主な舞台はロイター、時事、ブルームバーグの各通信社と日本経済新聞社。いずれもこの間、ドラマチックな変化を遂げ、あるいは新たに勃興したメディア企業体だ。
かつて通信社とは、国家そのものだった。ロイターも大英帝国の栄光と落日とともに歩んできたが、名経営者ジェラルド・ロングの登場で、創業の原点である商況ニュースに活路を見いだし、やがて世界の金融市場に独占的な地位を築き上げていく。
日本では戦時中まで国の情報機関だった同盟通信が、戦後、共同と時事とに解体された。不利な条件を押しつけられたどん底から社をもり立てた時事の総帥・長谷川才次は、それだけに頑な独裁者となり、幾度かめぐってきたチャンスを生かせなかった。
長く"眠れる獅子"の状態を続けていた日本経済新聞社。ここでは新聞社には珍しく記者経験の短い社長・圓城寺次郎が、東京証券取引所の電算化を契機に黄金郷の扉を開けた。
金ピカの1980年代、アメリカ金融革命は新しいメディアを生んだ。1人の為替トレーダーが立ち上げた、市場経済のためだけに存在する、ブルームバーグ通信社であった――。
現代メディア史を俯瞰しつつ、著者はその一コマ一コマに脈打つ人間の生を丹念に捉え、活写していく。メディアの興亡を通して、人間の営みとは、幸せとは何なのかを描いていくのだ。
95年7月、著者がコロンビア大学のジャーナリズム・スクールに留学していた際に交流していた「ニューヨーク・ニューズデイ」紙の廃刊を伝える報道に接したのが、本書に取り組む引き金になったという。調査報道の牙城だった同紙もまた、利益市場主義の流れには抗いきれなかったのだろうか?
それから4年余り。著者は出版社勤めの傍らコツコツと地道な努力を積み上げ、この大作をモノにした。
〈国家と経済。市場と個人の幸福。こうした概念は時に鋭く対立し、時に絡み合って往復運動をしながら、複雑な歴史を編んでいくことになる〉
膨大な情報量や登場人物のドラマばかりではない。ある意味で平凡な結論を得るまでの間に著者が流した汗の量が、読者の胸を打つ。メディア・ノンフィクションの白眉である。
(ジャーナリスト 斎藤 貴男)
(日経ビジネス2000/2/7号 Copyright©日経BP社.All rights reserved.)
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