Amazon.co.jp
1932年、ノーベル賞受賞から10年を経て、すでに世界に名立たる知識者になっていたアインシュタイン。53歳の彼が、国際連盟から「人間にとって最も大事だと思われる問題を取り上げ、一番意見を交換したい相手と書簡を交わしてください」と依頼され、選んだテーマがこの本のタイトルであり、その相手はフロイト。当時76歳だったフロイトは1917年に『精神分析入門』を刊行し、やはり名の知れわたった碩学であった。
時代はすでに全体主義の足音が聞こえはじめており、ナチ党の政権掌握は1933年1月。アインシュタインはユダヤ人(後にアメリカへ亡命)、フロイトもユダヤの血を引いている。解説の養老孟司は、当時のアインシュタインにとって「ナチの勃興が焦眉の重大問題だった」と述べ、フロイトはその問題に気づいていないともみえるとしている。
アインシュタインは「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」と問い、「人間の心を特定の方向に導き、憎悪と破壊という心の病に冒されないようにすることはできるのか?」と悩む。また、「“教養のない人”よりも“知識人”と言われる人たちの方が、暗示にかかりやすいとも言えます」と。
これに対してフロイトは「人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうにもない!」と明言する。戦争とは別のはけ口を見つけてやればよいと言い、エロス(愛)と破壊衝動をキーワードに問題解決に挑む。そして、「文化」をヒントに彼なりの示唆深い解答を提示する。70年前の往復書簡。冷戦が終息し、地域紛争の多発で明けた21世紀に、このフロイトの解をいかに読み解けば良いのであろうか?
養老孟司の解説「脳と戦争」は往復書簡との関連性でみると、いまひとつ理解できない。「人の攻撃性が生得的であろうとなかろうと、人が見ている世界は所詮はヴァーチャルである」とし、「それならヴァーチャル世界で戦争をすればいい。攻撃性をそこで満足させればいいのである」と言う。しかし増加する内戦や地域紛争では、斧(おの)や自動小銃で殺戮を犯す“ヴァーチャル”とは言えない現実がある。付録「戦争の世紀」は1898年の米西戦争以降の戦争を列挙しているが、その意義は不明。高校の歴史教科書の要約である。(澤田哲生)
内容(「BOOK」データベースより)
ナチズムの嵐に消えた世紀の戦争論!世紀の変わり目の今、日本に甦る!一九三二年、国際連盟がアインシュタインに依頼した。「人間にとって最も大事だと思われる問題をとりあげ、一番意見を交換したい相手と書簡を交わしてください」とりあげた問題は、戦争。相手は、フロイトだった。