人格障害という診断の歴史は、50年代のアメリカからはじまったらしい。郊外住宅地における幸せな家庭という神話を押しつけられた子どもたちの多くが、60年代に入ると、社会から脱落したり、薬物中毒や性的犯罪に走ったのだ。そこで、アメリカ精神医学界が彼らに貼りつけたラベルというのが「人格障害」であった。
日本社会では70年代に親から子への虐待殺人が相次ぎ、反対に両親殺害事件も起った。そこへ人格障害の概念が輸入され、広く受け入れられることになったという。なぜかというと、人格障害が家庭や学校などの社会を脅かさず、「一切を、個人の病理へと還元していく方法」であり、多くの人にとって都合がよかったからだ。
著者によれば、人格障害とされるものは実はどれもあいまいで、その症例は、しばしばモラトリアム期の不安や「自分探し」の行動と重なり、即座に精神病と断定することはできない。それなのに「社会全体の安心を目的として、特定の個人を葬り去るために貼りつけられるラベル」として、人格障害は機能してきた。
犯罪を起こすような「異常者」と、自分たちのような「正常者」はちがう、と言い切れるだろうか。著者は、それがそれほど自明なことではないと言っているのだ。(金子 遊)
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