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5つ星のうち 5.0
実に痛快な1冊, 2013/5/1
プロデューサー日下部五朗の名前は、昔から存じ上げていた。
氏がプロデューサーを務め、大ヒットとなった「仁義なき戦い」以降、一時期、「キネマ旬報」に度々登場し、発言をされているのを読んだり、その後、「仁義なき戦い」シリーズを始め、東映やくざ実録路線を名画座で後追い体感した際、そのクレジットに、必ずと言って良いほどに、そのお名前を確認出来たからである。
本書の存在は、小林信彦の新刊「われわれはなぜ映画館にいるのか」の芝山幹郎との対談で話題にされているのを読んで、知った。
後日、書店に行き、「シネマの極道」と名付けられた本書を見つけ、手を取り、パラパラと巻頭を読み始めて驚いた。
なにしろ、いきなり、ソフィー・マルソーとのツー・ショットから始まる。しかも、場面はなんと83年度カンヌ映画祭授賞式だ。
大東映の屋台骨を陰で支えた功労者だが、失礼ながら、何故にカンヌ(これは誉めコトバです〜笑)と思ったら、そうか、この年「猶山節考」が日本からのノミネート作品に選ばれ、南仏まで行かれていたのか。
著者が語っておられるように、この年のカンヌは、同じくノミネートされていた「戦場のメリークリスマス」の軍団が潤沢な宣伝資金をバックに闊歩し、下馬評も高く、パルムドールを獲るのは確実と思われていた。
だから、御本人がまるで期待せず出掛けていって、熱心なロビー活動もせぬまま、あれよあれよという間に製作者として栄えある授賞式の壇上に上がるまでの夢の如きサプライズな顛末は痛いほど良く分かるし、「戦メリ」関係各位の皆さまには申し訳ないけれど、読んでいて、実に可笑しい。
で、立ち読みもそこそこに購入、改めて読み始めたら、オモシロくて、オモシロくて、一気に読み終わってしまった。
これは、実に、痛快な本である。
義理と人情、欲望と背信、憎悪と報復、路線は変われども、つまり、暴力と男気とお色気の東映路線に生き、右も左も関係ない通俗的に面白ければそれでいいとのスタンスに貫かれた社是の中で、当時のワンマン社長岡田茂、先輩大プロデューサー俊藤浩滋を筆頭に、様々な映画監督、大スターに、“その筋”の人たちまで、とにかく多種多様で難しくややこしい人間臭い方々と向き合い、付き合い、時に、おだて、騙し、危ない橋を渡り、恫喝し、恫喝されながらも、熱意と誠意を以て、大ヒット作や傑作たちを生み出していった稀代のプロデューサーの(御本人は社員プロデューサーと終始謙遜されているが)逸話の数々。
映画隆盛期で飛ぶ鳥を落とす勢いの花形であった東映に入社を果たしたものの、早々に映画監督の道は途絶え、廻されたのは助監督より更に過酷な進行役。
だが、著者は、そこで、社員プロデューサーとしての第一歩を艱難辛苦を以て学び始め、次第に頭角を現していく。
とにかく映画ファンには堪えられない裏話が盛り沢山で、「仁義なき戦い」シリーズはもちろん、「893愚連隊」、「緋牡丹博徒」シリーズ、「鬼龍院花子の生涯」等々、その誕生秘話がたっぷり明かされる。
社員プロデューサーであるがゆえ、社長の意見は絶対で、結果、「楢山節考」は岡田茂に嘘八百吹きまくって企画を通し、逆に、「県警対組織暴力」は、岡田茂の警察への私憤から鶴の一声で決まったらしい(笑)。
その一方で、深作欣二/笠原和夫の「実録・共産党」が一度頓挫した後、再び、角川映画で、「犬神家の一族」に続く第2弾として計画されていた事とか、「日本の黒幕」を降りた大島渚と山口組田岡一雄のドキュメンタリーを企画するも、田岡の死去で断念したとか、ホンマかいな、と思える話も披露される。
東映と言えばやくざ映画、実際、昔から、京都撮影所には本物のやくざが出入りしていた、なんてのは序の口で、実録路線にシフトしてからは、否応なしに、取材や映画化権承諾の過程でその筋との関係が深くなり、恫喝、監禁、指詰め強要などの体験もされたらしい。
千恵蔵、右太衛門、錦之介、鶴田浩二、高倉健、藤純子、菅原文太、千葉真一ら、お馴染みの大スターの素顔にも言及され、ゴシップ誌みたいな印象も受ける本書だが、一見豪快に見えるその映画人生の中に、映画人として、そして、映画製作者としての矜持が伝わって来る。
プロデューサー本では、ロバート・エヴァンス著「くたばれ!ハリウッド」以来の、しかし、こちらは、東映とカツドウヤ魂への気概を感じさせる1冊。
日本映画ファンは、是非、一読をお薦めしたい。