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日本型福祉国家とは何か?―疑似的な寛容性の内実, 2012/3/18
レビュー対象商品: Welfare and Capitalism in Postwar Japan: Party, Bureaucracy, and Business (Cambridge Studies in Comparative Politics) (ペーパーバック)
日本型福祉国家の形成と発展、変容の過程と特質につき、合理的選択新制度論の立場から検証した大著。著者、M.エステべス=アベは米国の比較政治経済学者、ハーバード大学准教授。
本書の特色を方法論、実証研究の2側面から述べれば以下のようになる。
まず方法論上の特徴について。福祉国家研究については、ウィレンスキーに代表される産業主義理論、ネオ・マルクス主義政治経済学における福祉国家批判論のように、初期においては政治性・類型論を排した収斂論や段階的発展論が主流であったが、コルピの権力資源動員論を経てエスピン=アンデルセンの大著『福祉資本主義の三つの世界』により、政治的特性も踏まえた比較レジーム分析への視座が開けたことは、周知の事実である。しかしながらアベは、コルピ、エスピン=アンデルセンらが依拠する党派モデルや階級間連合論によっては、日本を含めた比較研究が困難であることを指摘し、同時にマクロ分析(レジーム論)に加えた個人行動に着目するミクロ分析の重要性を唱えて、合理的選択新制度論に依拠しようとする。具体的には、'@政権の在り様(連合・単独少数・単独多数)'A選挙区の大きさ'B政党規律の強さ(投票における政治家個人の重さ)、という3点から各国の制度配置を主に4つに分類する。そして、この制度配置でプレーする政治家個人の合理的行動が、各国の生活保障政策の在り様、更には各国の福祉・雇用レジームの特徴(日本の場合は断片的・制度分立的な生活保障体制)を決定する、と論じる。
次に実証研究上の特徴について。比較政治経済学上の福祉国家研究において日本を位置付ける際、かねてからネックになっていたのが、日本を協調的市場経済体制における寛容な福祉国家として位置付ける上での指標の取り方である。つまり、日本の国民一人当たり租税・社会保障負担率は先進国中で最低水準であり、加えて協調的市場経済判断の指標として使われる「株式市場公開度合の低さ」・「企業所有の集中性」に関しても、日本は真逆の数値を弾き出す。類型論におけるこの難問を解くにあたり、アベは機能的等価物(functional-equivalent)に広く着目し、完全雇用や協調的労使関係、民間レベルの老後保障を可能にした産業・金融活動上の諸慣行、更にはそれに対する政府の個別具体的な税制・保険制上の優遇措置や、産業・金融規制の「貢献」を踏まえた、ダイナミックな議論を展開することで、日本研究、更には比較分析上の新たな視座までも提供しようとする。
日系人とはいえ、これだけの邦語文献やファクトの正確な収集を行い、かつこれを体系的に整理・検証した著者の力量には頭が下がる。且つ、マクロ分析とミクロ分析を包摂し、大きな論理破綻をもたらさずに一貫した議論を展開出来ていることにも、学問上大きな価値がある。他方、新制度論において生活保障制度がもっともロックイン効果の激しい制度に位置することも踏まえれば、選挙制度の変容が直ちにレジーム転換をもたらすわけではないことには注意すべきである。現行の衆議院小選挙区制の下で、アベが日本型福祉国家がウェストミンスター化するというのは、恐らく長期的な議論に過ぎないのだろう。