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現代の人類が抱える最も根源的なテーマ、すなわちテクノロジーの問題にこれほど鋭くラディカルに迫った作品が他にあっただろうか? これはスティーヴ・ライヒ(1936-)の新たな大問題作であると同時に、かつてセンショーションを巻き起こした≪ザ・ケイヴ≫さえはるかに上回る音楽的・視覚的完成度を誇っている。CDをかけて、最初に飛び出してくる音を聴いただけで、その充実感は明らかだ。≪ザ・ケイヴ≫が聖書を扱った神学的な作品であったのに較べると、人種・宗教を超えて、本作の内容ははるかに身近である。作品は、第1部「ヒンデンブルク」(98年に単独上演)、第2部「ビキニ」、第3部「ドリー」の3部構成で、映像を収録したDVDの方は妻のベリル・コロット(1946-)とのコラボレーション。3部版の世界初演は2002年5月13日ベルリンで行われている。
ライヒはテクノロジーを否定も肯定もしない。ある種の「真理」を押し付けるような野暮な真似は決してしない。ただし「進歩」への信仰に対してはきわめて辛辣である。ライヒは言う、「科学的な知識では、人間であることの本質が完全に理解できるはずがない」と。人間がテクノロジーに対して抱いている多様な意見が、ここでは特殊な方法によって音楽的なコラージュを施されているが、観る者に求められるのは「自分なりの結論を出すこと」である。
現在のライヒが関心を持っているのは、スピーチサウンドや現実の音のサンプリング音を用いるこうした作曲方法だが、それは研ぎ澄まされたセンスによってまぎれもなく上質な音楽を生み出している。≪ディファレント・トレインズ≫や、≪ザ・ケイヴ≫では音楽が登場人物の話の長さに従属しており、テンポが頻繁に変わるため、時にはリズムの勢いが失われていた。まず音楽の構想が先にあり、それに合わせてサンプリングを変形させた今回の≪スリー・テイルズ≫では、その欠陥が克服されている。なお第1部「ヒンデンブルク」では、ワーグナーの≪ラインの黄金≫のニーベルング族のライトモチーフが使われているのを聴くことができる。
ライナーノーツの中のインタヴューでライヒが「今回のような作曲の後は(自分自身の中のバランスをとるために)アコースティックな作品を2、3曲書く必要がある。私はシンセサイザーを伝統楽器の代替物とすることにはまったく関心はない」と生身の音楽家らしい発言を行っているのも興味深い。
これは古典的な形式の舞台ではないが、映像と音楽が流れるその瞬間に確かに“舞台”が観る者の心に現れる。そういう意味で、これはまぎれもなく現代のオペラだ。ディスプレイに流れる映像を漫然と観ているだけでも、充分すぎるくらいに刺激的・眩惑的であり、すべてのコンテンポラリー・アートの愛好者に強力におすすめしたい大傑作である。(林田直樹)
内容(「CDジャーナル」データベースより)
ミニマル・ミュージックの先駆者、スティーヴ・ライヒによるデジタル・ビデオ・オペラ「スリー・テイルズ」がCD+DVDで登場。20世紀の社会的な出来事を3部構成で描いたドキュメンタリー・タッチの作品だ。