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死刑のある国ニッポン
 
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死刑のある国ニッポン (単行本(ソフトカバー))

森 達也 (著), 藤井 誠二 (著)
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内容紹介

1995年のオウム事件以降、顕著になった“不安社会”。
その流れの中に、厳罰化を求めるいまの風潮があると位置づけ、死刑制度は「廃止すべき」と考える森達也さんと、犯罪被害者やその家族への緻密な取材活動を通じて、「存続すべき」とする藤井誠二さん。
その是非については正反対の立場の2人が「死刑」について語り尽くした対談本!


内容(「BOOK」データベースより)

裁判員制度が始まった―あなたは人を、死刑にできるか。真っ向から対立する存置派・藤井誠二と廃止派・森達也が、煩悶のなかで真摯に言葉をぶつけ合った緊迫の対話。

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5つ星のうち 5.0 全力でぶつかり合って、だけども下品な否定のし合いにはならず、合意には全然至らないが、しかし意義を感じられる熱い対談本, 2009/9/27
藤井氏の事は昔の管理教育批判や子供の人権といったものに熱心だった頃からとても頼もしくリベラルな人だと思い馴染んでいた。彼は昔もっと分かりやすい左派系の人で死刑にも当然のように廃止派だったが大勢の被害者などにジャーナリストとして触れている内、死刑は必要だと感じるようになり熱心な厳罰主義者となった。これを藤井氏の転向だとか右傾化だとか見る向きもあり藤井氏自身、「左翼的言説には愛想をつかした」とか言ってしまっているのだが、私は彼が転向したとか昔とそんなに変わったとは思っていない。彼を本当に単純な、単に感情的だったり見るからに野蛮だったりな厳罰主義者と同類と見る人もいるみたいだが私は藤井氏がそんな単純で浅はかな種類の人だとは思っていない。それは単なるイメージや信仰ではなくて、実際に彼の言葉や本に触れてもそうだと思える。

藤井氏は悩んでいる。悩んで悩んで悩んでそれでも苦渋の決断として死刑は必要だと考えている。これが欺瞞的な言葉とは私は思わない。私も存置派だし、私も表面上そういう事は言える。「私はその辺の浅はかで野蛮な存置派と違うぞー」、そう言う事は容易い。だけども藤井氏を前にするとそういう事を言えるという気持ちも失せてしまう。真剣さも誠実さも、総体的な重みも藤井氏の死刑への取り組みに比べては足下にも及ばないと思う。

もしそうでないなら、こんなに分厚い対談本、それも決して馴れ合いではない、どちらも礼儀正しく誠実で良心的であるものの、しかし意見としては熾烈に真っ向から対立していると断じていい、そんな相手との対談をこんなにも重ねてやる事が出来るだろうか。藤井氏は他にも死刑や厳罰をめぐる対談本があるが、その多くが立場としては対立する人を積極的に相手にしている。これだけでも私は藤井氏を尊敬できる。

そんな藤井氏に森氏も立場は違えど、その意見を誠実に受け止めていき熱意を込めて反論する。ネットなどでは廃止派と存置派が罵倒しあうような光景も多い中、この二人は何度何時間真っ向からの包み隠さない容赦の無い議論を繰り返してもそういう事にはならない。表紙を見てもそういう二人の真面目さは感じられる。真剣にこの問題を心から真面目に考えているからこそ互いに正しいものを信じてるからこその表情が表紙にはある。それをぶつけ合ってみようという強い意志が見える。本文中では二人が「僕らは悪人面」と笑い合う微笑ましい場面もあるが裏表紙を見てみれば、「どこが悪人面か」と個人的には思う。森氏は渋い(笑)し、藤井氏は見るからにいい人そうだ。だけど厳罰化を支持している。死刑はいると言っている。そこが重要だと私は思う。そんな人が、それでも死刑を支持している。ここには重みがある。

…私は、ここまでの持ち上げっぷりでも分かると思うが、立場としてはかなり藤井氏寄り、もっと積極的に語ろうとすると残念ながら徹底的な森氏批判みたいになってしまう。とは言え本の評価が高い事からも分かるようにこの対談自体も凄く意義深いものだと思っているし、意見の内容以外の面では森氏を蔑視するような気には全然なれない。時に芝居がかってる、というか「これは映画かアニメのワンシーンか?」「主人公がラスボスに向けて演説してるシーンか?」と思うほどの只ならぬ熱意に満ちた演説を森氏がかましたりする。同意できなくても、やっぱりちょっと来るものはある。本書を読んで得た森氏のイメージは主張の是非や青臭さ、容姿の問題は置いといて、「ヒーロー」(笑)。本当に漫画かゲームの主人公みたいな事ばかり言っている。

加えて二人は決して全面的に一方通行なわけではない。例えば死刑や取調べの情報公開、冤罪への対策、犯罪は増えているかといった問題について二人は見解がかなり重なっており森氏が思わず82頁で「廃止論者と話してる気がしてきた。転向してないよね?」などと驚くほど。でも私からすればこれは別に驚く事でも不思議な事でもなかった。あくまで誠実に事実を尊重すれば犯罪が増加してて治安が悪化しててヤバイから厳罰化なんて嘘は吐けない。だから藤井氏は厳罰を支持する本でも一貫して統計的な間違いは指摘してきた。それに藤井氏はあくまでリベラルな観点から厳罰主義を支持しているのだから、不当な秘密主義や取調べの密室性に目を瞑る理由もない。そういう良心的な思考回路を持った人が「でも死刑存置派」なのだ。「犯罪増加、治安悪化という神話を否定してれば自動的に厳罰反対」というような芹沢氏的固定イメージは捨てるべきだと思う。

だが、いくら森氏の事も人格的精神的には高く買うとは言え、やっぱりあんなに好き放題(ごめんなさい、あえて少しきつい言い方をします)言っているのを全く批判しないわけにはいかない。藤井氏も礼儀などは踏まえていてもやはりしばしば互いに辛辣に批判していた。批判はタブーではない。賛同できなかった森氏の言動を少し挙げたい。

「死刑を考える時、存置と廃止の間で揺れ動く(中略)右往左往や混乱に重要な意味がある」(63)「論理だけなら存置の理由はほぼ論破される」(67)「人は人をコロす本能は持っていない。なぜなら人は群れる動物だから。同族をコロす本能はない。」(69)「人は人をコロしたくない生きものであると断言します」(71)「まず論理があって、感情があって、情緒があって、揺れ動いて、なんだ、ここに本能ああるじゃんって帰結」(73)「飢餓に苦しんでいる人、砲撃にさらされて死んでいく人、冬の寒さに震える子供を助けたいのと同じレベルで死刑囚を救いたい」(75)「人は(みんな)優しい」(76)

勿論賛否両論。だけど私も藤井氏もこういった発言には少しも同意できないと言っていい。
長々と反論していきたいが字数的問題があるので、かなり我慢しながら手短に。一つ目は私もこういう精神的な態度を褒めちぎったので一番よく分かる。だがこれは美的な話ではないか。それを死刑問題で重要とまで言われると違和感。何か個人の誠実さや善良さを証明するための(俺はこんだけ真面目に考えてる優しい人なんだぞ!というような)道具として死刑が利用されているという気もする。二つ目は後で詳しく反論したいが物凄い暴論だと思う。三つ目、彼は論理と情緒と本能とを区別し本能を重視するが本能などというのは最も抑制されて然るべきものであるはずだ。仮にそうでないとしても何で本能重視を押し付けられるのはOKなのか謎。一方藤井氏の反論も強力。様々な物事が自明でなくなり善悪や科学的事実すら相対化されかねない現代にあって「人間は人を殺さない本能を皆備えている」と断言する脳天気さ、時代遅れ、貴方が本能と思っているものは所詮社会で学習されたもの、刷り込みの価値観では?と藤井さんは疑念を表す。なんにせよ普通の人が死刑問題では殆ど使わない「本能」なんて言葉を口癖のように繰り返し、人間は本能的に人を殺さないから死刑は駄目と強弁する様はうーん・・・と思うものがある。六つ目は端的に言って最初の三人と死刑囚は全く次元が違うと思う。理由は色々思いつくが一番思うのは、最初の三人は別に悪い事もしてないし悪意も罪もない単なる可哀想な人達で最後の死刑囚だけどう考えても違うだろと思う。七つ目は性善説ここに極まりとしか言いようがない。ここまで断言されると逆に気持ちいい気もするが、日々様々な人間の悪意を見聞していてはやはり納得は難しい。

最後にもう一つだけ。森氏は繰り返し「存置論は論理的にもはや成り立たないと断言します」と言う。あまりに繰り返し強調するので傲慢にも見えたし、何故ここまで言えるんだろうか、一体どんな凄い論拠が…とある意味で多大な期待を寄せたのだが、何故森氏がそう考えるかというと、それは死刑が抑止、社会防衛に役立っていないからという典型的な目的刑論によるもの。言ってしまえばそれだけである。こんな一般論で死刑が論理的には成立しえないとまで自信満々で断じられたのでは死刑問題もえらく簡単だというものだ。反論をしておく。まず「目的刑論が絶対的に正しいとは言えない。抑止効果はなかろうが悪いものは裁かなければいけない」あるいは「死刑の方法が生ぬるいから抑止効果がないのであって徹底すれば抑止効果は出る。にしてもそう言って廃止を説く人は如何なる残虐極まりない方法であれ犯罪が減りさえすればそれを支持するんだろうか?」前者が感情論と誤解を受けかねないので少し補足しておく。目的刑論は抑止効果を過剰に重視し、それだけが刑罰の存在意義だと考える。ではそれが正しいなら、どれだけ殺人犯を裁いても何故か殺人件数が一件も減らずむしろ増えるという状況が発生した場合、我々は殺人犯を裁いたり、殺人はいけないと言う事をやめるべきだろうか。悪いものは悪いから裁く。これは感情論ではなく道理だと私は思っている。(ちなみにこの点は私と藤井氏は見解が違っている。藤井氏はあくまで応報刑の根拠を感情と見なして、感情論で何が悪いと開き直る立場。感情は人間にとって大事なものだが、存廃問題を両方が自分達の感情を根拠に論じていては熱心に話し合っても平行線なのは無理もないと思う。藤井氏に問題があるとすればこの意識的な感情重視ではないだろうか)

…やっぱり私は藤井氏ほど善良そうに死刑を擁護できない。いくらか下品になってしまう。だがこの対談本には死刑を擁護するにせよ廃止派を批判するにせよ、下品になりすぎないように出来るだけ努力したいな、とは思わせられた。
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5つ星のうち 5.0 賛成も反対も、死刑を語るなら読まねばならない, 2009/9/20
冒頭に藤井が書くように、議論としては森のほうが説得力があるだろう。そもそも僕は森のファンで彼の語る死刑廃止論には、単なる論理以上の迫力を感じているから、なおさらそう感じるのかもしれない。ただ、藤井が被害者遺族の立場に身を置き、いわば彼らの代弁者として、彼らが直接的には言いにくい復讐心を語るのも、簡単に否定できない重さがある。

ふたりの対談はそれぞれ説得力があったり、個別的であまり説得力がなかったりする。かみ合ってないなと思うところもある。それぞれに飛躍があるところもある。例えば、藤井で言えば、被害者遺族の気持ちがこれまでないがしろにされてきたと言うのはいい。彼らの気持ちを考えれば、これまでの司法が下してきた判断は軽すぎると言うのもいい。ただ、そこから死刑制度存続につながるのかどうか。死刑は罰の中であまりに突出しているのである。一方、森の人間の本能として人は人を助けたいと思うものだ、というのも、説得力という点では少し弱いかもしれないとも感じる。

ところで、法務大臣に死刑廃止議連の千葉氏がついた。これに対するネットの反応はおそらく90%が否定的なものだ。しかし、その反対している人々のどれだけが、この二人のような迷いや煩悶をしているだろう?被害者遺族の気持ちという錦の御旗をかかげて、ほとんどなにも考えない感情論だけで死刑を語る人々に向けて、森と藤井はそれぞれ違う方向から語りかけている。
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18 人中、12人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0 自分の考えを再確認するのに最適な一冊, 2009/8/27
死刑存置派のつもりでいたが、少し自信がなくなった。読めばおそらく廃止派の人も戸惑うと思う。片方の考えにまったく矛盾がないとは言えず、もう片方の意見にうなずける点がないわけでもないことが、はっきり分かってしまうからだ。

今もどちらかといえば存置派。しかし、その結論に至るまでのプロセスが全く変わった。考慮の対象が広がったとでも言うべきか。この点は、テーマとして取り上げられている裁判員制度や犯罪被害者報道についても同じ。自分の考えを再確認するのに最適な一冊だ。

藤井さんは本の中で「どんな問題にも必ず裏表があって、こっちを立てたらこっちが立たない、こういった領域では一方の「正しさ」を主張したら同時に問題点も浮き彫りになってくるという当たり前のことを知ってほしいだけなんです」と言っている。これがまさに、死刑は是か非かを越えた、この本の持つメッセージ。自分と異なる意見の持ち主とじっくりと率直に対話すること、盲信的にものごとを決めつけないことの大切さを伝えている。
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