特に幼少期から大学卒業後、心理学に目覚めるまでを回想した上巻においては、丹波篠山で5人の兄弟たちと過ごした子ども時代など、その後の仕事に深く関わる体験がいくつか語られている。なかでも注目すべきは、ユング派において重要なテーマでもある「コンプレックス」についての言及だ。
高等学校受験の失敗、英語に対する劣等感、京大数学科に進学したものの自分の適正がわからずに1年間休学し、大学院に進んだのちもほかの学生との知識差に愕然とする。思想家の鶴見俊輔は、著者の聞く力について「人生のへこんだ部分を重んじるところから来る」と語っているが、次々に襲われるコンプレックスとの対決過程で、臨床心理学者としての基礎が培われていったのだろう。ちなみに自らの人生を語るとき、たびたび出てくるのが、強いコンプレックスにさいなまれ「だめやと思うてるのに他人の評価が違う」というパターン。下巻で語られるアメリカ留学やユング研究所でもたびたび出現し、日本初のユング派分析家誕生への重要な布石ともなる。(中島正敏)
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