本書は、Philip KotlerによるMarketing Management, The Millennium Edition, Prentice Hall, 2000の邦訳である。
原著のMarketing Managementは、ノースウェスタンやスタンフォードなど米国のトップ・ビジネススクールを中心に、マーケティングの上級テキストとして世界で最も広く読まれている。我が国においても、これまでに同書の第3版が稲川和男、浦郷義郎、宮澤永光の3先生によって、また第7版が小坂恕、疋田聰、三村優美子(村田昭治監修)の3先生によって翻訳され、多くのマーケティング実務家やマーケティング研究者に影響を与えてきている。
第10版となる本書では、特にミレニアムを意識した編集となっており、ミレニアム関連のトピックスを盛り込むとともに、新たなコンセプトや事例が多数取り入れられ、内容の充実がはかられている。例えば、電子商取引を21世紀のマーケティングとして位置づけ、第20章ではその解説に多くのページが割かれている。また、リレーションシップ・マーケティング、ブランド・マネジメント、サービス戦略、顧客価値などに関する記述も増え、今日的な課題への対応がなされている。
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多くの読者は既にご存じかと思うが、本書の姉妹書として『コトラーのマーケティング入門』(恩蔵直人監修、ピアソン・エデュケーション)が1999年に出版されている。そこではマーケティング・テキストとしての面白さや工夫が翻訳によって損なわれることのないよう、できる限り原著のスタイルの踏襲が心がけられた。本書においても、その思いは全く同じである。原著中に盛り込まれた事例や囲み記事など、割愛することなく一冊の本としてまとめられており、原著の魅力が再現されている。
これまでにも、多くの優れたマーケティング・テキストが我が国において出版されてきているが、事例を豊富に盛り込んだ上級テキストとなると、ほんの数例を数えるにすぎない。
こうした点を考えると、本書の出版は我が国におけるマーケティングの発展に少なからず貢献できるものと確信している。意義ある出版に監修者として関わることができたことは、マーケティング研究を志す者として誠に光栄であり、大変嬉しく思っている。
コトラーの『マーケティング・マネジメント』は、私自身、幾度となく手にし、大いに参考にしてきている。ところが、じっくりと一冊を読破したという記憶はない。今回、その機会を得て、マーケティングの深さと面白さを改めて知らされた思いがしている。同時に、多くの混乱を整理してもらい、これまで気づかなかった視点を知らされ、新たな問題意識を抱かせてくれた。
マーケティング実務家、マーケティング研究者、そしてマーケティングを学ぶ大学院生などにとって、本書は価値ある一冊であると感じている。
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我が国における今日のマーケティング環境の特徴として、製品のコモディティ化を指摘することができる。食品や日用雑貨などの非耐久財にしても、自動車や家電などの耐久財にしても、基本品質において大きな違いのないブランド間で競争が展開されている。基本品質において劣った製品が、長期にわたり市場に存在できないことも確かだ。
コモディティ化への動きは、無形サービスにおいても確認できる。金融、旅行、輸送など、多くのサービスがコモディティ化している。
もちろん、コモディティ化は今に始まったことではない。経済の成熟化が叫ばれた80年代には、既に多くの製品においてコモディティ化が進んでいた。だが、当時の企業は様々な周辺サービスを製品に付加することにより、競争相手との差別化を実現できた。しかし今日、その周辺サービスでさえコモディティ化しているのである。
とすれば、製品で独自性を打ち出しやすい環境下でのマーケティング論理に代わり、コモディティ化を前提とした新しいマーケティング論理が求められる。ブランド論の台頭、マスカスタマイゼーションの重視、経験価値マーケティングの評価など、今日のマーケティングの趨勢をみると、いずれもコモディティ化への対応という言葉で整理できそうである。
新しい時代のマーケティング論理が求められている今日、新しい時代のマーケティング・テキストである本書の出版は、まさに時宜にかなっていると思われる。本書が広く読まれることで、最新のマーケティング論理が浸透し、我が国のマーケティングの水準が高度化することを祈っている。そして、多くのマーケティングの支持者や支援者が生まれることを期待している。
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本書の監修作業にあたっては、早稲田大学大学院商学研究科に在籍する阿部いくみ、井上淳子、貴志奈央子、鈴木拓也、須永努、橋田洋一郎の6氏の協力を得た。彼らは春休みと夏休みの大半を返上し、約半年間に及ぶ読み合わせの作業に忍耐強く参加してくれた。大学院生である彼らは、まさに本書がターゲットとする読者層であり、彼らの忌憚のない意見やフレッシュな指摘は本書の随所に活かされている。
最後となったが、適切な翻訳作業を進めてくれた月谷真紀氏、コーディネーター役となり様々なアドバイスをしてくれた株式会社バベルの鈴木由紀子氏、編集の労をお取りいただいたサイト編集室の斉藤英裕氏に対して、この場を借りてお礼申し上げたい。
本書により、多くのマーケティング関係者に何らかの貢献ができたならば、監修者としてこれにまさる慶びはない。
2001年9月12日
恩蔵直人
日本語版への序文
拙著『マーケティング・マネジメント』の最新版がいよいよ日本語に翻訳される運びとなったことは、この上ない喜びである。1982年に私は『Journal of Business Strategy』誌上で「世界一のマーケター、日本」と題した論文を発表している。日本企業の卓越した経営とマーケティング、すでに地歩を築いていたリーダー企業よりもさらに優れた品質の製品を低価格で導入し、次々に市場を勝ち取っていった巧みさに私は敬服していた。製品にたえず改良を重ねながら同時にコストを下げていく。これは勝利の公式である。ゼロ・ディフェクト、たえざる品質改善(「カイゼン」)、小型化、ジャストインタイムの生産方式、標的価格設定など、日本の経営コンセプトは実に見事なものだった。こうしたすばらしいアイデアの大半は、たちまち世界のリーディングカンパニーに採り入れられ、実践されるようになったのである。
現在、日本の企業や経営者たちは、あの工夫と創造性あふれるマーケティングに新たな活力を吹き込む必要に迫られている。本書ではインターネット・マーケティング、カスタマー・リレーションシップ・マーケティング、ワン・トゥ・ワン・マーケティング、差別化、ポジショニング、ブランディングなど、マーケティング戦争を勝ち抜くための新たなコンセプトが提案されている。
今日のマーケターはマーケティングの科学的側面のみならず、技術的な側面においてもいっそう洗練されてきている。マーケティングはいまや情報時代に入ったといえるだろう。マーケティングにおいて他より抜きんでるためには、企業はリアルタイム情報システムを構築し、変化し続けるマーケティング環境をいち早く察知し、それに対応しなければならない。
本書を読み、数多くの優れたマーケティングの事例を知ることで、読者諸氏がマーケティング上の難問に立ち向かう喜びに目覚めてくださることを願ってやまない。
フィリップ・コトラー
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