DEEP DIVE ― 東京事変

Amazon.co.jpが注目するアーティストについて“深く掘り下げる=Deep Dive”コーナー。今回はアルバム先行シングル『キラーチューン』を発売する東京事変のインタビューを掲載。
7月にリリースしたシングル「OSCA」で、メイン・ソン
グライターにギタリストの浮雲とキーボーディストの伊澤一葉を立てた
新体制で動き出した東京事変。ヴォーカルと作詞に集中させることで椎
名林檎をこれまでの役割から解き放ち、更なる表現の可能性を見い出し
た彼らがタイトル通り、会心の1曲と言えるニュー・シングル
「キラー・チューン」を発表する。翌月に新作アルバムのリリースを控
え、快調に歩みを進める彼らの向かう先とは?
インタビュアー:
ニュー・シングル「キラーチューン」は、前作の変化球なポップ・
チューン「OSCA」から一転して、ストレートに刺さるピアノ・オ
リエンテッドな1曲ですね。バンドのグルーヴ感というか、ス
ウィング感が非常に気持ちいいです。
椎名:
(笑)ドキッ。
伊澤:
僕が作った時、最初に付けた仮タイトルが「スウィング」で、曲
の狙い所も、ヒップなスウィング感だったんですよ。ただ、この曲がシ
ングルになるかどうかは考えず、アルバムの曲を書く過程でこの曲がシ
ングルになったという。歌詞とタイトルは林檎さんが後から付けたんで
す。
インタビュアー:
伊澤くんは自分のバンドに書く曲と東京事変に書く曲で違いはあり
ますか?
伊澤:
自分のバンドで歌う曲に関しては、歌のキーを変えることってほ
とんどないんですけど、東京事変の場合は曲を書いた後、林檎さんが歌
うキーに変えることで、曲の雰囲気が変わるので、そこからの微調整は
自分のバンドだとやらない作業ですよね。ただし、林檎さんはどんな曲
であっても大体歌えるので、あまり心配はしていないんですけど、この
曲に関しては、実際に歌ってもらって、キーを2回くらい変えま
した。あと、バンド・アレンジに関しては、リハーサルでメンバーを交
えて楽しく作っていったっていう。刄田くんとは最初の段階で二人でリ
ハに入ったり、亀田さんにもアイディアを提案してもらったり、浮雲く
んは浮雲くんなりのやり方があったし、みんなの意見を総合して、今の
形に落ち着いたんです。
インタビュアー:
前作収録の「ピノキオ」と「鞄の中身」、それから今回の「キラー
チューン」を聴く限り、伊澤さんのベースには音楽的知識に裏打ちされ
た端正なポップ感があると思うんですが。
伊澤:
浮雲くんの場合、ベースにはカントリーがあると思うんですけ
ど、僕の場合は、アカデミックなものの残骸で曲を作っています。音楽
理論はきれいさっぱり忘れちゃった。自分の中に芽生えた新しい感覚に
酔う。で、それが気持ちいいと 曲になるっていう。
インタビュアー:
それから、前作「OSCA」にしてもそうですけど、今回のシン
グルはアレンジにゆとりがありますよね。『大人(アダルト)』のアレ
ンジって、緻密にして濃密でしたけど、前回、今回と曲にほどよい余白
がありますよね。
伊澤:
『大人(アダルト)』の時は、僕が腱鞘炎だったから、みんなが
レコーディングして出来上がっているところに後から一人で音を入れた
せいか、詰まったアレンジになりましたけど、今回はみんな一緒にラフ
にアレンジしているので、無理や無駄がないというか。そういう違いが
あるように思いますね。
インタビュアー:
歌詞は林檎さんが書かれていますね?
椎名:
音からイメージして、「こんな曲って、今ないよね。色んな人に
聴いて欲しいな」って思いながら、すぐに書きました。 ここ最近、ザ・キ
ラーチューンとかザ・スーパースターの存在感が薄く淋しく思ってました。
そんなとき伊澤がこんなにキラキラのキラーチューンを書いて来てくれ
てうれしくなってしまったんです。CD一枚とっても中々ユーザー
の手元に届かない昨今、事変のライヴに来てくださるマニアックなお客
様の顔を思い浮かべて書きました。
インタビュアー:
カップリングの浮雲くん作「BB.QUEEN」はサイケデリックと
いうか、プログレッシヴというか、混沌とした曲ですよね。
浮雲:
これは3、4年前に書いた曲なんですけど、当時、パ
ソコンで宅録出来るようになったので、面白くて作ったものなんです。
ただし、この曲はイメージが全くない状態で切り貼りしながら作って
いって、テンポも今より遅かったんです。そのデモが林檎さんの琴線に
触れたらしく……ただし、もともとの曲はここまで混沌としたものでは
なかったので、出来上がったものは、「東京事変でやるとこうなる
んだ?」って思うような面白い仕上がり、なんというか、ス
ポーツっぽい曲になってますよね。
インタビュアー:
それが3曲目「体」は一転して洗練された楽曲になっていま
すね。
浮雲:
聴いている人は忙しいというか、翻弄されるかもしれないですけ
ど。
椎名:
それ以前から浮雲のことを知っている人にとっては「映日紅の
花」とか「花魁」のイメージがあると思うんですけどね。
浮雲:
林檎さんは黒い曲を歌うのがものすごく上手なので、そ
ういう曲で歌ってもらいたいって思って、僕がスウィート・ソウルをイ
メージして作ったんです。どうかなって思ったんだけど、結局、そのま
まのキーで歌ってもらいました。だから、林檎さんの歌にしては、もの
すごく低いキーの曲になっているっていう。今までの曲だと高
いレンジで伝えることが多かったから、こういう曲も新しいと
思うんですね。
インタビュアー:
つまり、前作「OSCA」と今回の「キラー・チューン」で伊澤
くんと浮雲くんは林檎さんに対して新しいタイプの曲を提案しているわ
けですね。林檎さんはどう思われますか?
椎名:
2人とも歌が上手いから、彼らの歌が入ったデモの段階で
も内容は素晴らしかったりするし、「ちゃんとレコーディングされたも
のを売ってたら欲しいな」って思った曲たちなんですよ。「体」のデモ
は、アコギ一本だったんですけど、その時点でムードが出来上がって
て、「これ、歌わせてもらってもいいの?」って思うくらい。
浮雲:
そう言われると、「よっしゃ!」って思いますけどね(笑)。
インタビュアー:
この曲の歌詞も、林檎さんが曲を聴いてぱっとイメージしたものな
んですか?
椎名:
そうですね。私の中では、アコギだと、乾いた曲に聞こえるはず
なのに、すごく濡れていたので、その湿度を大事にしながら、言葉を散
りばめていきました。
インタビュアー:
林檎さんの歌詞はより音に寄ったものになっていると思うんですけ
ど。
椎名:
あ、そうですね。写実派になってますよね。まぁ、でも、それは
曲を書いていないと、そうなりますよね。作詞だけするなんて、滅多に
ないことで、曲と両方書くのとは大分違います。曲を書くとき、唄モノ
である限り言葉を同時に都合していくのが普通です。作詞していると、
言葉の抑揚に合わせ、曲も書き変えそうになります。作詞家さんは凄い
なと。改めて驚きました。
インタビュアー:
伊澤くんと浮雲くんはお互いのソングライティングについていかが
ですか?
伊澤:
浮雲くんの曲はアーバンで研ぎ澄まされた感じもありつつ、土臭
さもあって、あったかいオブラートに包まれているように感じます。す
ごくお洒落なんだけど、同時に懐かしさもあって、そのバラン
スが絶妙ですよね。お洒落な人って、なんちゃら系っていうようなもの
に飲まれちゃいがちじゃないですか。でも、彼はそういう
フォームに決して飲まれない。彼の曲は……作ってる現場は見たことないで
すけど、多分その時間が、一番お洒落なんだと思います。
浮雲:
伊澤くんはね、音に入ってる思いを見抜く力がすごいし、だから
こそ、人の本能的な部分に対してナチュラルに訴える音楽が作れる人だ
と思いますね。彼は育ちがいいというか、いい家庭に育ったんでしょう
ね。感情を言葉にしたりされたり、それでさざ波が立つような、彼の曲
はそういう印象がありますね。俺はタイプが違って、それを感じ取れな
いから、羨ましいですよ。
インタビュアー:
そして、このカラフルなシングルの内容を踏まえた次作アルバムの
方向性は?
椎名:
現段階ではシングル2枚に3曲ずつで、私たち
3人の離れた点を結んでいる感じだから、「展開が読めない!」って思
われるかもしれないけれど、アルバムではその点が増えて繋がっていく
はずだし、より深い聞こえ方になるように、この2枚のシングル
曲を選んだつもりなので。
インタビュアー:
では、来るべきアルバムでは今の東京事変の全貌が見える、と。
椎名:
そうですね。シングルは旅先っぽいところもある気がしているん
ですけど、アルバムはホームって感じ……まぁ、あくまで私の印象です
けどね。
インタビュアー:
アルバムタイトルは『娯楽』と書いてバラエティと読ませる、と伺
いましたが。
椎名:
“バラエティ”をアルファベットで書いちゃうと ニュア
ンスが変わってきちゃうんですけど、日本的な感覚での“バラエ
ティ”というか、何も残らない変幻自在な感じで、ビジュアル的にもそ
ういうものがいいなと思っていて。そう思いながら、アートワーク
の打ち合わせに行ったら、架空のバラエティ番組っていうスト
レートなアイディアが採用になったんです。 竹内まりやさん
とおそろいですし。
インタビュアー:
そのバラエティ感に関して。今の音楽シーンって、ルールがない何
でもありな状況にあると思うんですけど、そこで東京事変がやって
る ことって、何かと何かを意図的に掛け合わせるような「ミク
スチャー」っていう仰々しいものじゃないと思うんですね。
椎名:
ポップスっていうことは言えると思うんですけど、カントリーは
歌えないし、ジャズも下手だし、東京事変はそういう特定の音楽を突き
詰める面子ではないので、その都度良ければいいんじゃない?っていう
スタンスが今回のアルバム・コンセプトにぴったりだと思っているんで
す。
(文・インタビュー 小野田 雄)