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5つ星のうち 5.0
是非ともヴェロシティとセットで。, 2012/5/18
海外SFやファンタジーを含め、自分ではまぁまぁ読書量がある方だと思っていますが、なぜかこれまで冲方さんの本を書店で手に取ったことはありませんでした。
なぜなら、最近のライトノベルブームには全然乗れない体質だもので、決してライトノベルでもない作品にも、「話題になっているからといって、面白いとは限らない」というひねた見解があったことは否めません。
そんな私が冲方さんの本を手に取ることになったのは、漫画版の「天地明察」を読んだのがきっかけでした。あまりに面白くのめりこめる展開に「これは原作を読んでみたい!」という思いがむくむく育っていたからです。
しかし、市内の本屋では不思議なくらい冲方さんの本が置いてなく…「天地明察」のハードカバーがみあたらなかった…たまたまみつけたマルドゥック・スクランブル「完全版」の1巻を、お試しのつもりで入手しました。
そして、その夜には最近まで冲方さんの小説を読まなかった自分を罵倒したくなるくらいハマりました。
ところが、週末に1巻を入手した本屋に行ったものの、2巻と3巻は誰かにお買い上げ済み。違う作品はありましたが、1巻を読んだからには2巻が読みたいのが人情ですよね。
そこから6件ほど探し回りましたが、なぜかどこにも置いてないのです。最初にまとめ買いしなかった自分を心の中で盛大に罵倒しました。ええ。
最終的には、完全版2・3巻と、マルドゥック・ヴェロシティ1〜3巻、マルドゥック・フラグメンツを始め、冲方作品を通販で一気に大人買いしまくりました。
現時点ではスクランブルとヴェロシティを読了したところ。もちろん、まだ冲方作品の全てを揃えたわけではありませんが、いずれそうなるであろうと思います。
※以下は、スクランブルとヴェロシティを読み終えた前提での感想です。
※かなりネタバレに近い表現があります。
まず、スクランブル。
ストーリーも素晴らしかったですが、読んでいてこれほど自分と呼吸が合う文体も珍しく、嬉しい誤算でした。
小説を読むとき、テーマの好みだけでなく、どれだけ自分の内的リズムとその作品のリズムが近いかで、どれだけ深く物語にダイヴできるかが変わってくるというのが私の持論なんですが、途中で呼吸の話が出てきた時などは、自分の考えが物語世界に混じり合ったような、不思議な感覚を味わいました。
確かに血腥いシーンや苦痛に満ちたシーンも多いです。拷問であったり、虐待であったり、そういうシーンを丸ごと飲み下すには、ある意味「人を選ぶ」側面はあるでしょう。
けれど、現代を生きている我々が、表面はそこそこ茫洋としながらも内実で未来への不安にじわじわと焙られていることを考えれば、いっそ苦痛と苦悩と虚無と愛情が突き抜けたこの世界は、その先にあるべき光を予兆させるものに思えました。
次々に3次元的につながっていく言葉が、まるで発達していくニューロンのようでした。撒かれた種が芽を出し伸びた蔓が絡み合うようでもありました。つながる言葉のリズムにクラクラしながら、アドレナリンでハイになってしまうくらいに一気に読みとおしました。
同時に、登場人物たちの真摯さにも打たれました。
バロットが探し求める「なぜ」の答え(あるいは反証)、ウフコックの追及する有用性。それは終わりのない探究であり、成長でした。
イースターやアシュレイの描写も物語に深みを添えてくれました。
そしてヴェロシティ。
バロットとウフコックを愛したあまり、スクランブルであれほど無慈悲に少女を追い詰めたボイルドを、ヴェロシティで理解できるかどうか、あるいは噛み砕けるかどうか未知数でした。読み進めるのが困難かもしれないとさえ思っていました。
それがどうでしょう、これほどにボイルドへの愛情を持って本を閉じることができようとは…。
スクランブルではある意味非人間的だったボイルドの過去と、ウフコックと袂を分かつ原因になった悲劇。
ある意味軽妙なスタートに驚き、予想外の展開で高みへと導かれ、それが徐々に崩壊していく。
登場人物が多いため、その相関関係を把握するのが結構大変でしたが、戦闘シーンはむしろ一気呵成に読み進めていけ、まるでとてつもない奔流に呑まれたかのようでした。
3巻に入ると種明かしに次ぐ種明かし。全く予想していなかった展開に唖然とし、徐々に虚無に呑まれていくボイルドに縋りついて、現実からの剥離を止めたくなるような気持ちになりました。
ボイルドの最終選択の理由が深く共感できるだけに、袂を分かつ理由を頭を垂れて受け入れるしかないという極地まで連れ去られてしまいました。
殻から出ようとあがく少女と、最後に殻で覆われようとする男の、それぞれの物語。これら2つはいわば二卵性双生児のような関係です。
そして、暴力と苦痛と狂気と醜悪さに縁どられていますが、これは紛れもなく愛情の物語だと思います…泥の中からも無二のダイヤをみつけるような。
ぜひとも、スクランブルからヴェロシティまで、一気に駆け抜けてトリップしていただきたい。
最後に、私にとって忘れてはならないもう1つの要素。
カバーイラストに寺田氏が採用されていることは望外の喜びでした。
さて、今からフラグメンツを読もうと思います。