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とろけそうなくらいに甘く優しく、そして気品あるシュワルツコップの声には聴きほれるばかりだ。この柔らかく暖かい歌を聴いていると、現代の歌手たちの歌がいかに正確で整い過ぎているかということを思わずにはいられない。かつてヨーロッパ第一の美女でありドイツ・オペラ界最高のプリマと称えられたシュワルツコップの至芸がここには凝縮されている。可憐な花の一輪一輪のような歌に、何と深い愛情をシュワルツコップは注いでいることだろう。詩の核心を完全に把握し自分のものとした歌だからこそ説得力がある。「老婆」K.517の語りのうまさなど、声色を自在に変化させる性格女優そのものだ。
一方のギーゼキングのピアノも凄い。アンティークの工芸品のようにこってりと深く濃い音色からは、古きよき時代の香りが漂ってくる。何の変哲もない、単純で控えめなピアノ伴奏からは、わびさび、あるいは禅の境地にも似た、モーツァルト弾きの極意が感じられる。長調の曲がほとんどなのに、聴いているうちに、不思議と涙がこみ上げてくるほど、このピアノは翳りを帯びて内省的なのだ。
最後には、セル指揮ロンドン響と共演した4曲の演奏会用アリアが収められているが、これも崇高なまでに光り輝いている。名曲「どうしてあなたを忘れられよう」K.505では、若きブレンデルが典雅で抑制の効いたピアノを披露している。
手のひらに収まるような小さな歌たちだけれど、ほんのり優しく、ほんのり悲しい、こんなにも素敵なモーツァルトがあることをぜひ多くの人に知っていただきたいと思う。一生の宝として座右に置きたいほどの名盤である。(林田直樹)
内容(「CDジャーナル」データベースより)
最新リマスタリング技術を施したARTシリーズの第1期第2回発売として25点が登場。シュヴァルツコップ絶頂期の録音。巨匠ギーゼキングの共演によるモーツァルト歌曲の歴史的名盤。