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ムターの身上は一種の硬質な完璧主義である。常に切れ味は鋭く、線は強く、何もかもが考え抜かれ、濃厚な歌も彫りの深さも、余人の及ばぬ芸域を極めてきた。時には鬼神の如き形相で音楽の核へと切り込んできたのが天才ムターなのだ。そこにプレヴィンの洒脱(しゃだつ)なセンスと豊富な劇場経験、上質な官能性と豊かな情感が加わったときに何が起こるのか?
冒頭、プレヴィンがムターに捧げた曲「タンゴ、ソング&ダンス」は、そのひとつの回答かもしれない。20世紀音楽に対する視野の広さと古典作品への深い愛を兼ね備えたプレヴィンのピアノのサポートによって、酸いも甘いもかみ分けた大人の懐深さがここからは伝わってくる。プレヴィンはガーシュウィン「ポーギーとベス」からの4曲(ハイフェッツ編曲)でもピアノを担当している。ムターはささやくような弱音による艶やかさを生かし、大人の女のゆとり(?)すら持って演奏している。えてして陥りがちなイージーリスニング風どころか、悲しみをいっぱいに含んだ、超一流の、最高のガーシュウィンがここにはある。
ブラームス、クライスラー、フォーレでは、長くムターのパートナーを務めてきたピアニスト、ランバート・オーキスとのデュオで収録されているが、こちらの方も絶好調。ジャジーなくらいにリズムを揺らせる「ハンガリー舞曲」第6番など、ブラームスの哄笑が聴こえてくるようだし、フランチェスカッティ校訂のフォーレ「ヴァイオリン・ソナタ」第1番は、抑制された旋律と淡い色彩のなかに、むせ返るような愛と憧れがこめられていて感動的だ。
クライスラーはよく上質のホイップクリームに例えられる甘口の音楽だが、このムター特製のホイップクリームは口に含んだ瞬間、その非凡な味わいに驚嘆し、次には陶然とさせられること疑いなしの極上の代物だ。特に「愛の悲しみ」は極めつけで、これほど誇張なく深い“悲しみ”をたたえた演奏がありうるとは…。有名なクライスラーの自演とはまったく異なる解釈だ。こうした小品に全精力を注ぐのはいかにもムターらしい。この「悲しみ」1曲だけでも、本ディスクは十分買う価値があると思う。(林田直樹)
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