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とおのとほさんが書き込んだレビュー (山形県南陽市)

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そばもん ニッポン蕎麦行脚 15 (ビッグコミックス)
そばもん ニッポン蕎麦行脚 15 (ビッグコミックス)
山本 おさむ著
エディション: コミック
価格: ¥ 596

5つ星のうち 4.0 会津のそば屋に行くぞ! 栃木のそば屋にも行くぞ!, 2014/9/17
ビーグルスとかポール・マッキンリーには驚いた。顔はわたしにはどちらかというとジョン・レノンに近い顔立ちのように見えた。中学一年のときにビートルズが来日。以来、親しんできたが、このたび初めてマンガでのパロディと出会った形だ。不思議な、複雑な気分だった。これはポールでもジョンでもない別物だ、と言い聞かせながらこのマンガをやりすごした。

マンガに登場する桐屋のご主人は山都町で町おこしをしていた人らしい。山都町には20数年以上前にいったことがあるが、町おこしはたいしたものである。近くの喜多方市はラーメンの町で大成功したが、山都町も「水そば」が話題になった。水は飯豊連峰の内部にある花崗岩を通ってきたもので、おいしさに定評があり、山形県側の水もおいしい。
ちなみに福島県、新潟県、山形県にまたがる飯豊連峰のふもとの町はそばがおいしいようだ。12巻で紹介されていた討ち入りそばは、ふもとの新発田市のそば屋さんが開発したもの。山形県側は商業的に成功したそば屋はないが一般的においしい。あろうことか「山都町のそば粉を使っています」というそば屋もある。もちろん山形県だって、地粉はあります。
「そば屋の3.11」を見て、ガッカリ。マンガにではない。一般消費者にである。「安全安全」と口先だけでなく、放射能含有率を数字で示せば、簡単に信用を得られるのでは? とわたしは思い込んでいたが、そうではなかったのだ。
早速、文科省の放射能モニタリングを見てみた。なんだ、山形県より関東の方が高いところがあるではないか。もちろん、どちらも安全レベルである。よし、今度の休日は会津若松市のそば屋に行くぞ! 栃木にも行くぞ!

信州から転勤してきた会津藩主保科正之は、会津の前に山形藩(旧最上藩)に来ていたとは。いっしょにそば職人も着いてきたというが、山形の庶民にはそばは高級品だったのではなかろうか。そば技術が伝わったとはいえ、団子やそばがき、粒状のままで長い間食べていたと思う。


月と兵隊と童謡―若き詩人の遺稿 (1968年) (三省堂新書)
月と兵隊と童謡―若き詩人の遺稿 (1968年) (三省堂新書)
結城 よしを著
エディション: 新書

5つ星のうち 5.0 戦争が止まらなかったころに生まれた童謡詩人, 2014/9/15
「ナイショ話」の作詩者結城よしをは南陽市の生まれであることは、保育園に入る前から知っていた。

  ないしょ ないしょ
  ないしょの話は あのねのね
  にこにこにっこり ねぇ母ちゃん
  お耳へこっそり あのねのね
  坊やのおねがい きいてよね

こんなに優しくしっとりとした世界だったのだ。本書はそんな優しい心を持つ人の戦記である。

「月と戦友」に次のようなフレーズがある。

 戦友よ
 死ぬばかりが忠義ではない
 と、俺は思うんだがなア

 誰にも負けない手柄を立てて
 そして生きるんだ

 お前には妻がある
 可愛い子供が待っているではないか

   ――これは決して
     未練では生きるのではない

戦争映画ではけっして主役にはなれないような優しく同僚思いの青年の、しかし激しい戦闘にも弱音を吐くことなく、上官先輩たちへの恨み言など一つもなく、まるで童話のような物語になっている。

父健三の追悼の歌
  皇国(すめぐに)に子をし捧げて悔ひなしと言げいひつつ下心(した)には泣きぬ


ロッキー4 [DVD]
ロッキー4 [DVD]
DVD ~ シルベスター・スタローン
価格: ¥ 991

1 人中、1人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0 中年ロッキーが超人ドラゴに勝てた理由, 2014/9/15
レビュー対象商品: ロッキー4 [DVD] (DVD)
なぜ今更ロッキーなのか、それもパート4なのか。
超人的な肉体の持ち主イワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)がなぜあり得ない負けを喫したのか、当時、仕事に追われる毎日で、集中して鑑賞することができず、例えば途中眠ってしまうとか、そうでなくとも疲労困憊の中で鑑賞していたものだからあちこち見ていなかったのだ、というか、あちこちしか見ていなかったのだ。それで中年で体格的にも圧倒されていたロッキーがなぜ勝てたのか、よくわからないまま今日まで来てしまったのだ。一応、ファイナルまで見ることは見たのだが、多分、いい加減な見方しかしていなかっただろう。
ということでロッキーがなぜ勝てたのか、確認するために見直した。
映画の舞台はソ連崩壊の前夜。ソ連最後の書記長ゴルバチョフと思しき人が登場していた。
ソ連はレーガン大統領から「悪の帝国」呼ばわりされ、国際的にも最も評価の低いころのイメージで映画の「ソ連」はできていた。しかし、実際のソ連には世界中の人々が驚愕することになる。最低の国からゴルバチョフという奇跡の自由人が書記長として選出され、国際舞台に華々しく登場したからだ。そんな力があの硬直したソ連にあったのか、と。
現在はというと、プーチン閣下はわたしは大好きなのだが、あえていうと冷戦に戻った感がある。
ゴルバチョフは正直にソ連が経済的に立ち行かなくなっていると世界中に告白した。日本のジャーナリストなどは、今後は、フランスやイギリス程度の発言力しかない国になってしまうだろうと間違った予測をしたものだった。
現在のロシアはウクライナ情勢によって再び憎ったらしい国になりそうである。そんな事情を土台にして「4」を見てもいいのだが、わたしはドルフ・ラングレンのファンなので、ドラゴを憎まれ役としては見れない。純粋に、映画のあらすじ上、超人の負けた理由を確認すればいいのだ。
そしてほんと? といえるような理由を確認してしまったのだった。ロッキーはアポロの敵を討たねば倒れられないというものだった。精神力でドラゴの殺人パンチに耐えたということだ。なんの秘策もあったものじゃない。これじゃあ、一昔も、二昔も前の日本のスポ根と変わらないではないか。「大和魂」の安売りをしていたボクシング漫画やハワイ出身の日系ボクサーと変わらない。
史上最強のハードパンチャーであるジョージ・フォアマンに絶対勝てないといわれた中年ボクサーが秘策によって勝利し「キンシャサの奇跡」としてハイパーヒーローになったモハメド・アリとは大違いだ。
アリが根性で勝ったからヒーローになったのではない。知恵によって力をねじ伏せたからみんな感動したのだ。
ロッキー・バルボアさん、口下手で朴訥なキャラクターだったのに、なぜか能弁に演説なんかしてしまって、どうしたんですか? でも、格闘映画として、やっぱり楽しめました。


永遠の0 Blu-ray通常版
永遠の0 Blu-ray通常版
DVD ~ 岡田准一
価格: ¥ 3,036

10 人中、8人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0 無限の8メビウス, 2014/9/13
レビュー対象商品: 永遠の0 Blu-ray通常版 (Blu-ray)
娘がある時「特攻と自爆テロは同じだっていう人がいるけどそうなの?」というので「全然違う」とすかさずいった。自爆テロは一般人を狙っている。特攻は戦艦撃破のため・・・だが、待てよ。圧倒的優勢な敵を倒すのにわが身を省みないで一矢報いようということでは同じかな、と内心思い返してみた。

本画を観ると、娘の質問はここから来ているのだということを知った。わたしの答えもここでも語られている一般的な見解であることを知った。

映画を見終わると、私のような見解とはまるで次元の違う特攻が語られていることを知った。

BDをトレイに載せて電子的映像が始まった。見事な特撮への感動は40年近く前に観た「スターウォーズ」以来だった。「これだよ、こういう映像を観たかったんだ」と、その時と同じ思いが液晶画面に映し出されたものを観て湧き起こった。

戦闘機はレシプロ機らしい8の字を描いて空中戦を敵味方相まみえ、ジェット戦闘機やヘリコプターとは違う動きを堪能させてくれた。

登場した役者たちは全員、平和ボケしたような人たちではなかった。
平板な反戦思想の主張でも、時代錯誤の軍国主義的な美学でもなかった。

終戦から70年にして、最高峰の太平洋戦争映画に遭遇した。84歳になる母も眠ることなく、席を一度も外すことなく、涙して最後まで見続けた。

公私の公を優先し醜の御盾を描く日本の戦争映画の中で異色の、とことん私を貫くモチーフでありながら、けっしてエゴイズムには堕ちない、品格のある映画だった。

家族のために生きて還るという思いで過ごす中、次々と周囲の仲間たちや教え子たちが戦死していく、それはとても忍びなかった。家族の元に帰ること、若い人たちを1人でも生かすこと、そして他人の犠牲でのうのうと生き延びることはできないという三つの思い、つまり「ヒューマニズム」と「家族愛」と「公(ここでは公共心)のために死ぬ」を解決する宮部教官の知恵が全編を引き締めていた。


光とともに… 12―自閉症児を抱えて
光とともに… 12―自閉症児を抱えて
戸部 けいこ著
エディション: コミック
価格: ¥ 821

5つ星のうち 5.0 母親の息子の育て方 女の男の育て方, 2014/9/13
 光くんが中学生になった。その第2部。身体の成長。子育ての大部分が母親ということで子どもの「男」性が問題になる。自分の体験では見当もつかない事態がある。
 おチンチンのこと。何歳ごろまでわたしはお風呂で身体を洗ってもらっただろう。大学生になって、我がおチンチンも成長し、ところがヘンな小粒様のものが先から出てくるようになった。病気かと青くなってしまった。それはじつは恥垢というものだった。袋もバスタオルで軽くなでるだけなのに変なものが付いてくる。恥ずかしい話だが、それも垢だった。

 我が母親は、お風呂で子どもの私の身体を洗うとき「耳の後ろや腕の脇をしっかり洗いなさいよ」としつけてくれたのだが、性器はスルーしたのだ。母親といえども子どもの「男」性器を洗うのを控えたのだ。しかし子どもとしては母親のやったとおりに、しっかり身体の洗い方を守った。
 だから恥ずかしく汚い話だが、大学生になるまで、わたしは自分の性器を洗わないで来てしまったのだ。もちろんそれ以来、銭湯に行こうが、温泉に行こうが、サウナに行こうが、隣に誰がいようが、性器もしっかり念入りに洗っている。

 お義母さんの言葉は辛いものがあるが、それは世間の常識。自分たち親の感覚のバランスを取っておくために、お義母さんの言葉は一応耳に入れておく必要がある。けれど、このマンガを見ているおかげで優しい対応ができる。
 この夏、還暦男に魔が差して、スケートボードの練習を開始した。数日して、少し慣れたかと、片足をボードに乗せて地を蹴った。とたんに宇宙遊泳の感覚で身体が浮き、その直後、右手で地面を受身のように叩いていた。そして右ひじ骨折。久しぶりに通勤に電車に乗った。お義母さんが遭遇したような若い男がわたしの向かい側に坐って、ギブス腕のわたしに声をかけてきた。私は忙しいビジネスマンなどではなく余裕があるため、つかの間お相手できたと思う。

 今巻で泣けたのは巻末の井上春子さんのエッセーだ。執筆当時は86歳だから、現在は93歳くらいか。彼女が現役の時は忙しく、孫の障害などかまってあげられなかった。やがて親の会の賛助会員として協力できるようになったらしい。その方の言葉・・・
「子供しかるな来た道じゃ、年寄り笑うな行く道じゃ」
・・・自分に孫ができて、しみじみと味わえる言葉だと思う。

「さぁ、みんなで『自閉症スペクトラム』を考えよう、やまがたで!」
今日と明日は、山形市で全国大会が開催されるようです。


光とともに… 11―自閉症児を抱えて
光とともに… 11―自閉症児を抱えて
戸部 けいこ著
エディション: コミック
価格: ¥ 821

5つ星のうち 5.0 このマンガに感謝。そしてさらに生きていくほかない。, 2014/9/12
中学生になって光くん、バス通学中、隣の席に座っている女性の髪の毛をつまんで匂いを嗅いだ。
 光くんのことを知らない人なら誰でも驚くだろうし、犯罪者になってしまう。施設の教職員の方々は優しいので適当にあしらえるが、一般の方のことを想定すると、喫緊の対策を取らねばならない。
 「なにごともしつけだ」というのは易しい。けれど東幸子お母さんは代替策を考えることができた。ぼくら一般はお母さんのような工夫を怠っているような気がする。
 障害ある者の性の問題は歳とともに大きく深刻な問題になる。世の男どもはみんな苦しくて叫んでいる。その相手をするのが「女」のお母さん。息子の性を理解し、なんとか対処していかねばならない。そうそう、トイレのこともある。やがて、おかあさんといっしょにトイレには行けなくなる。同性の手伝いがますます欲しくなる。
 高次機能障害者は身近なところにいる。その障害を全然認めてもらえず、1990年代にネットで調べたところ「相談は次へ」というのを見つけたら、東京都だった。山形県はまったくだめで、2、3年前、屋根で仕事をしているとき、後ずさりして地面に落ちてしまった。それでやっと障害を認めてもらえた。
 彼は障害を持つ前はバリバリのビジネスマンだった。ひき逃げ事故に遭い、発見されるのが遅く、かなり危険なところまで行ってしまった。その後遺症は30数年たってもあり、例えばマンガでもいっていたように、目的地に自動車で行けるが、自宅に帰ってこれない、というような状態である。
 本マンガは、自閉症を中心にしながら、社会的な問題、他の脳に障害について取り上げてくれていて、本当にマンガを手に取る者を救ってくれる。感謝。


そばもん ニッポン蕎麦行脚 14 (ビッグコミックス)
そばもん ニッポン蕎麦行脚 14 (ビッグコミックス)
山本 おさむ著
エディション: コミック
価格: ¥ 596

5つ星のうち 5.0 力石徹にもそばを食わせたかった!, 2014/9/10
「コロッケそば」ラーメンでなら食べたことあるのだが・・・。カップそばのふたの上にコロッケを載せ、3分間待つ間にいくらかでも温めておく、このやり方のヴァージョンはたくさんあると思う。でもコロッケをそばに浸して食べるなんて・・・ぜひやってみる価値ありだ。カップめんのスープはわたしにはひどくしょっぱいので、コロッケを食べるにはいいかもしれない。高級なそばの食べ方ばかりでなく、このようなズボラ飯? というのは「そばもん」の全体に漂う品格を落としかねないが、わたしは嫌いでない。
「千住ネギ」これは学習マンガでした。ネギにも今後、意識がいくこと間違いなし。
「ファイティングそば」減量ってしたことないが、そばがメタボ促進剤でないことは周知のことだからみんな納得いくことだったろう。「あしたのジョー」の力石みたいな減量地獄が描かれてなくてホッとした。
そばつゆがしょっぱく感じなかったのかなあ、と一瞬、誤解した。減量っていっても健康体の方の減量だし、むしろ塩分を補う必要があるだろうし、やっぱりそばはいい!


愛蔵版 第72回 将棋名人戦七番勝負
愛蔵版 第72回 将棋名人戦七番勝負
毎日新聞社著
エディション: 単行本
価格: ¥ 2,376

5つ星のうち 5.0 やはり「おそるべし」羽生名人, 2014/9/7
わたしに将棋名人戦について何が語れよう。その周辺的なことでもコメントしてみたい。
棋譜と解説だけで盤上の戦いを想像できるわけがなく、将棋盤をちゃぶ台に載せて駒を並べてみた。いまどき、PCのソフトに打ち込んだほうがジックリ鑑賞できるんだったと並べているうちに気づいた。けれど、ふだんいるところから座を移して気分転換も図りたかった。
本書は字の大きさも、そして駒の並べやすさもとてもよかった。指し手や消費時間までそれぞれの数字が並んでいる。悪手や勝負手までもその記号がついている。
観戦記事も重要な要素だ。局面ごとに執筆記者が代わっているが、対局者どころか、これまでの関連棋士の過去を振り返るのがこちらの楽しみになる。マナーとして、幾分、名人にひいきするようだ
最後の第4局目は関浩記者の手になる。名人戦の70年間を振り返っている。そして、案外残酷なことをいっている。過去、立ち上がりから名人が3連敗したことがないと。そして森内名人は4連敗したのだった。おそるべし羽生善治新名人。

私は将棋ソフトの最弱モードにしても勝てないくらい弱い。けれど、勝負を鑑賞するのは嫌いではない。もちろん深謀遠慮が理解できるわけはない。けれど盤上に駒を並べると自分が指しているように錯覚して嬉しいのだ。

将棋は囲碁に比べて国際化していないが、日本人が勝てないような時がやがて来るのだろうか。


赤頭巾ちゃん気をつけて (中公文庫)
赤頭巾ちゃん気をつけて (中公文庫)
庄司 薫著
エディション: 文庫
価格: ¥ 637

5つ星のうち 5.0 庄司薫の恋人の由美ちゃん役、テレビドラマでは仁科明子がやったんだ, 2014/9/6
芥川賞獲得に向けた意気込みが感じられる。「庄司薫」はこの作品のために名乗った。物語の主人公の名前である。しかし、都立日比谷高校は実在する学校なので誤解されないように、あとがきで庄司薫は架空の人物であると念を押している。
文体を変えたことも受賞当時話題になった。サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」の翻訳文体と酷似していると指摘された。ヒントにしたことは間違いないだろう。いろんな仕掛けを取り込んで確かな獲得に向けて策を練ったのだろう。

東大安田講堂攻防戦で入試が中止になった2年(くらい?)後に発表されたものなので、東大受験(予定)生を主人公にしたということが決定的な作戦である。

作者自身は当時東大法学部の三年生だったという。自身が省庁や司法試験の受験を前にしてそれを放棄する動機を主人公に重ねたのではないだろうか。自身も東大受験生だったので、ある意味、主人を構築するのはやりやすかったのではないだろうか。

話題性だけで芥川賞は取れないだろう。内容もまた、恐れ入るほどの頭のよさを描き出している。私は文藝春秋で本作品を高校二年生で、つまり作者が同世代だと思って読んでしまって、つくづく自分は能力も学力も低いんだ、と思ったものだ。今回、あとがきを読んでみると、読者諸氏は「お兄さんに手伝ってもらったのでは?」と思ったのではないか、というように書いていて、安心させてくれていることを知ったが、私はその時は気づかなかった。

中公文庫の解説は佐伯彰一が書いているといい、芥川賞の選考で三島は絶賛したといい、文体はくだけていても、彼らと同じ穴のムジナだ。東大系の秀才で、中流以上の家庭で育ち、保守的な性向を持っている。三島も佐伯も本作品を読んで快哉を叫んだのではないだろうか。
三島も、作家の庄司薫も東大・公僕の流れを押しつけられ、どちらも自分の意志で小説家の道に転向した。

作中の薫くんはとってもツキが悪かった。いろんなツキのなさが重なったが、とりわけ家の廊下においてあったスキーのストックの先端で左足の親指のツメを剥がしてしまったことと、東大入試が中止になったことが大きい。中止になったことそのことよりも、そのおかげで騒ぐ世間様の、現代の言葉でいえば「ウザさ」が負担になる。
世間様が作り上げたといえるような薫くんの性格は、素直で温厚。でも、ナーバスになって、性格を豹変させるところが出てくる。とはいえ、頭の中だけでのことだ。
それを救ってくれたのが、梶井基次郎の「檸檬」を連想するのだが、銀座の旭屋書店前で出会った幼女だ。彼女は赤頭巾ちゃんの本を買うことになっていた。いまとなってはとても危険な行為だが、手をつないで書店まで向かう。書店では、いろんなバージョンの赤頭巾ちゃんがあるのだが、適切な本を選んであげて通りに出て分かれる。それを機に彼は自分がじつは「ついていたんだ」と気づく。幼女がナーバスな心を吹き飛ばしてくれた檸檬的存在だったのだ。

薫くんはゲバ棒学生たちに同情していると見せかけて、じつは辛らつに批判している。振り返ってみれば、日比谷高校の校風にもひどく批判的だ。素直でおりこうな薫くんの内心はじつはひどくドロドロしていたのだ。ゲバルト学生たちのほうがよほと素直だということが分かるように書かれている。赤頭巾ちゃんに代わって、やはり幼友達の由美ちゃんが今後、彼の心を清涼にしてくれることになるのだろうか。
思い出したが、1971年だったかNHKテレビでドラマ化されたとき、由美ちゃんの役は 仁科亜季子(当時、明子)だった。乳がん撲滅キャンペーンではすっかり落ち着いた女性になっているが、それでも当時の面影が見え隠れする。


光とともに… (10)
光とともに… (10)
戸部 けいこ著
エディション: コミック
価格: ¥ 821

5つ星のうち 5.0 成長するにつれ、大きくなるにつれ、心配のタネはいっそう大きくなる, 2014/9/4
レビュー対象商品: 光とともに… (10) (コミック)
小さいころの心配なんてじつはそれほど大したことがなかったんだと、子どもが成長していくにしたがって気づいていく。成長するにしたがって心配のタネが解消されていくのではなく、広がり深まっていくだけなのだ。心配は次第次第に重いものになる。そんな不吉な前兆が9巻の最後から10巻の始まりに繋がっている。
10巻では、赤松先生などちっとも恐るべき存在ではなくなっている。それは喜ばしいことではなく、もっと恐ろしい困難が待ち受けている匂いが立ち込めてきたからだ。
通学の距離が延びればそれだけリスクは高まる。
田舎の通勤電車など、ほとんどが高校生で詰まっており、幅を利かせている。養護学校に通う子どもたちはこころない高校生たちにいたずらされることがあるらしい。高校生は高校生でいろんなことに怯えながら暮らしているとすると、大人並に見て見ぬふりをする生徒たちも多いかもしれない。
知り合いの子どもは、野球の好きな中学生だが、親が障がい者だといっていじめられ、学校に行きたくないという思いをしているという。世間は無念なことだらけだ。
世間の無理解なんて些細だとばかりに、もっと恐ろしい悪の手が伸びてくる。親が年老いたら、親が死んだらわが子はこういう世の中でどうなるのだろう・・・こう思うととてもいたたまれない。生涯を幸福になんて欲張らないまでも、安全に生きていってもらうためにはどうすればよいか。グループホーム、後見人制・・・いろんなアイデアを打ち出してもらい、その中の最も良い方法で人生を全うできるようになることを願うのだ。
高齢者の自分から見れば、孫のために奮闘するわが子がしのびず、安らぎのある人生を送ってほしいと願わずにはいられない。
「おひさまハウス」の存在はほんとうに救いだ。できることなら私も余生をこのような活動をしていきたいと、さしあたって思うだけは思うのだ。


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