1937年12月から38年にかけての南京事件当時、南京市に踏みとどまって国際難民区の運営に携わったアメリカ人ミニー・ヴォートリンの日記は単なる史料的価値のみならず大きな現代的意義をもっている。南京攻略戦は大都市への空爆が本格的に行なわれた最も初期の戦闘の一つであり、それゆえこの日記は「空爆に耐える都市住民」の最も古い証言の一つだということになる。都市への空爆があたりまえとなり非戦闘員の犠牲が常態となった戦争の原型がここで描かれている。
また、ヴォートリンを含む第三国人たちが、限られたリソースを総動員して南京市民を守るために奔走する様子には感嘆を禁じえない(残念ながら、その努力は完全に実を結ぶことはなかったのだが)。本書に日記が収録されている約4ヶ月間、平穏な日はほとんどなかったのである。彼女は中国人による不正行為も率直に記録しており、他方友好的な日本人の訪問があった際にはきちんとその旨書き残していて、これが日記全体の記述の公平性を物語っている。「いま南京で起こっていることを、日本の良識ある人びとに知ってもらえさえしたらよいのだが」(60頁)といった趣旨のことばが繰り返し記されている。約70年遅れではあるが、彼女の願いが成就することを祈りたい。