このCDについて
ショパンの《練習曲集》は特定のピアノ技巧の練習用に書かれた作品ですが、それは単に技術的訓練という目的にとどまらず特有の美の世界を持っており、各々独立した価値ある音楽作品となっています。ポリーニの演奏は、難度の高いパッセージも無理なく処理され、しかも音の粒ひとつひとつが意のままにコントロールされたもの。彼の凄まじいまでのテクニックと深い音楽性が十二分に発揮された名盤です。
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20世紀のあらゆるショパンの名録音のなかで、その頂点にさん然と輝きわたる不滅の名盤中の名盤。戦後ピアノ界史上最大の天才ポリーニが、満場一致でショパン・コンクールに完全優勝しながらも10年もの研鑽(けんさん)による沈黙を経て、ようやく満を持して世に問うた、この完璧なるエチュードの演奏記録は、今もって凄まじい衝撃で聴くものを打ちのめす。
まず冒頭のハ長調のエチュードからして、ヘラクレスのような強靭な筋肉美に目がくらむ。冷徹な外観の奥に燃えさかる炎のような情熱、ほのかな詩情、そして鋼の意志が全曲を貫き、一分の隙も与えない。これを聴き始めたが最後、「別れの曲」「黒鍵」「革命」「木枯らし」を経て最後の「大洋」まで24曲すべて聴き終えるころには、誰もがショックとろうばい、そして感動に飲み込まれてしまうだろう。これほどの完璧さは、もしかすると…狂気寸前のもの?
今にして思えば、1972年のこの録音は、従来の甘くロマンティックでサロン的なショパン観を完全に覆し、クールでたくましい意志の音楽としてのショパンという視点を導入したという意味でも、ピアノ演奏史を塗り替えた画期的演奏だったのではないか。ともかく、万人必聴であることはまちがいない。(林田直樹)