本書は、将来への希望もなく日々仕事に追われる主人公が、老人のアドバイスに自己変革のアイデアを見いだしていく物語である。それは、唐突に繰り出される老人の言葉とそれを問いただす「私」の会話で展開していく。たとえば老人は「目標を立てるな」という。「私」は、目標がなければ進歩の度合いが測れず、軌道修正もできないと反論する。しかし老人は、斬新なアイデアや商品がなぜ誕生したかを説き明かし、それらが目前の課題に集中した結果であることを指摘。また、世の中は自分が目標を達成するまで待ってはくれないとも言う。そして「遊び感覚でいろいろやって、成り行きを見守る」「明日は今日と違う自分になる、だよ」などのアドバイスをおくる。
試すこと、日々変化が必要であること、偶然を見落としていること…。本書のこうしたメッセージは特別なものではないが、それを痛切に感じさせる語り口が独特である。「多くの人は他人を凌駕する人材になろうとしているけど、それを他人と同じような人間になることで達成しようとしている」などは、自分を振り返らせるのに十分である。
物語仕立てのビジネス啓発書としては「短編」の部類に入る本書。シンプルながら味わいのある1冊である。(棚上 勉)
私の座右の銘である「日々新たなり」は「荀日新、日日新、又日新」(大学)から引用したのであるが、ある意味、そこからの発展形として伝承しているユニ・チャームのDNA(遺伝子)の1つに“変化価値論”というのがある。社員一人ひとりの思考や行動が変化した分だけ、企業に付加価値をもたらすという考え方である。それらを実に様々な教訓と実例を交えて理解を深めさせてくれ、動機づけしてくれるのが本書である。
「きみたちの計画は、一見申し分なかったように見える。(中略)だけどきみたちは何も試さなかったし、よりよいものになってもいかなかった。ライバル会社にとっては、止まったまま動かない標的だったんだ。新たにやってこようとする会社ならどこでも、きみたちの店を訪れ、どういう展開をしているかを見て、それにちょっと工夫を加えてよりよいものに改良できる。きみたちは、つぶされるべくしてつぶされたってことだよ」。こう述べられている章の見出しはこの本の要諦でもある。
それは、「きみたちの事業は、試してみた結果、失敗に終わったんじゃない。試すこと自体が欠落してたんだ」――。
事業を起こし、まがりなりにも新規株式公開を果たすと世間は「成功者」と呼んでくれる。しかしながら過ちは人の常、創業経営者が間違いを起こさないと考えることは傲慢の極みである。それでも私を支えた信念は「正しいと思ったことをやらなかったり、正しいと思ったことを言わなかったりしたら、それは企業人以前に人間として価値があることなのか」ということである。
トライ・アンド・エラーではなくトライ・アンド・サクセスをイメージして、試すことが大切である。PDC(Plan、Do、Check)のDoは毎日できないかもしれないが、Tryなら毎日できる。昨年の仕事納めの日に、当社の社長が本書を若手社員に薦めていたのが聞こえたので、私も早速本書を「試して」みたことをつけ加えておこう。
(ユニ・チャーム会長 高原 慶一朗)
(日経ビジネス 2002/02/25 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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