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フロイトやマーラーが活躍した世紀末ウィーンを背景とした大指揮者エーリヒ・クライバー(人気指揮者のカルロス・クライバーの父)が、死の半年前に精魂を傾けてレコーディングした歴史的名盤。1955年のリリース以来、最高の「フィガロ」としての名声をほしいままにし続けてきた演奏である。アリアや重唱だけでなく、舞台上の演技を想像させるレチタティーヴォもすべて収録した初の全曲録音という意義だけではない。
まずクライバーの指揮が凄い。この演奏全体に漂う内観的雰囲気と底知れぬ深みはまったく特別のものである。いたずらに走りすぎず、作為を感じさせず、ユーモアも哀愁も、これほど柔らかくふくよかに、ニュアンス豊かにモーツァルトのオペラを表現できること自体、ものすごい。信じがたい音楽的能力のなせる業だ。
キャスティングも最高。"ホイップ・クリームのような声"と賞賛されたヒルデ・ギューデンの歌うスザンナの、なんと甘く魅惑的なことだろう。夢のように可愛い! 抜群の演技力が歌だけからもうかがえるチェーザレ・シエピのフィガロも、一声歌っただけでもう雰囲気が違う。"傷ついた心を歌う"ことにかけては並ぶ者のないと言われたリーザ・デラ・カーザの伯爵夫人は、銀のように輝く姿が目に浮かぶようだ。威厳の中に優しさも垣間見せるアルフレート・ペルの伯爵、一途でチャーミングなスザンヌ・ダンコのケルビーノなど、それぞれキャリアの絶頂にあった歌手たちばかり。
古い録音なのに、音も信じがたいほどいい。リマスタリングによってさらに新鮮になった音は、ある意味最新録音を越えているかもしれない。キャストたちのため息や微笑までマスターテープに刻み込んだ、デッカ技術陣黄金期の最高の証しといえるだろう。(林田直樹)
内容(「CDジャーナル」データベースより)
ステレオ最初期の名盤の復活。当時のウィーンの一流歌手を集めて行なわれた作曲者生誕200年記念の録音。流れる様な音楽と颯爽としたテンポの指揮が最高の魅力。歌にも音楽にも時代の流れを感じる名演。シエピのフィガロはジョヴァンニより絶対いい。