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5つ星のうち 3.0
まずトリックありきの、"らしからぬ"作品, 2006/6/16
東野氏の作風は以前からかなり好きで、今までに出版された大半の作品は読んでいると思います。
ですから、各社のミステリー賞ベスト1を総なめにし、
直木賞受賞作にもなった今作品にはかなりの期待をしていました。
しかし正直言って、その期待は裏切られたと言わざるを得ません。理由は大きく言うと二つあります。
まず、人物描写があまりに薄っぺらい。もともと東野氏のミステリはトリックそのものよりも、
事件を契機にした様々な人間模様を巧みに描くところにその魅力があったわけですが、
この作品ではトリックばかりに重点を置いていて、人物描写がすっかりおざなりになってしまっています。
たとえばヒロイン役の花岡さんは作中で美人美人としきりに持ち上げられますが、
具体的にどう美人なのかがさっぱり分からず、そのため、主人公の石神が
熱烈に入れあげる事にも感情移入できない。これでは物語が成り立ちません。
花岡さんの前夫・富樫の描写に関しても、まるきりステレオタイプな悪役ぶりです。
もうひとつ不満だったのは肝心のトリック部分です。確かに最初はどんでん返しに驚かされましたが、
冷静に考えると強引で力業なトリックという感が否めない。
本の帯にも「人間はこれほど他人を愛せるものなのか」という台詞がありましたが、私としてはむしろ、
「トリック作りのためにここまでやれるものなのか?」
と言って欲しかったところです。
東野氏の作品にはこれよりももっと創意に満ちたユニークな作品、泣ける作品などがたくさんあります。
直木賞作品ではありますが、これを氏の代表作に位置づけるには、ファンからしても、
東野氏自身からしても不本意なのではないでしょうか。