する広い知識が必要だ。その点、中野氏では若干役者不足だった印象が否めないのは残念だ。ともあれ、本書を通じて丸山の音楽論の一端に触れることが出来ることには感謝したい。
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